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Absolute Zero 2nd  作者: DoubleS
第二章
13/50

平穏の終わり 5

 十二月二十三日 日曜日 雪


「……しかし、よく食うな。こいつ」

「…いくら食べても、この子太らないんだよう。姉妹なのに不公平だよう……」

 わざとらしく、朝食の場で霜華が泣きまねをする。風華は朝食だというのにおかわりを繰り広げていた。クセの強い姉妹だ……

 霧矢は不思議なことに、昨日のショックが完全に解けていた。今となっては、そんなこともあった、くらいのイメージしか残っていない。

「ごちそうさま。店の前、雪除けしてくる」

 コートを着込み、外に出る。気温が高いのか、大粒の雪が舞っていた。こういう雪は積もりやすい。昨日までのいい天気はどこへやら、鉛色の空から白いものが大量に降っている。道路は除雪車と消雪パイプのおかげで雪は少ないが、その分、歩道や家の前はものすごいことになっていた。

「……はあ、今年は豪雪だなあ……」

 白い息を吐きながら、霧矢は除雪に取り掛かる。水を含んでいるせいでやたらと重い。この商店街は老人住まいも多いことがあって、あたりでは天皇誕生日で日章旗を家の玄関に飾っているところも目立つ。

 さすがに、今日は大雪ということもあって、スキー観光客はそれほど多くはないようだ。といっても、まだ朝の九時前なので、これからどうなるかはわからない。

(スキーか……)

 冬休みに入ったら滑りに行こうと思っていたが、面倒くささが先に出てしまっていた。板の整備も面倒くさい。何から何まで面倒くさいという無気力が霧矢を支配している。

 ポケットの中にある魔力分類器で道を眺めてみる。人でなくとも、街並みのいたるところから微弱な魔力が流れている。樹木からは土の魔力が、側溝からは水の魔力が、ゆらゆらと立ち上っている。見ているだけでもいろいろと面白い。

 しかし、塩沢のようにコンタクトレンズに仕込む方が便利ではある。性能はあまりよくないと言っていたが、便利さではそちらの方が勝る。いちいち望遠鏡のように覗き込むとなると、動きづらい。

 頭を振って、髪の上に積もった雪を振るい落とす。降雪量は半端でなく、いくら除けても次から次へと積もる。もちろん大雪警報が発令されているし、積雪のせいで電車も止まっているらしい。車がない人はお気の毒である。あったとしてもスピードは出せないが。

(……無駄だな。いくらやってもらちがあかない)

 雪かきしている間でも、雪はどんどんと積もっていく。こんな天気だし、今日は日曜日だ。客もそうそう来ないはずだ。だったら、こんな作業を続けても意味がない。

 そう判断し、霧矢はコートに付いた雪を払うと、家に戻った。

「霧君。理津子さんが今日は特売日だから、店が開く時間になったら、スーパーまで行ってきてだって」

「お前が行けよ。僕は課題で忙しいんだ」

「お一人様一個限りのものがあるんだって。私も風華も行くから、三つ買ってきてほしいって言ってた。それに風華にも町を見せてあげたいし」

「あっそう……じゃあ、店が開く時間になったら呼んでくれ」

 適当に聞き流して、霧矢は自分の部屋に戻る。

 片方の窓は新品でピカピカ、もう片方は手垢で汚れまくっている。そして、部屋のバケツの中には、ガラスの破片が入っている。

 命を狙われたことへの恐怖というものは不思議となかった。あの時感じたのは、恐怖というよりは驚きに近かったのかもしれない。そして、今はもう何も感じない。霜華との出会いや、リリアンの一件で非日常というものに慣れてしまっていたのだろう。そして、これからもよほどのことがない限り、平常心を保ち続けることができるようになったのかもしれない。何ともありがた迷惑なもらいものだった。

 机に向かい、参考書を開く。昨日は頑張ったおかげで、多少は貯金を作ることができた。今日も頑張って貯金を作り、最後にあわてなくて済むようにしておきたい。

 どちらにしても、最終日近くになって晴代に呼び出される可能性もある。そんな時に、自分が道連れを食らってしまうのは願い下げだ。文香がいるとはいえ、霧矢に被害が及ばない保証などどこにもない。

 外を見ると、雪がどんどんと積もっていく。クリスマス・イブの前日は相当な大雪、そして予報では、明日はさらに大雪、明後日はそこそこ落ち着くらしい。日本海側は大雪になっている反面、太平洋側は思い切り晴れているらしい。うらやましいことこの上ない。

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