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Absolute Zero 2nd  作者: DoubleS
第三章
28/50

師走騒動は終わらない 8

「メールの着拒リストに西村龍太…と」

 居間でこたつに入りながら、霧矢は携帯電話を操作していた。日はもう完全に暮れ、あたりはもう真っ暗になっていたが、雪は相変わらず降り続いている。塩沢が問題は解決したと、連絡していたようで、晴代と雨野はもう帰っており、風華と理津子しか家にはいなかった。

「…俺はこれで失礼する。彼を見張っていなければならないのでね……」

 塩沢は腰を上げると、霧矢たちに頭を下げ、家から出て行った。何だかんだで、塩沢はここ数日間、西村とセイスを見張ることにしたらしい。本人としては不本意だったのだが、上司である相川がそうすべきであるという意見を述べた以上、従わざるを得なかった。

「ああ……疲れた……」

 こたつの上に突っ伏すと、向かいの壁にワックスのかけられた霧矢のスキー板が立てかけられているのを見ることができた。

(……これだけのことがあっても、まだやる気なのか…)

 家に帰った霧矢に、風華が晴代から預かったという伝言は、明日、必ずスキーをするということだった。冬休み課題などどこ吹く風、その能天気さにはほとほと呆れを通り越して、感心するしかなかった。

 今頃西村は何をしているだろうか。おそらく、セイスの果てない食欲で、財布がきっと空になっているだろう。西村には悪いことをしたとは思っていないが、西村家の家計には悪いことをしてしまった気がする。西村家のエンゲル係数はとんでもないことになるだろう。まあ、西村がその分を切り詰めれば問題ないはずだし、西村家はコメ農家なので、何とかなるはず。

 霜華も、霧矢と同様の心配をしていた。二人一緒にこたつでお茶を飲みながら、三条家の天皇誕生日は暮れていった。



「ちょっと! どういうこと!」

「だから、お前の分担だった殺害予定の一人、芹島夏雄は俺が始末した。異能の力じゃないが、それはもう過ぎた話だ。だから、人数不足でやめるはずだったターゲット、例のあいつをやってくれ。嫌なら、もう戻ってこい。とりあえず、もうお前のターゲットはこの世にいない」

 電話越しに、塩沢は東京にいる事務所のメンバーと話していた。

「そして、芹島の契約魔族は、あの事件とは無関係。今は新しい契約主を得た」

 ふんふん、と相手は軽い返事をする。しかし、相手の興味はそこではない。

「…しかし、がら空きの事務所を狙ったなんて……」

 悔しそうな声が聞こえてくる。塩沢は話を続ける。

「とりあえず、事件の詳細はまたあとで送ってちょうだい。今は、ターゲット変更。それでいいのね?」

 塩沢は「ああ」とだけ答えると押し黙った。相手の声のトーンが変わる。

「ねえ、雅史。やっぱり、雅史も復讐に参加したいと思ってたんでしょ?」

「……なぜそう思う。お前らしくもない」

「八年前の事件、リィさんの弟、雅史の後輩、唯一の異能を持たないメンバー、目的は異能による異能を使った犯罪への天誅」

 電話の相手から示された単語の羅列を聞くと、塩沢は無表情のまま息を吐く。十分知っているくせに、いちいち聞き直してくるところが気に入らない。

「雅史も、昔みたいに私と一緒に組んで動けばよかったのに。サポートだったら異能なしでもいけたはずでしょ。独立してからつれないんだから」

「俺がいなかったら、がら空きの事務所は潰れていた。相川さんが倒されるとは思わないが、被害はガソリンタンク爆発じゃ済まなかったはずだ」

 あの事件はもういい。彼のことももういい。失われた命は戻らない。今は復讐よりも、守ることの方を優先しなければならない。それが自分の務めだ。

「…他人のことを心配する前に、カード使いは、カード使いの役割を果たせ。水葉」

 水葉と呼ばれた電話の相手は、憂いの混じった相槌を打つ。塩沢は続けた。

「俺は芹島の命を絶っただけでたくさんだ。大してうれしくもないが、天からの少し早いクリスマスプレゼントを十分に堪能した」


「塩沢雅史の目的は、まだまだその先にある」

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