表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Absolute Zero 2nd  作者: DoubleS
第二章
19/50

平穏の終わり 11

「意外と見かけは普通ね」

「当たり前だ。そんなマフィアのアジトみたいなイメージを持たれては困る」

 塩沢の車が止まった場所は、どこにでもあるような普通の雑居ビルだった。閑静な住宅街の中に溶け込んで、近くには病院まである。

「こんなところでドンパチやるはめになったら、一般人が巻き込まれて危険でしょうが」

「それが狙いだ。ここで戦闘になったら嫌でも人目に付く。だからそう簡単に敵もやってこないというわけだ。例外もないわけではないが」

 地下駐車場へ塩沢はアクセルを踏み込む。本当にどこにでもありそうなビルだった。


「三階に事務所がある。相川さんが待っている」

 エレベーターの上のボタンを押すと、塩沢は息を吐いた。雨野の顔を見ながら「物好きなやつもいるものだ」とつぶやく。雨野は気にも留めずに、エレベーターに乗り込んだ。


 三階には、相川探偵事務所という名札の付いたドアがあった。銃弾が貫通しない程度の硬さで、核シェルターほどではない。

「おじゃまします…」

 ノックし、雨野はドアを開けた。薄暗い廊下とは対照的に、南向きの部屋からは日の光が差し込んで、清潔なイメージがあった。

「おお、君が雨野光里君か。話は聞いておるよ」

 窓から雪の降り続けている外を眺めている白髪交じりの老人が振り向く。塩沢はゆっくりとドアを閉めた。

「私は、相川昭二という。この探偵事務所の所長だ。まあ、探偵事務所といっても、雅史から聞いておるとは思うが、実際は異能を持つものを集めた秘密結社のようなものだが」

「初めまして、私は雨野光里といいます。えっと……」

 まず先に、塩沢が座るようにと言い、雨野はソファーに腰掛けた。相川は感じよく微笑むと、向かいの椅子に座った。塩沢は台所でお茶を入れる。

 雨野がキョロキョロしていると、相川は心を読んだかのように話し始めた。

「君はおそらく、思ったよりも普通だと思っているだろう」

「はい。そこらに毒物や武器がゴロゴロしてるのかと思いましたが、普通の事務所ですね」

 はっはっは、と相川は笑う。雨野は思っていたより、明るい性格であることに戸惑っていた。裏世界のボスにもかかわらず、快活で明朗な性格だ。そして、悪人の気配がない。

 そして、彼からは塩沢と同様に魔力が放出されていた。つまり、彼に異能の力はない、少なくとも魔族由来の力はないということだ。

「そんなものを簡単に人に見せたりはせんよ。あることにはあるが、できれば使いたくはないからな。雅史は異能を持たないから、護身のためいろいろ武器を持ち歩いておるがの」

 三人分のコーヒーを淹れ、塩沢はソファーに座った。雨野は、

「毒とか入れてないわよね。機密に触れた私を始末するためとか」

「入っている可能性は否定できないな。俺たちに君を消したことで得るメリットは多少なりともあるからな」

「面白い人ね。気が合いそう」

 塩沢が真面目な口調で語るが、雨野は冗談で返した。塩沢は黙ってしまう。相川はそれを見て、雨野のことを気に入ったような目で見た。

「君は本当に女の子とは思えない豪傑だな。雅史といい勝負ではないかな」

「相川さん。それは俺に対する文句ですか? 彼女といい勝負と言われても……」

 コーヒーに砂糖もミルクも入れずに塩沢はブラックのまま、まだ相当熱いと思われる黒い液体を思い切り飲み干す。猫舌からはかけ離れた熱さへの強さに、雨野は感心した。

 塩沢は、コーヒーメーカーからおかわりを注ぎに立ち上がった。おそらく、毎日こんな大量にコーヒーを飲み続けているのだろう。胃がやられないことが不思議なほどだ。雨野もコーヒーを口に含む。どうせ仮に毒が入っていたとしても、契約異能を使えば大抵は解毒できるはずだ。持病や慢性疾患には効かないものの、呪い、毒、外傷を癒すことができる。ただし、直接治すことはできても、その結果として起こったものは治せないようだ。例えば、出血を止めることはできても、失血による貧血を治すことはできないように。

 それでも、この力は相当強力なものだ。使い方を誤れば、何らかの問題が容易に起こるだろう。力に溺れれば、自滅する可能性もある。それが契約異能だと有島も言っていた。


「さて、君は何故、私に会いたいと思ったのか? 聞かせてくれるかの」

 相川はゆったりとした様子で、雨野の目を見て語りだした。

「何となくよ。異能の力を手に入れた以上、そのまわりにどんな世界があるのか知りたいと思ったからかしらね」

「ふむ。知的好奇心ととらえてよいじゃろうな。しかし、君はそれによって知りたくないような一面も知ることになるかもしれん」

雨野は首を縦に振る。相川は感心したようにうなずいた。

「大体、この質問をすると、何も考えていない連中はすぐにうなずく。思慮深いものはなかなか首を縦には振らんものだ。君は、思慮深い割には素直にうなずくものだな。興味深い」

 相川は立ち上がると、机の中から書類を取り出した。塩沢は「引き返すなら今のうちだ」とつぶやいたが、雨野は何も言わなかった。


「大方、君が知りたいのは八年前の事件のより詳しい情報じゃろうかな?」

「ええ。できることなら知っておきたいと思うわ」

 相川は資料を取り出した。雨野に向かって古びた書類の束を手渡す。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ