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Absolute Zero 2nd  作者: DoubleS
第一章
8/50

クリスマス前の平穏と不穏 7

「ねえ、お菓子用意してあるんだけど、風華ちゃんって何が好き?」

 晴代と文香の自己紹介も済み、雨野と風華の二人は上川家のテーブルに座っていた。有島は途中の駅で下車していて、この場にはいない。

「……ケーキ…」

 晴代はオッケー! と叫ぶと、冷蔵庫の中からケーキを取り出してくる。それだけでなく、ありったけの菓子類をテーブルの上にばらまく。

「お前な……いくらなんでも限度ってもんがあるだろ……」

「いいの。これくらいはしてあげたいから!」

 嬉しそうな表情で風華はケーキを頬張る。その様子を見るだけで晴代の表情はとろけていく。

 霧矢は本題に入った。

「で、結局、護の件はどうなったんです?」

「大丈夫よ。明日もう一度検査して、異常がなければ、明後日退院。まあ、まだわからないことも多いけど、ひとまずはこれでオッケー」

「検査なんですか?」

 普通、人間は寝たきりで何もしないと一日当たり筋力は二パーセント落ちると言われている。しかし、護はまったくその影響がなく、すぐに立ち上がり歩くことができた。これが医師からしたら驚きらしい。

 護の契約異能は、自分の状態を任意に保ち続ける能力のため、体力を無意識のうちに保持し続けた。そのため一切衰えることなく、普通に行動できたらしい。逆にそれが災いして、時間経過で解ける意識喪失の呪いを無意識のうちに保持し続けてしまったために、今まで眠り続けていた。

「結局、護の契約魔族って誰だったんです?」

 やっぱりそれを聞くか、と雨野は言う。霧矢はええ、とうなずく。

「聞いた話じゃ、闇の魔族でユリア・アイゼンベルグっていうらしいわ。詳しく聞こうとしたんだけど、護もあんまり話そうとしないし、先生に病室から追い出されちゃったしね」

 雨野の表情は喜びと困惑が混ざり合った何とも言い難いものだった。

「私はその名前、どこかで聞いたことがある気がする……」

「風華ちゃんも聞いたことあるけど思い出せないって言ってたのよね」

 姉妹で顔を見合わせて首を傾げた。

「そうそう、風華に聞いておきたいことがある」

 霧矢はケーキにフォークを入れている風華を見る。風華はいかにも憮然とした表情で、

「何?」

 トゲのある声で答えた。霧矢は呆れたが、写真を取り出す。

「この魔族に見覚えはないか? 霜華はどこかで見たことがあると言っていたんだが」

「私は思い出せないのよね……」

 ひったくるようにして写真を受け取ると、風華は疑問の表情を浮かべる。

「……お姉ちゃんと同じ。どこかで見たような気がするけど誰かはわからない」

「手がかり……なしか……」

 ふーむ、と息を吐き、霧矢は腕を組んだ。

 風華は霧矢にはなついていない。どうも霜華が霧矢にくっついているのが気に入らないらしく、冷淡な態度をとっている。

「それにしても、風華ちゃんやっぱりかわいいな~ 小柄で色白だし、おかっぱにしてるところなんてまさに雪ん子って感じだし……」

「雪ん子……」

 風華が少し暗い表情をする。霜華はあちゃあといった表情を浮かべた。

「私は……水じゃない……」

(……え…? もしかして、あたし何かまずいこと言った?)

 明らかに地雷を踏んでしまった。しかし、他の面子は何がまずいことなのかわからないため、キョトンとした表情を浮かべていた。

「風華は純粋な水じゃないんだよ。こんなこと普通はありえないんだけど、父親の風と母親の水の両方を受け継いだ二重属性の持ち主。まあ、それがどうしたって感じだけど、本人は半雪女なのに水の術をあまり使えなくて、風の方を使いこなしていることを気にしてたんだ」

 風華は落ち込んだ表情でうなずいた。

「あと、契約主が会長さんで、風がますます強化されたけど、魔族由来の水はこっちの世界じゃ弱体化して、もっと使いづらいからね……」

「ごめん……あたしいつもこういうことに気が回らなくて……」

「晴代は気にしなくていい。私自身の問題だから。お姉ちゃんの言う通り、大したことじゃないのに悩んでる私がいるだけだから……」

 雨野が風華の背を軽く叩く。

「こっちじゃ、属性なんてあんまり関係ないから。気にしなくてもいいんだよ」

「うん……」

 風華は少し元気づいた様子でうなずいた。



「そうか。手がかりはなしか……」

 駅のクリスマスツリーの下で、夕日の中、塩沢は携帯電話で話していた。

「それで、今はどうなっています?」

「水葉、クリス、涼乃の三人が関東へ、リリアンとエドワードが近畿へ向かっておる」

「人数の懸案は?」

「一人はあきらめたそうだ。やむを得ん」

「了解。では俺はどうしましょうか?」

「何もしなくともよい」

「………わかりました」

「などと言うのは、酷じゃろう。きちんと仕事は用意しておる」

 塩沢は険しい顔で冗談を言った電話の相手の声を聞いた。

「そう、怒るでない。こういう時にはジョークが役に立つものだ」

 表情は見えていないはずなのだが、相手は塩沢のことを知り尽くしている。塩沢はため息をついた。

「で、相川さん。仕事とは?」

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