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一撃目

メイドイン俺プレゼンツ、殺し愛第二弾。

相変わらずノリと勢いだけで書いた。

 黒塗りの銃(あいぼう)が射抜かれ、右肩から鮮血が噴出した。

 その光景は最新の液晶テレビと見紛うほど鮮明に網膜に焼きついている。椿の花弁が舞っている様を彷彿させる美しい光景である。

 しかし、その光景を楽しんでいられたのはホンの数瞬に過ぎない。刹那の後に右肩から伝わる電気刺激は脳幹を貫いて頭の中をぐちゃぐちゃにする。

 痛みに悶えそうになる身体に鞭打って傍の物陰に飛び込んだ。

 呼吸は荒く、肩の流血は袖を濡らしていく。すぐさま左の袖を引き裂いて即席の包帯を作ると、ぎこちなく傷口を縛っていく。大分手間取って仕上た割に合わず不細工なそれは、止血するという一点に於いては及第点と言えた。

 「狙撃手(スナイパー)が狙撃されるなんてみっともない話だな。」

 地方都市の摩天楼。その一角で放った自嘲の声は冬の寒空の向こうへ消えていった。




 俺はいきつけのバーでカクテルグラスを傾けながら物思いに耽っていた。既に塞がった右肩をなぞりながら、数ヶ月前のことを思い返す。


 いつも通りの簡単な仕事だったと思っていた。依頼されたのはある男を殺し、ついでにその娘を殺せというものだ。これまでも数多くこなして来たし、これからもこなして行くのだろうと漠然と理解していたが、それが慢心であったのだろうか。


 男を殺すのは楽だった。警備と言っても身の周りに数人いる程度で、遠くから首筋を撃ち抜いてやれば残るのは慌てふためく護衛数名だけとなった。

 残る護衛も残さず仕留め、残すは娘だけだ。


 場所を変え、何も知らぬ令嬢をスコープの中に捉える。そしてその引金を引こうとした瞬間、射抜くような殺気が全身を強張らせた。

 殺意に対する恐怖というものは重要な機能だ。恐怖に駆られて平静を保てないなら問題外だが、恐怖を感じることで危機を逸早く察知できるからだ。

 身を伏せて殺気の元を辿る。標的のいるビルを見ている俺の右後方。

 黒塗りの銃(あいぼう)を構えて振り向くと、スコープの中にありえないものが写り込んだ。

 長い黒髪の女だ。それだけならこの街にだって五万といる。しかし、スコープの中にいるこの女は俺を見ていた。その腕に納まっている狙撃銃のスコープでである。

 俺の手が一瞬硬直する。そのたった一瞬が明暗を分けた。結果、俺は右肩に風穴を開けられることとなった。


 依頼の本命である男の暗殺は成功していた為報酬の八割は懐へ納まったが、俺の胸中は自分を射抜いた女のことで一杯であった。


 不本意な記憶と共にカクテルを呷った。

 グラスが空になると見計らったかのように新しいカクテルが目の前に置かれる。

 見れば俺以外に人はいなく。繁盛しているとはまるでいえなかった。

 それもそのはずで、このバーは裏の仕事を斡旋する施設であり、堅気の人間が足を踏み入れる場所ではないのだ。

 透明感のあるカクテルを口の中で舐め回すように転がしてから嚥下する。炭酸が咽喉を刺激しながら食道へ下りていく。飲みやすい爽やかな喉越しに反して、アルコール度数の高いこのカクテルはお気に入りだった。

 「仕事、どうするんだ。」

 カウンターの奥でグラスを拭きながらマスターが尋ねる。

 カクテルの残りを一気に飲み干してグラスを置いた。

 「暫くは請けない。その前にやる事ができた。」

 俺の返事に抑揚をつけずに「そうか。」とだけ言うと、マスターは飲み終えたグラスを流しに持って行く。

 「また来るよ。」

 代金をカウンターに置いて出ていった。


 考えているのはスコープ越しに見たあの女。

 何時になっても網膜に焼き付いて離れないあの女。

 その幻影を咀嚼するように俺は夜の闇に溶けていった。

ぼちぼち更新していくつもりです。

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