第32話:もう二人の被害者
【登場人物】
・速水小石
女子高生VTuber。過去に引きこもりだったところを助けられてから稲置(元主人公)とは配信者のマネージャーの仕事をしてもらう関係。副業で探偵をしている。殺人容疑をかけられた稲置の無実を証明するために奮闘中。今回は推理を頑張る。
・淡野瑞希
稲置の後輩の女子高生。剣道有段者。眼鏡が似合うショートカット。大阪出身で関西弁。稲置の懐刀。東京の揚げたこ焼きは認めないらしい。今回は助手役。
「小石ちゃん、ってことで、例の401号室の老夫婦が事件の日を境におらんくなったってのはホンマみたいや。なんやけど、結局事件当日だけは二人とも部屋におったことは刑事さんの事情聴取で裏取れてるみたいや。やっぱ事件とは関係ないんかなあ?」
瑞希ちゃんはスマホ越しに通話で説明してくれる。電波に乗っても良く通る芯のある声だ。
「うーん、何か引っかかるのよね。全く無関係に同じタイミングで、殺人事件と失踪事件が同じマンションで起こるかなあ? 刑事さんは本当に二人の身元を確認したの?」
喉の奥に小骨が引っかかったような、そんな感覚。何か、大事なことを忘れているような。
「そら刑事さんやし、そこは信用してええんちゃう? 」
「……冷蔵庫の中に消費期限切れの食材があったのよね。ということは二人がいなくなった理由は、二人の想定外だった」
「当然やな」
「事件が起きた翌日にいなくなった。もしこれが事件と関係あったならという仮定をするとするじゃない? 犯人は現場のマンションの、ある部屋に無人の空間を作る必要があった。とすれば?」
思い込みでいいんだ。決めつけでいいんだ。この道の先に何もなければ、また引き返して0から始めるだけ。考えられる選択肢を、全部潰すんだ。
「普通に考えたら、発覚後の事情聴取をかわすためやろな。せやけど……」
「事情聴取ではその部屋には、二人の老夫婦がいた。…………待って」
今、何か、遠く離れた所にある歯車と歯車が、互いに近づいて、嚙み合って回り出したかのような音が頭の中でした。
「……この前、あたしんちで襲ってきたあいつ、瑞希ちゃんに変装してたのよね? ってことはあいつが、もしも、老人にも化けられたとしたら?」
「……そういうことか。でも部屋には二人の老夫婦がおったんやで?」
「……そこはまだ引っかかるけど、もし変装で部屋の住人に成りすませたなら、何らかの方法で老夫婦をどこかに監禁するなりして、自分は警察の事情聴取をやり過ごすことができる」
「まあ一応筋は通っとるか。じゃ犯人は外部犯で、事件が起こる前からその部屋に潜伏しとったわけや」
まだ何かが腑に落ちない。
「……そうだとしても、犯人はほとぼりが冷めるまでその部屋から出られなかったことになる。翌日までそこにいないと、警察の捜査はかわせなかったんじゃないかな?」
「てか、そのアリバイトリックがホンマなら、容疑者を絞り切るのは骨が折れそうやな。老夫婦の部屋に入るのは、誰でも不可能ってことはなさそうやし。にしてもここまで大掛かりなことを一人でできるもんなんかなあ」
あ。
「犯人は二人いる?」
「それや!」
「二人いるなら、老夫婦に変装して警察の事情聴取を突破することができる!」
「確かにそれなら、稲置先輩が見たっちゅうノエルちゃんのアバター乗っ取り配信も有り得ん話じゃなくなってくるなあ」
「この線なら!」
二人の名探偵の卵は、スマートフォン越しに息を合わせた。
「「先輩の疑いを晴らせるかも!!」」




