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Absolute Zero 2nd  作者: DoubleS
第四章
33/50

愛された少年と救われぬ少女 3

 家に戻ると、理津子はいなかった。こたつの上に置いてあるメモを見ると「喫茶・毘沙門天にいます」とだけ書かれていた。スキー用具を押入れにしまうと、霧矢は自分の部屋から出た。

 霜華と風華の部屋を見ると、戸が開けっ放しになっていた。

 戸を閉めようと歩くと、中は霜華のスペースは片付いているものの、風華のスペースは滅茶苦茶になっている。わけのわからないマジックアイテムのようなものが散乱していた。

 マジックアイテムのうちの一つ、古めかしいデザインのオートマチック拳銃のようなものが転がっていたので拾い上げてみると、底面にあるはずのマガジンがない。

(……弾、込められないだろう、これじゃ)

 軽く構えて、襖を狙って引き金を引く。次の瞬間、霧矢は銃を握る右手に何かが走り抜けるのを感じた。そのまま、手を走り抜けたそれは、銃口から襖へ向かって飛んでいく。

 部屋の襖を貫通し、小さな穴を作ったそれは、廊下の壁にも穴をあけた。

 霧矢は多少焦りながら、銃を眺めた。銃身には、RINJIROH KITAHARA という名前が刻まれている。

 北原という苗字から、おそらくこれは霜華の父親のものだろう。あたりが暗くなってくる中、霧矢は部屋を出ようとする。しかし、その時、外から声が聞こえた。


「それでよ。今のところどうなんだ?」

「試験運用さ。ここで実験するらしい。魔力変換の触媒として……を使って、ここら一帯の契約主と魔族をいぶりだすんだよ……」

「それで出てきた連中どもを、ゲットするってわけか…?」

「ここんとこ負け続きだしな。噂じゃ、昨日芹島が返り討ちに遭ったって話だし……あれ以上適した素体もないからな……」

 霧矢は部屋のカーテンを開けると外を見た。ワゴン車のそばに男が二人立っているのが、見えた。少なくとも、芹島という言葉には聞き覚えがあるし、それ以前に、契約主と魔族のことを知っている人間など限られている。

 霧矢は銃を握りしめると、裏口からこっそり家を出ようとする。それに、霧矢をさらに焦らせていたのは、この二人の格好が、今までのチンピラとは違って、作業服を着ていたということだ。どうも危険な香りがする。

「とりあえず、俺たちはここの三条霧矢とかを捕まえればいいんだろう。あのアホみたいに超強大な水の魔力の保持者をな」

 裏口の戸を閉めようとした霧矢は固まる。確かに男は自分の名前を口にした。

(……こいつはまずい…)

 できるだけ音を立てないようにしながら、霧矢はゆっくりと歩き出す。しかし、残念なことに、表の通りには人がいない。田舎町の悲しき宿命で、これでは連中も遠慮する必要がない。

 距離をとったのを確認すると、霧矢は息を吐いた。このまま毘沙門天に駆け込んで、塩沢と霜華に助けを求めればいい。結局は他力本願だが、中途半端なエゴイストにはお似合いだ。

 そっと歩き出そうとすると、大声が聞こえる。

「いたぞ! あの桁外れな水の魔力、間違いない! 三条霧矢だ」

 霧矢は条件反射的に走り出す。霧矢の俊足なら逃げ切れる。そう思うと、数百メートルのところにある喫茶・毘沙門天の方向に向かって必死で駆ける。

「待て! 止まれ!」

 嫌な音が聞こえ、後ろを振り向くと、ワゴン車が自分に向かって突進してくる。霧矢は立ち止まってはいけないのに立ち止まってしまう。

 霧矢の直前で車は止まり、男が降りてくる。霧矢は正気に戻り再び走り出すが、回り込んできた男に挟まれてしまう。

 霧矢は銃を男に向ける。しかし、男は嘲笑うだけだった。

「古めかしいからって偽物だと思うなよ。本物だからな!」

 苛立った霧矢はワゴン車のタイヤに向けて引き金を引いた。タイヤから空気の漏れる音が聞こえると、霧矢は続いてフロントガラスを撃ち抜く。

 男たちは顔を歪める。三条霧矢という人間を捕獲対象ではなく敵として認識した瞬間だった。

 しばらくにらみ合いが続いたが、霧矢は動いた。銃口をワゴン車に向け、容赦なく銃弾を撃ち込んでいく。弾倉を必要としない銃なのだから、実質的に弾数は無制限だ。また、火薬も使用しないので、銃声はせず、車のボディに当たるガンゴンガンという金属音だけが響いていた。

 ついに、ハチの巣になったワゴン車がバチバチと火花を上げ始める。その瞬間、霧矢は走り出した。

 男たちは霧矢を捕まえようとするが、霧矢は男たちの足元に銃弾を撃ち込む。ひるんだすきを見て、霧矢は突っ走り続けた。

 後ろの方で、ボン! という爆発音が聞こえるが、霧矢はそのまま、喫茶・毘沙門天のドアの鈴を鳴らした。

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