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VTuber探偵ミコが行く!  作者: べなお


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第38話:Vtuber探偵ミコが行く!

【登場人物】

速水小石はやみこいし

女子高生VTuber。過去に引きこもりだったところを助けられてから稲置とは配信者のマネージャーの仕事をしてもらう関係。副業で探偵をしている。殺人容疑をかけられた稲置の無実を証明するために奮闘中。


氷室稲置ひむろいなぎ

ミコ(小石)のマネージャー。19歳。高校時代は生徒会長をしていた。料理がそこそこできる。変人をなぜか吸い寄せてしまう人生を送っている。配信者の火将ノエル殺人事件の容疑者にされて絶体絶命。


氷室麗夜ひむろれいや

稲置の母親。ホストクラブ狂いでほとんど家に帰ってこない。元キャバ嬢。ミステリー作家。

 これでアリバイトリックの見当はついたけど、もっと決定的な証拠が欲しいわね。


 六本木の熱帯夜の中を歩く。肌が汗でべたついてくる。この事件が解決したら、涼しいところに旅行に行きたいな。


「そうだ、瑞希みずきちゃんが行った事件現場に行かないと」


 彼女は現場のマンションに行ったきり、連絡が取れないでいた。いくらなんでも不自然だ。


「池袋か。じゃあ乗りな小石ちゃん」


 鷯命さんのプリウスに乗り込む。わざわざハイブリッドカーをレンタルしてくるのは、どういうこだわりなんだろう。意外とエコ気にしてるのかな。


「こいつか? 通ってる店のキャバ嬢が歩いてるかもしんねえからな。地味な車乗ってたら冷められんだろ?」


 最低の理由だった。


 そして場所は池袋に。


「マンションの管理人さんに電話したけど、瑞希ちゃんはもう帰ったって言われちゃったのよね。ここまで来ちゃったけど、無駄になっちゃったな」


 一体どうしたんだろう。もう家に帰ったのかな。


「とりあえず、俺はもう行っていいかい? 歌舞伎町のゴールデン街が俺を呼んでるんでね」


 この飲兵衛のんべえめ。


「ええ。助かりました。飲んだ後は運転しないでくださいね」


「ああ。ちゃんと返してから行くからよ。小石ちゃんも達者でな」


 プリウスが新宿方面に走り去っているのを見送り、小石は思考に戻る。


 どうする? このまま犯人と対決するのもいいけど、ここまで完璧なトリックを思いつく人間だ。きっと自分が追い詰められた時のパターンも想定しているはず。それを考えると、戦術的な要素が欲しい。やっぱり瑞希ちゃんがいて欲しいな。


 あとは麗夜さんがノエルちゃんのスマートフォンさえ見つけてくれれば、詰め切れるはず。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 場面は変わり、池袋警察署へ。


 そこは見慣れない天井だった。


 池袋警察署の、取調室。警察署で数日を過ごした。身に覚えが全くない容疑について、何時間も執拗に尋問される。正気を保ち続けるのは中々に難しい。


 いっそ自らの記憶を書き換え、自分が犯人だという仮の物語を作り上げてしまった方が楽なのではないか? という笑えない妄想にしばしば取り憑かれそうになる。


「稲置。お前はまだ若い。少年法の範囲でもある。だからまだやり直せる。もう良いんじゃねえか? 楽になっちまえよ」


 青島刑事は言う。


 彼の、いや警察の人間達の中には既に、俺がこの事件の犯人だという明確なストーリーが作り上げられているのだろう。


 ただでさえこの国の治安は年々悪化している。一つの事件に投下できる労力は限られている。彼らはこの事件を解決した後にも、次の事件が待っている。この世界に悪人が尽きることは無いのだ。


 もう、諦めてしまおうか?


 そんな時、脳裏に浮かんだのは、コバルトブルーのツインテールが風に揺れる光景だった。


「稲置。もう終わりにしよう。悪いようにはしねえ。田舎のお袋さんが泣いてるぞ」


「ごめんなさいね。私は人生で泣いたことは2度しかないの。なぜなら私の人生はその後、ずっと幸せだから。だから稲置くん、あなたは何一つ諦める必要なんてない」


 そこには、この世界に生れ落ちてから、最も長い付き合いの人間が仁王立ちしていた。いつ見ても自信に満ち溢れていて、この世界が自分を中心に回っているのだと信じているような顔だ。


 子供よりホストに金使ってるくせに。


「なんでこんなとこにいんだよ。お袋」


「もちろん、お母さんをやりにきたのよ。息子」


 氷室麗夜。俺の母親だ。


「おいっ何勝手に部外者入れてんだ!? 奴の母親だと?」


「青島さんすみませんっ、正式な手続きは貰ってますっ」


 警察官の制服を着た人間が後から入ってきて、青島刑事に説明をする。どうやら正式に保護者として面会に来たらしい。


「奥さん、ここでは勝手な行動は慎んでいただきたい。息子さんの心証に関わりますからな」


「あら? 正真正銘の無罪の人間が心証なんて気にする必要はないのではなくて?」


 端正に整った顔の横に人差し指を立て、現役の刑事を睨み返した。季節違いの雪女の如く。どこかの化物達の物語の、吸血鬼が如く。


「それにほら、ちゃんと持ってきてあげたわよ。稲置くんが無実の証を」


 彼女は、青島刑事に向かって何かを投げ渡した。パシッと、彼が受け取る。


「これは、スマートフォンですかな?」


「ええ。被害者の、火将ノエルのスマートフォンよ」


「……なぜこれをあなたが?」


「拾ったのよ。そこの稲置くんの部屋でね」


 二人の視線がこちらに向かう。当然、理由は分からない。


 俺の部屋、だと? そういえば現場で彼女のスマホが無かったような気はした。女子高生なら肌身離さず持っているはずのそれがどこにも見当たらなかったことに、違和感を感じてはいたのだ。


「ほう。決定的証拠というわけですか。おいっ、すぐに裏を取れ」


 指示を出された警察官が走り出す。


「慌てないでちょうだい。この中には面白いダイイングメッセージが残っていたのよ」


「「ダイイングメッセージ!?」」


 それは命を強制的に奪われた者が最後に残す、遺言。ある時は恨みを、憎しみを。ある時は告発を。ある時は愛する者への想いを残す。


 ダイイングメッセージ。


「今からきっと、彼女が解き明かしてくれるわよ。この事件の真相をね」


 そう言って麗夜は、自らのスマートフォンを取り出した。


 そこに映し出されていたのは、慣れ親しんだ、自分がマネージャーを務めていた、VTuber探偵ミコの配信アバターだった。

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