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Absolute Zero 2nd  作者: DoubleS
第二章
10/50

平穏の終わり 2

「ど……どうだった?」

 玄関では心配そうな表情の霜華と風華がいた。霧矢は問いに対して青ざめた表情で首を横に振った。全員が霧矢を心配そうに見ている。

 表にワゴン車が止まり、数人のスタッフが男を運び込んだ。そのままいずこへともなく車は走り去るのが戸のガラスから見えた。

 家の呼び鈴が鳴り、霜華は家の扉を開けた。

「……塩沢さん」

「こんなにも早く会うことになるとは予想外だった。ところで、そこの君は何て名前だ? 見たところ魔力を放出していない」

 風華のことは知らなかったらしい。もっとも、リリアンやエドワードにすら風華の存在は詳しく明かしてはいないため、塩沢が知らなかったとしても無理はない。

「霜華の妹だ。北原風華。属性は風」

 水だとは霧矢は言わなかった。風華は何か言いたそうだったが、その状況ではないと思ったようだ。結局何も言わなかった。

「さて、窓ガラスを直させろ」

 郵便受けの下に置いてあった霧矢の家とまったく同じ窓ガラスを持ち上げた。霧矢に案内を頼み、部屋に上がった。

「……スナイパーライフル一発だけだったか。まあここで爆弾とか使ったり、連射でハチの巣にしたりするほど連中も騒ぎを起こすつもりもなかっただろうが……」

 てきぱきと壊れた窓枠を外し、修理していく。随分と手慣れた様子だ。霧矢は自分が直接狙われたということのショックからまだ立ち直れていなかった。

「まあ、ショックだったとしても無理はないな。少し落ち着いたら下に降りてこい。俺は奥様に挨拶しておかないといけない」

 淡々と言うと、塩沢は部屋を出て行った。後は霧矢だけが残された。壁を見ると、弾丸が穴をあけている。引っこ抜いてみると、割と大型だ。撃たれていたら死んでいただろう。

 とうとう、とんでもないものに巻き込まれてしまった。命まで狙われた。身震いしながら、霧矢は下の階に降りた。

 居間では、塩沢が理津子に自己紹介していた。霧矢が引き戸を開けると、塩沢は座れと合図する。霧矢はこたつに足を突っ込んだ。

「では、事情を説明する。ここまで巻き込まれてしまったら、説明しないのはかえって逆効果だからな」

 お茶を口に含み、塩沢は閉じていた目を開けた。

「先ほど、君を狙撃したやつらは、『救世の理』というカルト教団に雇われたチンピラだ。名前は普通、世間には知られていない。ものすごい秘密主義の教団だからな」

 救世の理こそが、リリアンの家族を殺したカルト教団だと塩沢は語った。十年くらい前から活動を始め、入信を勧め、入信しなければ殺すか監禁する。ゆえに、世間ではあまり知られていない。異能の力を暴力的に利用し、世界を変えようとしている。政治家やマスコミに対しても手を回していて、めったなことでは決して手が後ろに回らない。

「連中の目的の達成のためには、魔族や契約主が必要だ。だから、あちこちで魔族を探し出しては誘拐することを繰り返している。そこの二人がターゲットにされたようだな」

 ただ、魔族と契約主を狙うと言っても、どちらも異能を持っていて簡単に勝つなど能力を持っていない人間にはかなり難しいし、同じように魔族や契約主で出向いたとしても、人前で異能を使えば嫌でも目立ってしまう。誘拐といっても、全国で月に一件起きれば多い方らしい。

「目立つのを避けるために、こういう誘拐は地方で起きることが多い。こんな雪国なんて人目のなさでは特にやりやすいだろうな」

「じゃあ、この写真の魔族って……」

 霧矢は昼間受け取った写真を取り出す。塩沢はため息をついた。

「断片的なデータしかなかったが、幹部から奪ったフラッシュメモリーの中に入っていた。誘拐されたのか自分から教団の仲間になったのかは定かではないが、この子が教団に関して何らかの手がかりになるだろうと考えている。だからこうして聞き込みをしているわけだ」

「で……これから私たちはどうやって暮らしていけばいいんです?」

「ん?」

「こんなにしょっちゅう狙われてたら心が休まりませんよ。どうすればいいんです」

 塩沢は気にすることもなく、まったく表情を変えずに答えた。

「いつも通りで構わない。連中は俺たちで何とかするし、あの程度なら、そこの二人の力があれば撃退できるだろう」

 塩沢はお茶を飲み干すと立ち上がった。

「まあ、連中もアホじゃない。もう不用意に狙わないだろうさ。ただし、今の話は誰にも言うな。もし、連中に聞かれたら、口封じに遭うと思った方がいい」

 帰ろうとした瞬間、塩沢の携帯電話が鳴った。

「何だ。今忙しいんだが」

 塩沢の表情が固まった。

「わかった。すぐ行く。監視を続けろ」

 霧矢が何か言う前に、塩沢は猛スピードで家から駆け出していく。あっという間に姿は見えなくなった。

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