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Absolute Zero 2nd  作者: DoubleS
第二章
9/50

平穏の終わり 1

「それじゃ、何かあったらいつでも連絡していいからね」

「うん、光里も気を付けてね」

 薬局の前で風華は雨野に手を振った。三条家の夕食に招待された雨野は相当上機嫌だった。

雨野を見送ると、霧矢はポケットから筒のようなものを取り出す。


「もう契約主となった私には必要ないから、あんたがこれを使いなさい」


 雨野から受け取った魔力分類器で理津子を覗き込んでみると、確かに風の象徴たる緑色の魔力を放っているのが見えた。魔力分類器とは魔力の属性の区別、魔力の流れの分析をすることができる魔道具だ。魔族や契約主と同じように普通の人間にも魔力が見えるようにするために造られたものだ。

 この道具のせいでここ数日の間はひどい目に遭ったが、人間にとっては便利な道具であることも確かだ。風華を覗き込んでみると、何も魔力をまとっていないが、腕に契約の紋様が刻まれているのが見えた。

「もらったところで、使う機会があるかどうかは微妙だなあ……」

「でも、まあ役に立つ機会がそのうちあるんじゃないかな」

 あくびをしながら霧矢は自分の部屋に戻った。今日のノルマはまだ終わっていない。残した課題に取り組み始める。

 それなりに歯ごたえのある問題に取り組んでいると、携帯電話の着信音が鳴った。液晶画面には見たことのない番号が書かれている。

 訝りながら通話ボタンを押した。

「もしもし?」

「俺だ。昼間は世話になったな。三条霧矢君」

 この抑揚のない声は間違いなく塩沢だ。霧矢は答えた。

「何の用だ。あの写真に関しては手がかりなしだった。まあ、さすがは探偵助手と言ったところだな。僕の携帯番号まで調べ上げているなんて」

「そいつはどうも。ただ、今からちょっと仕事がある。君は今すぐその部屋から出ろ。ただし家の外には出るな」

「は……?」

「理由は後で話そう。君の命が狙われている」


 次の瞬間、霧矢の部屋の窓ガラスが割れた。

「なっ……!」

 冷や汗が背筋を伝う。霧矢は受話器の向こうで舌打ちする声を聞いた。

「今からそいつらを始末する。すべて終わったらまたそっちに会いに行く。それまであの魔族の子たちを守り抜け。死ぬなよ」

 プツンと電話が切れ、電子音が響いた。霧矢は急いで部屋を出る。

「霧君! 今何があった?」

 隣の部屋から霜華と風華が飛び出してくる。霧矢は黙ったまま、二人を引っ張って階段を下りる。敵襲があるなど前代未聞だ。

「霧矢……今、上でガラスが割れたような音が……」

「いいから、じっとしているんだ!」

 居間で固まりながら、塩沢からの連絡を待つ。

「霧君、万が一の時のために……これで私の攻撃用カードのストックは最後だけど」

 霜華が一枚のマジックカードを渡す。爆発攻撃だ。風華は何か渡そうとしたが、ためらって結局何も言わなかった。

 沈黙がしばらく続いた。音らしいものは時計の秒針が時を刻む音だけだった。

 しびれを切らして、霧矢は、

「表の様子を確認してくる。すぐに戻る」

 マジックカードを構え、霧矢は居間を出た。


(……表には……いないな……)

 夜も更けて、表通りの人気はまるでない。薄暗く雪道を照らす切れかかった街灯がジージーという音を立てているのみだ。

 霧矢はあたりを見回す。雪がちらちらと舞う外の様子はいつもの街並みそのものだった。白い息を吐きながら、霧矢は家の中に戻ろうとした。

(………!)

 背後に殺気を感じ、振り向きざまにカードを投げつけた。カードが光り、閃光と爆風があたりを静寂に変わって支配した。

「ぐぁぁぁぁ!」

 黒ずくめの男が吹き飛ばされて電柱に叩きつけられた。手にはナイフが握られている。しかし、敵はそれだけではなかった。

 無言で二人ほど違う方向から現れた。しかし、霧矢の手に武器はもうない。逃げようにも逃げ道はすべて塞がれている。

「お前ら! いったい何なんだ!」

 霧矢は叫ぶが、男たちは何も言わない。無表情で霧矢に詰め寄ってくる。

 霧矢は雪道で滑って尻餅をついてしまう。男たちは刃物を取り出す。


「まったく、外に出るなと言っただろうが……」

 聞き覚えのある声が聞こえ、次の瞬間、パシュパシュという音が聞こえ、男たちは肩を血まみれにして倒れていた。

 目を凝らしてみてみると、サイレンサー付きの拳銃を構えた青年が立っていた。

 ポケットから電話を取り出すと、

「ああ、俺だ。二人……いや、三人か。こいつらを回収してくれ。位置はGPSでわかるな? あとターゲットの家の窓ガラスが割れた。交換用を持ってこい」

 無言のまま、霧矢の方に歩いてくる。

「人の話くらい聞け。まったく……マジックカードで倒すとは、君も相当な無鉄砲なやつだ」

 霧矢の腕をつかみ、助け起こした。

「しかし、君が狙われることになるとは、連中も随分過激な真似をしてくれるものだ。契約主でもない人間を、いくら魔族を狙うとはいえ、殺そうとするなんてな」

 つかつかと肩を撃ち抜いた男に近づき、髪をつかんで顔を見た。

「おい、下衆野郎。テメエはやっぱり、救世の理か?」

 男が答えないので、塩沢は拳銃を男の額に突きつけた。男はヒッと悲鳴を上げる。

「君は家に戻れ、下手したら脳が飛び散るのを見る羽目になるぞ。後から事情説明と、ガラスの修復に行くから待ってろ。グロシーン歓迎なら別だが」

 塩沢が言うので霧矢は仕方なく家に入った。

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