表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Absolute Zero 2nd  作者: DoubleS
第五章
41/50

最高の契約主 1

 霜華の放った一言に、トマスはピクリと動く。先ほどまでの余裕の表情は変わっていないものの、本人から出ている空気というものが変わるのを感じた。

「……何だと、ユリアの契約主……?」

「この、雨野護がね。このまま死んだらどうなるか、それくらいわかるんじゃない」

 血だまりが広がっていく。もう、護に意識があるのかどうかさえ定かではない。霧矢は回復のマジックカードを使う機会をうかがっているが、その機会はなかなか訪れない。

「この実験が失敗しようものなら、あなたは居場所を失うんじゃないかしらね。ご愁傷様」

 トマスは歯ぎしりする。カプセルの中の娘とその契約主を交互に見ながら、苦々しい表情を浮かべた。

「とりあえず、私たちは回復のマジックカードを一枚だけ持ってる。それを彼に使うことだけは、オーケーしてくれない。お互いにメリットのある話だと思うけど。カード一枚じゃ戦えるほどにまでは回復しないし」

 舌打ちすると、トマスは渋々認める意志を示した。霧矢に目で護を治療しろと合図する。霧矢はカードを取り出すと、護の傷口にかざす。

 カードは光となって消滅する。そのまま、護の傷口に吸い込まれるように消え、出血が止まった。しかし、彼は相当血を流していた。貧血でとても動ける状態ではないだろう。

「離れて元の居場所に戻れ」

 霧矢は力砲を構えながら、ゆっくりと先ほどの位置に戻る。いずれにしても、トマスに護は殺せないという時点でこちらは強みがある。

「とりあえず、話だけでも聞かせてもらおうか。頭ぶち抜かれたくなかったらな。殺せない人質なんてあってないものだしな」

「乱暴だな。そして愚かだ。私が君たちを潰すことなど、どれほど容易いことか」

 ハッタリではなく、本当にそう思って言っているのだとは理解できた。彼に勝てる自信がなければ、この二対一の状況下でここまで堂々としていられるわけがない。

 もっとも、誰も殺さないという縛りを解けば、あのアブソリュート・ゼロならこんな男を瞬殺するくらい朝飯前だろうが、霧矢と護も巻き込まれるし、それは霜華のポリシーにも反する。

「知るか、とりあえず、この魔力変換実験とやらは何なのか。答えてもらおうか」

 少しの恐れとともに、霧矢は啖呵を切る。力砲を構え、怒りとともにトマスをにらみつける。

「答える必要はない。君たちの低能な頭ではとても理解などできんからな」

 霧矢は力砲のトリガーを引く。水の魔力の矢が飛び出し、トマスの後ろの扉が破壊される。

「逆に私は、君の武器について詳しく知りたいと思うぞ。そんな強力な銃を片手で扱い、銃声もしないなど、どんな仕組みになっておるのかね。マジックアイテムであることは間違いないが、そんなものに出会ったことは今までにないからな」

 興味を浮かべながら、力砲を眺める。彼が力砲の存在を知らないのも無理はない。もともと、霜華の父親が趣味で作ったものであって、同じものはこの世界に二つと存在しない。契約主でもない人間向けの武器など、魔族にとってはガラクタでしかない。

「こいつは、特製だ。原理不明、世界に一つしかない。しかし、そんなことはどうでもいい。さっさと僕の質問に答えろ。さっきからはぐらかしてばっかりだぞ」

「君が一つ答えたら私も答えることとしよう。それがフェアというものだ」

 不敵にニヤリと笑う。自分の娘をこんな実験に供する人間の口から出されたというのでは、フェアという単語に失礼だ。

「こいつに関しては答えたぞ。次はお前が答えろ」

 口を歪めると「いいだろう」と見下すような声で話し始めた。

 この実験は、救世の理の魔族部門が行っている実験の中ではあまり重要視されていないが、この実験が成功すれば間違いなく大きな進歩になる。

 魔族の体内に流れ込んだ契約主の魔力を無理やり暴走させ、瘴気に変える。周囲にいる契約主と魔族の間に作用し、ダメージを与えるという生体兵器を研究していたのだ。

 そして、その魔力を瘴気に変える触媒として最適だったのが、ユリア・アイゼンベルグだった。今、その実験が現在進行形で行われている。非殺傷目的で、一帯の契約主と契約魔族の動きを封じるという画期的な生体兵器が今ここに完成しようとしている。

「今、私はとても良い気分だ。ここに邪魔者がいるとはいえ、私の研究の成果がまさに実現されようとしているのだからな」

 両手を広げ、天を仰ぐように笑う。霜華は氷の矢を撃ち込んだが、魔力の防壁を展開され防がれた。霧矢は力砲を構えているが、これは威力が強すぎるため、運が悪ければ急所に命中してそのまま相手を意味もなく殺してしまうことになる。

 霜華との約束は破りたくない。たとえどんな外道であろうとも、この手で直接手に掛けたりはしないと決めたのだから。

「お前の研究は失敗だ。僕たちがいるかぎりな!」

 霧矢は制御装置らしきものに力砲を向け、引き金を引こうとするが、トマスは笑い出した。霧矢は振り向く。

「確かに、私はそれを壊されては困る。その時点で実験は失敗だ。しかし、君たちも同じだ。きちんとしたプロセスを踏んで装置を停止させなければ、魔力が暴走し、素体は死に至る。これがどういうことか、わかるだろう」

 霧矢は歯噛みする。死んだような目でカプセルの中に入っているが、ユリアは死んでいるわけではない。これで万が一、死んでしまったらトマスを殺すよりも後味が悪い。

 つまり、お互いに動けないのだ。もし、ユリアが死亡したり、実験が失敗に終わったら、トマスも護を生かしておく理由はない。堂々と殺しにかかるだろう。そして、こちらも二人が死亡した場合、もう手加減する必要はない。相手を殺すかどうかは別として、本気の戦いの火ぶたが切って落とされるだろう。

 ただし、殺す殺さない以前に、護もユリアも死なせるわけにはいかない。霧矢は力砲を強く握る。霜華と二人でトマスを仕留める態勢に入る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ