第34話:刀殺し
【登場人物】
・淡野瑞希
稲置の後輩の女子高生。剣道有段者。眼鏡が似合うショートカット。大阪出身で関西弁。稲置の懐刀。東京の揚げたこ焼きは認めないらしい。今回は……。
・スティーブ・ラセター
共犯者。
「じゃーおっちゃん、そろそろあたしは帰りますわあ。色々教えてくれておおきに!」
「いえいえ。速水さんによろしくお伝えください」
「わかったでー」
そこは池袋の事件現場マンション。小石ちゃんへ、現場で得た情報を送信する。
現場検証って、一回自分でやりたかってんなあ。気分は古畑任三郎やね。
それにしても、そろそろ剣道部のインターハイが心配になってきたわ。一応副主将に任せてきたけど、あいつは部員の子らと度々ぶつかることあるからなあ。
早く事件にケリつけて、練習に戻らんとな。
「そんなに急いで、一体どこへいくんだい?」
それまで誰もいなかったはずの空間から、低音のテノールが響いた。その声からは、感情の起伏が感じられない。それでいて、女性の本能的な部分を官能的に撫でてくるような、そんな声色をしていた。少なくとも彼女にはそう感じられた。
「……誰や? 気配消して女子高生に忍び寄るんは趣味悪いで?」
「これは失礼。レディに対しての対応としては良くなかった、謝るよ」
部屋の扉が並ぶ窓のない廊下の物陰から、男の影が突如として現れた。電灯の光が彼の顔を照らし出す。知らない顔だ。
日本人……やないな。
白い肌と、淡褐色の瞳。黒縁のスクエア型の眼鏡。剃ってはいるが、髭の生え際が目立つ。
背中に背負った竹刀入れに手を伸ばす。
「……そないな対応は、殺気を消してやらな意味あれへんよ?」
「流石は淡野剣道場の正統血統。心に忍ばせた刃は、あなたの前では隠せないようだ」
木刀を抜いた。投げ捨てた竹刀入れが、床に落ちる音が響く。室内の戦闘を想定して、短い小太刀にしてきたのが正解だった。
「良い木刀だ。削り方から職人の腕が分かる」
「それだけはええ趣味しとるわ。大人しく観光しとれば、痛い目見ずに済んだんやけどな」
男は、漆黒のジャケットの内ポケットから棒状で金属製の何かを抜いた。
「……十手やと?」
木製の柄から鉄製の棒身が伸びる。柄からはフックのような鉤が付いている。防刃用の備えだ。刀剣使いにカウンターするための、古典的で歴史ある武具。
明らかに、狙い撃ちされている。
「あなたとやり合うのなら、こいつが一番面白いと思いましてね。私は銭形平次が好きなのですよ。このデザインと、刀への対応能力。まさに職人が生み出した、技術の魂だ」
「十手を相手にすんのは初めてや。何や知らんけどおもろなってきたわ。最近、気色悪い物まね野郎と引き分けてしもて、正直むしゃくしゃしてたんよ。気遣いなしでぶった切れる相手が向こうから来てくれて助かるわあ」
こいつが事件の犯人の可能性は高い。だとしたら絶対に負けられへん。
こいつをしょっぴけば、稲置先輩にシャバの空気を吸わせることができる。
「レディファーストだ。先攻はお譲りするよ」
「軽口叩けんのも今の内。神妙にして縛につけやっ!」




