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Absolute Zero 2nd  作者: DoubleS
第三章
24/50

師走騒動は終わらない 4

「おなか減った……」

 人気のない温泉街の足湯コーナーで少女はくたびれた様子で横たわっていた。いや、くたびれているのではなく、衰弱して動けないのだ。金髪の流れるような髪の少女は、こんな田舎町にいれば確実に目立つのだが、大雪のせいで町に誰一人として通行人はいない。さらに運の悪いことに、この場所は通りからは死角になっており見えない。しかも、横たわっている場所は旅館の中からも見えない位置にあるらしく、誰も声をかけてくれない。

 少女は思った。今自分はピンチだと。

 いきなり契約が解除されてしまい、一気に魔力切れになってしまった。このまま新たな契約主が見つからなければ、自分は力尽きる。なぜ契約が解けたのかは大体予想がつくが、今は自分の身を心配することが先だった。

「誰か……私と……契約してくれませんか……あと、食べるものください……」

 腹の虫が鳴っているが、田舎町は無情だった。少女は半泣きになりながら、九〇度傾いた景色を眺めていた。


 ゆっくりとワゴン車が通りを走り抜けていくが、通りからはここは見えない。助けを求めても、そのまま走り去ってしまう。

(このままじゃまずいかも……餓死しちゃう……)



「まったく、どうして、俺が出会う女はとことんじゃじゃ馬なんだか……」

「あんただって、裏世界の人間のくせに」

 ぶつぶつと不満を言いながら、塩沢はチンピラの男三人を簀巻きにすると、ワゴン車に放りこんでいく。同伴していた雨野は風華と話し込んでいる。

「霧矢君。君は、こんなアレな女の子がまわりに多くてさぞかし苦労しているだろうな」

 ヘリで降り立った塩沢は、万札一束と拳銃を使って、ワゴン車一台を借り切ってここまで飛ばしてきたらしい。かかった時間は、彼が宣言した通り、ちょうど三十分だった。これがプロフェッショナルかと感心していると、ワゴン車から、初老の男性が降りてきた。白髪交じりの髪で物腰の柔らかそうな印象を受け、塩沢とは対照的だった。

「初めまして、私は相川昭二。うわさは聞いとるよ。三条霧矢君、北原霜華君に上川晴代君」

 霧矢は戸惑いながら会釈をする。魔力分類器で覗いてみても、普通の人間だった。どう考えても、彼が、塩沢のボス。裏世界の有力者などとは思えなかった。どこかの町工場の社長といった感じだった。

「いろいろ話はしたいのだが、彼らを運ばねばならん。話は雅史に任せる」

 そのまま、再びワゴン車に乗り込むと、車は商店街から出て行った。全員呆気にとられた様子で車を見送っていた。

「ところで、さっき、例の写真のやつが見つかったと言っていなかったか?」

 霧矢は、ああ、と思い出す。

「足湯コーナーに置き去りにしたままだ。拾ってこなきゃ」

 時計を見ると、西村が着くまでまだ結構時間がある。下手をすれば魔力切れが進行して手遅れになるかもしれない。

「霧矢君と霜華君だけついてきてくれ。その他はここで待っていることだ」

 塩沢のベルトには相変わらず金属製のパートナーの入ったケースが控えている。霧矢は背後に警戒しながら塩沢を足湯コーナーまで案内する。

「しかし、どうして、襲撃に魔族がいなかったのか、不思議なのだが、心当たりはないか?」

「多分、あの魔族だと思うけどな。契約もしていない魔族を送り込むというのも妙な話だけど」

 塩沢は大体予想はついた。話では魔力切れを起こしかけているという。契約が解けてしまう原因は基本的に決まっている。その原因の一つに塩沢は心当たりがある。

(……あいつの契約魔族か)

 つい一時間ほど前に息の根を止めた男のことが塩沢の脳裏をよぎった。霧矢はそんな塩沢の様子を見ずに、ただ歩き続ける。

「ねえ、霧君。西村君が来たら、本気で契約させる気?」

 塩沢に聞こえないように、霜華が小さな声で霧矢に耳打ちする。霧矢は同じく小さな声で、その通りだと返した。霧矢としてはたとえ敵であってもこんな形で死人が出てしまうのは気分が悪かった。もしあのまま、彼女が息絶えてしまったらきっと寝覚めが悪いだろう。

 西村だって、基本的に女には甘い性格だ。きっと普通に契約するだろう。その後は霧矢としては知ったことではない。勝手にすればいい。だが、もしも霧矢や霜華を狙うようであれば、遠慮なく倒させてもらうだけだ。やむを得ない。

 霜華もその答えにはうなずいた。後ろを振り返ると、塩沢は無表情のまま歩き続けている。


「着いた。ここに寝てるはずだ」

 塩沢は、霧矢と霜華を従える形で、少女に近寄った。少女も塩沢の姿を認めたようで、くたびれた声で訴えかけた。

「ねえ、そこのお兄さんたち。何か食べるもの。あと契約してくれない?」

 霜華は彼女を起こすと、東屋の壁に寄りかからせる。塩沢は無表情のまま、間違いないといいった風に首を縦に振った。

「ねえ、聞いてる? ご飯ちょうだい。あとできれば契約してほしいんだけど」

 霧矢と霜華は発せられた言葉の間抜けな内容に呆れてしまう。優先順位が逆だろうと。まず先に契約を求めるべきであって、食べ物など後回しのはずだ。

「お前、芹島夏雄の元契約魔族だな。属性は土だと聞いたが、間違いないか」

「ご飯くれたら答えてあげる」

 塩沢は露骨に嫌悪の表情を示すと、少女の乗っているそりのひもを引っ張る。

「スキー場のロッジに行くぞ。おごってやるから質問に答えろ」

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