第6話:お母さんは元キャバ嬢
【登場人物】
・速水小石
女子高生VTuber。ハンドルネームはミコ。主人公の後輩で、過去に引きこもりだったところを助けられてから配信者のマネージャーの仕事をしてもらう関係。副業で探偵をしている。
・氷室稲置
小石のVTuber活動のマネージャーしていたが、前話でクビにされた?。19歳。高校時代は小石の通う高校で生徒会長をしていた。
・氷室麗夜
稲置の母親。ホストクラブ狂いでほとんど家に帰ってこない。元キャバ嬢。
稲置は桜音に礼を言って別れを告げると、一旦今後の計画を練るために駅前のスタバに入ることにした。
マンゴーパッション〇ィーフラペチーノを注文すると、お洒落なカウンターに腰掛ける。スマートフォンを開いてネットで仕事を募集していないか調べてみる。こういう時、手に職があればなといつも思う。
「稲置くん。こんなところで会うなんて偶然ね。また小石ちゃんと喧嘩でもしたの?」
「な?!?!?!?!」
そこにいたのは、氷室麗夜。
長い金髪は一本たりとも傷んでいない。年齢は40代のはずだが、自分が彼女の息子でなければ決してそうは見えないだろう。凍てつく吹雪のような鋭い視線、その反面、表情だけはやわらかい。それは自分の子供だけにかろうじて残された感情だろうか。
「どうやら図星みたいね」
「今度のは喧嘩じゃない。冷戦なんだ」
「そういう言葉は1年以上離れてから使いなさい。小石ちゃんの配信観たけど昨日の話でしょ」
「お前も見てんのかい!!!!」
同時視聴者数10万人は伊達ではなかった。というか俺、今外に出て大丈夫なのか? 顔出されて指名手配されていたような。
「お母さんに”お前”なんていけません。お母さま、と呼びなさい」
「ホスト狂いに払う敬意なんて余ってないね。尊敬されたきゃ母親としての常識を持ちやがれ!!!」
「稲置くん、スタバで大声出すのはやめなさい。それとホストに狂ってるのではなく、ホストに狂わせていただいているのよ。そこを間違えないで」
「同じっだっ!」
俺の両親とのコミュニケーションはこういうのが基本だ。どうか受け入れてほしい。俺だって好きでやってるわけじゃない。
「俺は時々、両親の血をひいてないんじゃないかって思う時があるよ」
「ほんとにあなたは誰に似たのかしらねえ。もしかしてお父さんじゃない人の子だったのかもしれないわねえ」
「これ以上突っ込んだら俺は吉〇超えるぞ!!!! そうだったとしてもせめて人の親なら墓場まで持っていけ!!!!!!」
そばを丁度通りかかった女性店員がびくっとなってそそくさと行ってしまう。ごめんつい。
「しーずーかーにー。田舎者だと思われちゃうから」
「あんたらはむしろ田舎にいっておじいちゃんの爪の垢でも煎じて飲んでくれ。少しは自然の綺麗な空気を吸って浄化されてこいよ」
「あら、田舎は田舎でいい体をした男がいるものよ」
「もう好きにしてくれ。俺はもっと清楚で嘘つかない子を探すから」
「あら、嘘は悪い?」
「悪いだろ」
彼女は、俺の言葉を飲み込み、嚥下したうえでその口元をわずかに緩めた。
「嘘が悪いなんていう言葉が出る時点でお子様なのよ。嘘は愛よ。嘘がいつか本当になるなんて言う人がいるけど、それは本当の愛をまだ知らないだけの乳臭い餓鬼だからなのよ」
「……何を誰に言ってるのかはわかんねえけど、忠告だけは貰っとくよ」
「ええ。私はもう行くわ。臨也様と同伴なの」
「さっさと行っちまえ!」




