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Absolute Zero 2nd  作者: DoubleS
第五章
47/50

最高の契約主 7

 霧矢はユリア、塩沢は護、霜華は荷物と、体力に応じた重さのものに持ち替えると、一行は喫茶・毘沙門天に向かって歩き出す。

 田舎町だけあって、あたりは完全に静まり返っている。聖夜の雰囲気としてはぴったりだが、それはそれでさみしい気がする。

「ん………?」

「お、気が付いたか」

 護が目を覚まし、塩沢はその場に立ち止まる。しかし、足はふらついており、まだ一人で歩くことはできないようだった。それでも意識ははっきりしており、自分の状況を心配していた。

「あの……僕は……どうなったんです。それと…ユリアは!」

 霧矢は背負っている女の子を見せる。護は取り乱しかけたが、塩沢が遮った。

「とりあえず、連中は全員倒した。誰も殺さずにな。そして、今は帰り道だ。ユリアはまだ意識を取り戻していないが、質問があるなら受け付けるぞ」

「……ユリアは……助かるんですか?」

 塩沢は目を閉じた。一言だけ「わからない」と答えると、再び目を開き、霜華に発言を促した。魔族に関することは塩沢はあまりよく知らない。霜華の方が詳しい。

「……私も、よくわからない。こんな術知らないし……」

 霜華の残念そうな表情を見て、霧矢は考える。ユリアを助ける何かいい方法はないか……

「少なくとも、このままじゃ、風邪を引くぞ。護、お前の服は血塗れ、穴だらけになってたから捨ててきた。今、お前は上半身裸の上にコートを着てるだけだからな」

「……それよりも、私は、何で護君があんなに攻撃を受けて、今こうやって生きていられるのか聞きたいんだけど」

 拳銃で腹部を撃ち抜かれ、大量の血を流し、さらに何本もの槍で体を貫かれたにもかかわらず、数十分の時間を置くだけで、回復している。マジックカードでこんなに回復することはまずない。不思議としか言いようがなく、通常ではありえない。何かあると考えて間違いない。

「僕の契約異能。マジックカードの回復を何度も繰り返させた。少しずつの回復でも、何回も繰り返せば、全快することもできる」

 一回のマジックカードの回復量は微々たるものだ。しかし、その微々たるものでも、何回も繰り返せば、出血多量の大けがでも時間を置けば回復することができる。ただし、外傷の治療には体力の消耗も伴う。そのため、肉体の疲労が限度に達してしまい、護は意識を失ってしまったというわけだ。

「君の契約異能が、身体の状態継続で本当にラッキーだったとしか言いようがないな。君が戦う様子を俺は見ていないが、よく頑張った。誇れることだ」

 塩沢は護に称賛の辞を向けるが、護の耳にそんなことは入っていなかった。今はある一人の少女のことが一番心配であって、自分の身など大した問題ではなかったのだから。

「ユリア……」

 霧矢の背中で彼女は眠っている。死んだような目は閉じられており、今、彼女がどんな状態にあるのかは誰にもわからない。

「とりあえず、会長の契約異能を試してみればいいんじゃないか? ユリアは土じゃないから、会長の癒しの風なら何とかなるかもしれない」

「おお、霧君。冴えてる。確かに、会長さんのあれなら何とかなるかもしれない」

 護は首を傾げる。にわかには信じられないといった表情を浮かべていた。

「姉さんの契約異能…って僕を起こした、あれのこと?」

 霜華はうなずく。彼女の解呪は対象者の属性が土以外ならば、どんな属性の呪いでも通用する万能と言ってもいい能力だ。おそらく、回復系の契約異能では最高水準の実用性のあるものと言っても過言ではないだろう。

「きっと、護君のお姉さんなら何とかしてくれるよ! だから安心して、帰ろう。パーティの続きが待ってるから!」

 粉雪のちらつく中、護は塩沢につかまるようにして歩き出した。次の交差点を曲がれば、喫茶・毘沙門天に着く。黙々と歩いていると、突然、人の声が聞こえた。


「ギャァァァァ! 何者だ、こいつ! バケモンだ!」

「オラァ! さっさと帰りなさい。そして、二度と来るんじゃないわよ!」

 聞き慣れた声だ。霧矢は安心して息を吐いた。日常は帰ってきた。平和ではないけれど、それが霧矢の日常なのだから。

 ゆっくりと角を曲がると、そこには雪道に倒れ伏した不審者と、暴力会長が立っていた。

「ただ今戻りました。会長」

 パンパンと手を払いながら、彼女は振り向く。塩沢の肩を借りている護の方に歩いてくる。

「無事、とはいかなかったみたいね」

 穏やかな表情で雨野は弟の顔を見ていた。眠ってまったく何もしなかった二年近くの時間でも、彼は少し成長していた。それは嬉しいことだと思う。

「姉さん……いつから、そんなに喧嘩が強くなったんだ……」

 霧矢は護の言葉に反応する。信じがたい言葉だった。この言葉が意味することは、雨野の暴力的な傾向は元からのものではなく、この二年間で急激に身につけたものであるということを意味していたからだ。

「……まあ、あんたが倒れてから、いろいろ、やったらこれくらい強くなったのよ」

 雨野は適当に話を切った。しかし、霧矢は信じられず、まばたきをしていた。人間とは二年弱という短い時間の中で、普通の女の子がそこまで強くなれるものなのか。

「それよりも、その子が、ユリア・アイゼンベルグ?」

 一同うなずく。雨野はとりあえず、何も言わずに、店の中に戻った。霧矢たちもそれに続く。

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