愛された少年と救われぬ少女 4
「塩沢! 助けてくれ! 連中に襲われた!」
店内は貸し切り状態となっており、メンバーはすでに全員揃っていた。理津子と晴代の母親は厨房にいるのか、ここにはいなかったが、護が一番いい席に座っていた。
「今の爆発音は、君が起こしたのか? それに、その銃はどうした」
塩沢が怪訝な表情を浮かべて、息を切らしている霧矢を見た。次の瞬間、近所の野次馬が先ほどまで霧矢が戦っていた場所に出てくる。
「塩沢と霜華だけ来てくれ。会長は……留守番お願いします」
銃をポケットにしまうと、霧矢は二人を連れて、店の外に出る。店の戸を開けると、炎上しながらもくもくと黒煙を上げるワゴン車だったものがそこにあった。
「君はまったく……なんてことをしでかしてくれたんだ……隠蔽が面倒だろう……」
塩沢が呆れていると、炎上している車の脇に立っていた男が、霧矢と霜華に気付く。しかし、野次馬が数人いるので、手を出すことはできず、そのままどこへともなく走り去っていった。
浦沼商店街のご近所の皆様は、必死で水をかけている。霧矢は、やり過ぎたという思いとともに、迷惑をかけて申し訳ありませんと、心の中で詫びていた。
「霧君がやったの?」
霜華が半ば哀れみ、半ば責めるような視線を霧矢に向けた。自分は多分悪くないと思いながらも、霧矢は「申し訳ありません」と言ってしまう。
「なんてことしてくれたのよ! 一歩間違えれば大火事よ! そもそもどうやってやったの!?」
「すんません。ほんと。でも、あいつらが悪いんです! 問答無用で僕を襲ってきたあいつらが悪いんです。僕は正当防衛なんです。ほんと!」
なぜか知らないが、ただ謝りまくっている霧矢を見て、塩沢は「戻るぞ」とだけ言い残すと、店に戻っていった。霧矢と霜華も一緒に店の中に入る。
消防車とパトカーのサイレンが遠くから近寄ってくる音を聞きながら、霧矢は暗い気持ちで座っていた。テーブルの全員が気まずい雰囲気で霧矢を見ていた。
「さて、せっかくのお祝いの場だけど、この男には別室で事情聴取をする必要があるようね。というわけで、霜華ちゃんと塩沢、行ってらっしゃい」
雨野が毒気たっぷりの口調を霧矢に向ける。塩沢と霜華が霧矢の両肩の関節をきっちり極めると、そのまま、上川家の居間に引きずっていく。
霧矢も、できればこのことはあまり大っぴらにしたくはないので好都合だった。抵抗せずに引きずられていく。リビングのドアを閉め、塩沢は窓のカーテンを閉める。真剣な顔つきに戻ると、霧矢にすべてを話すように言った。
「まず、どうやってワゴン車を爆破したのか答えてもらおうか。マジックカードじゃ車一台を炎上させるほどの威力は出ないはずだ。何を使った?」
霧矢はポケットにしまった銃を取り出す。もはや銃と言えるのかどうかも怪しい品だが、外見は銃そのものであってそう考えるほかない。
「ちょっと、これ風華のおもちゃじゃない。何で霧君が持ってるのよ」
「これが、おもちゃだとぉ!? 襖は貫通したし、軽く車のフロントガラスが割れたぞ! しかも、ガソリンのタンクだって撃ち抜けたし、どんなおもちゃを持ってんだ!」
霧矢が憤慨すると、霜華はありえないといった表情を浮かべる。霧矢はそもそもこれが何なのか尋ねると、霜華は普通に答える。
「それは力砲、ルーンブラスターといって、自分の放出している魔力の一部を弾丸に変えて撃ち出すもの。でも、当たっても少し痛いと感じるくらいでまずケガなんてしないはずだし、ましてや車みたいに分厚い金属板を撃ち抜くなんて無理に決まってるよ」
「嘘つけ! これで人を殺すくらい多分普通にできるぞ!」
しばらく、腕組みをして考え込んでいたが、やがて、思い出したように霜華は答えた。
「そういえば、それは、契約主でない人間のためのものだったと思う」
霜華曰く、力砲は異能を持たない一般の人間のためにつくったものだと、昔、父親が語っていたらしい。自らの放出している魔力の一部を銃身に流し込み射出する武器で、強さはその使用者の放出している魔力の量に比例する。
霧矢が外部に放出している魔力は他の人間と比べても桁外れに多く、そのため、魔力を放出しない風華が扱ってもエアガンほどの威力しかない「それ」は、霧矢が使うことで狙撃用ライフル並みの威力になってしまったらしい。
そもそも、その桁外れの魔力のせいで、連中に見つかってしまったわけだが。
「これ、お前の親父だと思うんだが、名前が刻まれてるけど」
銃身の脇の刻印を見せると、霜華は少し複雑な表情を見せたのち、口を開いた。
「北原凛次郎、私と風華の父親よ。風の属性を持つ人間。その力砲を含む魔道具の開発者」
話が脱線したので、塩沢がもとに戻した。
「とりあえず、その拳銃もどきで車を壊したのはわかった。だが、君はつい数十分前に俺に電話してきたな。気になることでもあったんじゃないのか」
霧矢ははっとして、我に返る。確実に伝えておかなければならないことが二つもある。