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Absolute Zero 2nd  作者: DoubleS
第四章
38/50

愛された少年と救われぬ少女 8

 白い息を吐きながら、三人はスキー場の外れにある、寂れたリゾートマンションのような建物の前に立っていた。禍々しい魔力が強まっているのを感じる。バブル期に建てられたが、バブル崩壊のあおりを受けて、建築途中で放棄されたもので、マンションにしては小さく、別荘としては大きな建物だが、まわりからは見えにくいところにある。そのため、秘密基地にするには絶好の場所だ。人目を避けて、何かよくないことをするには、適した場所だと言える。

 森の奥にあり、雪に閉ざされる冬と、深緑に覆い尽くされる夏は外からはまず見えない。懐中電灯で暗くなった森を照らしながら、霧矢たちは木陰に隠れながら白い息を吐く。

「……正面突破するのは危険だろうな。裏口か何か入れそうなところはないかな…」

 あの建物のセキュリティがどれほどのものかは知らないが、警報を鳴らされて取り囲まれるような事態になったら終わりだ。

 塩沢が言っていた通り、迎え撃つのと殴り込みをかけるのは訳が違うと自覚する。

「とりあえず、後ろに回り込んだほうがいいか……」

 右手で力砲、左手で魔力分類器を構えながら、霧矢は正面の門を筒を通して覗く。高性能だけあって、夜間でも暗視スコープのように対象を確認できた。正面の大きな門の隙間からは澱んだ魔力の流れが漏れ出している。

「なあ、霜華、こいつで玄関をぶっ壊したらどうだろう……」

 力砲でドアノブに狙いを定めながら、霧矢は後ろの霜華に問いかける。どれほどのセキュリティなのか、ドアを壊してみればわかるだろう。霜華もやってみる価値はあると答えた。

 目測で距離は五十メートルほど、材質は木。障害物はない。ライフル銃並の威力と射程を持つ霧矢の攻撃ならば、容易に破壊できる。

 霧矢は魔力分類器を通して暗闇の中、視界を確保し、引き金を引いた。

 強烈な水の魔力を宿した青い光の矢が銃口から飛び出し、一直線に対象に向かって飛んでいく。そのまま、扉に穴をあけた。

 霧矢は次々と連射する。やがて、扉は穴だらけになり、穴からは澱んだ魔力が噴き出ていた。

「霜華、護、これを見てどう思う」

 誰も出てくる気配はなく、中は無人同然の様相を呈していた。本来ならば、警報が鳴るか、中から出てくるはずだ。しかし、しばらく待っても誰も出てこない。

「……人の魔力の気配もない。魔族か契約主が中にいる可能性はあるけど……」

「乗り込んでみます?」

 しばらく沈黙が続いたが、霧矢が首を縦に振ると、二人もうなずいた。霧矢は両手で力砲を構え直すと、一気に走り出す。

 派手な音を立ててと扉を蹴り破ると、嫌な空気はより強まっている。背筋を撫で上げるような気持ちの悪い虫唾の走る空気だ。霜華も護も不愉快な表情をしている。

 迎賓館のような広々としたホールは薄暗く視界も良くない。背後から攻撃されたら終わりだ。

「ここまで広いと……探しづらい……」

 護が悔しそうな声を出す。魔力だけを頼りに探っていかなければならないが、全方向から漂ってくる得体の知れない空気だけを手掛かりにするなど、かなりの無理難題だ。

「それでも探すぞ。手当たり次第に」

 懐中電灯のスイッチを入れると、霧矢はいつでも力砲を撃てる体勢を取りながら歩き出す。三人とも周囲に警戒しながら白い息を吐いていた。

 ゆっくりと一階、二階と各部屋を探していくが、人影すらない。明らかにおかしな魔力が充満しているというのに、どうしたことだろうか。罠という可能性もなくはない。

(………地下室か?)

 地上部分の部屋はすべて探した。しかし、いるのはネズミやクモだけで、人間らしき影はまったくない。しかし、澱んだ魔力は衰えるどころか、ますます強まっている。

 今こうしている間にも、みんなは確実に弱っていく。どうあれ、長時間苦しませ続けるのはまずい。すぐにでも元凶を取り除きたいのに、破壊すべきターゲットが何なのかさえもいまだにはっきりしていない。

「どこかに地下への入り口があるはずだよ。探してみよう」

 薄暗いエントランスホールの中、霜華は腕組みしながら二人を見る。しかし、霧矢と護の表情が変わるのを見て、固まった。

「伏せろ!」

 霧矢が銃口を霜華に向ける。霜華は慌てて前方に倒れると、青い魔力の矢が飛び出す。そのまま獣の鳴き声のような断末魔が聞こえ、霜華はそちらに振り向いた。

「立てるか?」

 右手を差し出し、霜華を助け起こすと、霧矢は撃ち抜いた物体を見る。

「何です……これ……犬…?」

 動物のように見える「それ」は頭部を撃ち抜かれ動かなくなっていた。しかし、それは明らかに霧矢や護の知っている動物ではない。体つきは犬だが、サイズは虎、目は猫のように細くくちばしまである。明らかに地球上に存在する生物ではない。少なくともそんな生物の存在は確認されていない。

「……魔生体といって魔族が自分の魔力で生み出す道具のようなもの、自分の意志は持たず、命令通りに動く。でも作るときにあり得ないほど魔力を消耗するから、こっちの世界じゃ基本そんな術は使わないはずだけど……」

 服の汚れを払いながら、霜華は顔をしかめる。霧矢は安心したように息を吐いていた。二人は疑問の表情を浮かべると、霧矢は笑顔で答えた。

「だって、早速、誰も殺さないというのをダメにしてしまったのかと思ってさ。単なる自分の意志を持たないロボットなら、それは適用外だからな」

「……誰も殺さない、か」

 霜華は満足そうに微笑むと、光を放ちながら消えていく魔生体に手を振る。そのまま、魔力は雲散霧消し、あたりは再び暗くなった。

「でも、これでこの建物には敵がいるってことがはっきりしたってことで…」

 全員の顔つきが鋭くなる。護の言う通り、狙われたということでこの洋館には確実に誰かが潜んでいる。そいつを捕まえて、ユリアの居所を吐かせなければならない。

「しかし、どこに隠し扉みたいのがあるんだろう」

 護が首を傾げるが、霧矢も同意見だった。部屋という部屋はくまなく探したのに、それらしいものは見当たらない。

 適当にそこらにあるものを力砲で撃ち抜いてみるが、静まり返った空間は変化を見せない。

「むしろ、私たちを誘ってるのかな?」

「知ったことか、だったらここら一帯を完璧にぶっ壊してやる。むこうから出てこい」

 力砲をそこら構わずに乱射すると、もともと長らく放置され埃だらけになっていたホールは、どんどん破壊されていく。霜華も氷の矢を壁に向かって打ち込んでいく。

「おっと、ついに来たようだぜ」

 さまざまな魔生体が奥の隠し戸をから飛び出してくる。群れて出てきた魔生体を霧矢と霜華は次々となぎ倒していく。護もそれなりに戦えるようで、魔生体を蹴り飛ばしたりして戦っている。全員の掛け声とともに、隠し戸に向かって突進した。

 すべての魔生体を倒し、隠し戸の中に入る。地下への階段は電気がついており、足元に気を付ける必要はない。間違いなくこの下に敵がいる。

 退路を保つために、霧矢は隠し戸を扉と壁を固定する金具ごと破壊する。そのまま支えるものをなくした板は、派手な音を立てて倒れ、床の埃を舞い上げた。

「さて、ここからが本番だ。バカな真似をやめさせて、ユリアを助け出さないとな」

 もう侵入者の存在はバレバレになっている。これ以上、隠密行動の真似ごとなどしても無駄というものだ。かくなる上は、思い切り駆けだした方が時間の節約として有効だろう。

 ドタドタと階段を駆け下りると、一気に秘密研究所のようなスペースになった。無機的な城に覆われた空間。廃屋同然の上とは変わって映画に出てくるような研究所のような場所だった。

 魔力分類器を取り出すと、この廊下のあたりは澱んだ魔力がない。おそらく、魔力を密閉して、換気口などを通して地上に直接放出しているのだろう。

 それでも、人気はなく三人ともお互いに顔を見合わせる。上の階であれほど大暴れしたというのに、まったく敵らしい敵が現れてこなかった。魔生体は別としてだが。

「こんな実験設備、いつの間に作りやがったんだろうな。生物化学兵器でも作る気か?」

 長い廊下の突きあたりまで行くと、澱んだ魔力がわずかではあるが、扉の隙間から漏れ出てくるのが見えた。

「ユリア! いるのか!? そこなんだな!」

 護が中を確かめもせずに、鋼鉄製のドアを横に滑らせる。

 そこには。

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