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Absolute Zero 2nd  作者: DoubleS
第二章
14/50

平穏の終わり 6

「霧君! そろそろ行こう!」

 下の階から霜華の呼び声が聞こえた。せっかく調子に乗ってきたというのに、また微妙なところで邪魔が入った。苦い顔つきでノートを閉じ、部屋のストーブを消した。

「………じゃあ、行くか……」

 二人とも洋服を着ているため、見た目自体はごく普通だった。しかし、相変わらずの薄着で、霧矢としては、見ているだけでも寒かった。

 一歩一歩踏み出すたびに、ぎゅ、という、ふわふわの雪が押し固められる音がする。湿り気が多い雪のため、踏み出すごとに靴底に雪が張り付き、重くなってくる。

「しかし、何というか、お前ら器用に雪をよけるな……」

 霜華は雪を魔力で操って自分の頭上には降りかからないようにし、風華は弱い風を起こして自分のまわりの雪を吹き飛ばしていた。

 霧矢の傘は真っ白になっているのに、二人とも何もないかのごとく歩いていた。ちょっと雪道の散歩と洒落込んで、駅の自由通路ではなく、脇の踏切を通ることにした。雨野の家の近くの踏切からは、駅のホームが丸見えだ。

 大雪で電車が止まっているため、ホームには誰もいない。風華は無邪気そうに踏切に積もった雪を風で吹き飛ばして遊んでいる。こういうところを見ると、やっぱり子供の一面もあるのだなと思う。

 こいつが遊んでいなければ。

「そ~れ!」

 霜華が氷の矢を雪壁に打ち込む。楔のように何本も突き刺さったそれは、雪壁を貫通し、いびつなオブジェとなった。

「お前な……いい加減、歳ってものを……」

「だって、楽しいんだもん!」

 ただ、これでも晴代よりは精神構造はまだましなのだ。子供っぽいだけで、自分の不始末は自分でつけることができる。というより、家で不始末自体まだやらかしていない。

 戦いのときは冷静かつ大人だが、遊びの時だけやけに子供っぽくなるのが北原霜華の特徴といえる。そして、上川晴代は常に子供っぽく、無駄に好奇心旺盛で、自分の不始末を他人に押し付けるという問題児だ。どちらが手に負えないかなどおのずからわかる。

 挙げ忘れていた。上川晴代は趣味の一部もあまりよろしくない。スキーはともかく、少なくとももう一つの趣味は、人に堂々と公言できる趣味ではない。

「問題を抱えていない女の子がいたらなあ………」

 晴代もダメ、霜華もダメ、文香は論外………

 高校生にもなって、不思議なことに霧矢は意識している異性がいなかった。異性自体に興味はあるのだが、特定の誰かに好意を持ったことは生まれてから今までに一度もなかった。

 逆に西村は惚れやすく冷めやすいという、極端な男だ。一目惚れした女子にラブレターを書くと言って、熱心に下書きを書きまくっていた割には、数日後に興味が他の女子に移っていたりする。しかも、残念なことに暑苦しい性格のため、女子の方からはまず寄ってこない。

 雲沢に至っては、好きな女性にアプローチしているのはいいのだが、振られてしまった。しかし、諦められずしつこく言い寄っているらしい。ちなみに霧矢はその相手のこともよく知っている。それを見ていると、二重の意味で痛々しい。

 正直、霧矢のまわりを見回すと、花が咲いている知り合いはいない。咲かせたくても咲かせられないのか、敢えて咲かせないのかに違いはあるが。

「そろそろ行くぞ。遊びは終わりだ」

 姉妹で戯れていた二人に、終わりを告げると、霧矢は歩き出した。


「いらっしゃいませ!」

 駅の裏にあるそれなりに大きなスーパーに入ると、霜華はチラシを取り出す。

「とりあえず、まず、今日の特売品は……」

 霜華が来てから、買い物を頼まれなくなったため、久々にスーパーに足を踏み入れた霧矢と、初めての風華は店の中をキョロキョロと見回していた。

「二人とも、まず今日の晩ごはん、何がいい?」

「今日は魚が食いたい」

「お肉が食べたい」

 霧矢と風華の意見が合わない。二人ともにらみ合いになる。

「魚!」「肉!」という押し問答が続き、霜華はため息をついた。

「ゲームか何かで決めたら?」

「いいだろう………風華。選択権はお前に譲ってやる……何で勝負する?」

 異様な目つきを見せながら、霧矢は自分の胸くらいの高さしかない女の子を見下ろした。

「……あっちむいてホイ」

「これはまた随分と古典的だな……まあ、いい」

 風華は、異様な自信を見せているが、霧矢としては負ける気がしない。どうせ、相手は子供だ。どこかを指さして「あっ! あんなところに」とかをやるに違いない。

(……その程度のこと、お見通しだ。ちょうどここらで、年上を甘く見るとどうなるか教えてやらないとな……)

 じゃん、けん、ぽん!

 霧矢はじゃんけんでは負けたが、こんなのはただの確率の勝負だ。負ける確率はたったの4分の一。この程度で勝ったと思うな……

「あっち、むいて、ホ……」

 次の瞬間、背後から何者かが霧矢の左肩を叩いた。霧矢は振り向く。

「あったり~ 霧矢の負け!」

(………しまった!)

 風華の小憎たらしい声が、霧矢の耳に飛び込んでくる。霧矢の肩を叩いたのは……

「おっはよ~ 霧矢、こんなところで会うとは奇遇だね。三人で歳末のお買い物とは、さぞいい気分だろうね~」

「晴代! お前、まさか………図ったな!」

 ちょっと前を思えば、風華は霧矢の背後の人物とアイコンタクトを図っていたような気もする。霧矢は険しい顔で晴代をにらみつけた。

「お前な……何でそんなえこひいきみたいな真似をしてくれるんだ……」

「だって、ここであたしがやらなかったら、あたしが空気を読めないやつみたいに思われるじゃん。それくらいは霧矢だってわかるでしょ」

 霧矢は歯ぎしりする。風華はざまを見ろといった様子で霧矢を見ている。

「僕は認めないぞ! こんなのフェアじゃない!」

「往生際が悪いわよ。それに相手は年下でしょ。少しは年相応に振る舞いなさいよ」

「お前だけには言われたくない!」

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