第31話:ヤンキーちゃんとオタクちゃん
【登場人物】
・速水小石(はやみこいし。ハンドルネーム:ミコ)
女子高生VTuber。過去に引きこもりだったところを助けられてから稲置(元主人公)とは配信者のマネージャーの仕事をしてもらう関係。副業で探偵をしている。殺人容疑をかけられた稲置の無実を証明するために奮闘中。今回も家で司令塔。
・淡野瑞希
稲置の後輩の女子高生。剣道有段者。眼鏡が似合うショートカット。大阪出身で関西弁。稲置の懐刀。醤油は甘い関西風以外認めない。今回は現場調査役。
「ちゅーわけで例のマンションに着いたで、小石ちゃん」
スマートフォンの向こうには、VTuber探偵がいる。
「ありがとう瑞希ちゃん。私はマンションの図面と、事件当時の住人の動向についての情報を管理人さんに貰ったから、稲置先輩から聞いてた情報と合わせてアリバイを崩せないかやってみる」
「おう、頼むわ。あたしは現場から集めれるだけ証拠を集めて送ればええんやな。任しとき」
「全部終わったらハンバーガー奢るわね」
「そん時は3人で、やな」
「そうね」
てなわけで、入るとしますか。
池袋駅からそう遠くない、住宅街に例のマンションは、ひっそりとそびえ立っていた。
あたしは来るの初めてなんやよな。確かインターホンで管理人室の番号を押すんやったか。
「淡野さんですね。話は聞いてます。ロック開けますのでお入りください」
この声は管理人さんの声やな。おっちゃんか。
無機質な鉄の扉が開く。窓が一つもない、ひんやりとした冷たい雰囲気の廊下を進む。
こんな牢屋みたいなとこによー人が住む気になんなあ。あたしなら敵わんわあ。
お守り代わりに背中に背負った木刀。使うことにならんことを祈らんとな。
「初めまして。当マンション管理人の者です」
「どうもご丁寧に。淡野と申します。それじゃー早速、例の失踪した老夫婦の部屋に案内して貰えます?」
「分かりました。それではエレベーターで」
「部屋の鍵を持ってきましたので、中を確認してみましょう」
「ええ。動かない屍が二つ出てこんことを、今から祈っときますわ」
「……縁起でもないことをやめてください」
管理人のおっちゃんは泣きそうになっていた。給料カットにでもなったんかな。
鉄の箱から出ると、再び廊下。他の住民は見当たらない。
外から無理やり侵入できそうなルートは無さそうやな。これはアリバイ崩しに難航するはずやわ。
目当ての部屋にはすぐに到着した。金属製の、頑丈そうな扉だ。覗き穴とポストが付いている。
おっちゃんが何度もノックしながら住民さんの名前を呼ぶ。反応は無し。
「……やっぱり反応は無しか。管理人さん、鍵使ってもらってええか?」
「一応付き合いは長いので、荷物を預かった時などに勝手に入らせてもらって良いことになってますので、問題にはなりません。それでは開けてみましょう」
合鍵を鍵穴に挿入する。ガチャっと音がする。
「人の気配は無いようですが、奥に入ってみましょう」
「せやな」
リビング、トイレ、風呂場、ダイニング、と確認したが、人っ子一人いない。
冷蔵庫の中を確認する。
「鶏むね肉が傷んどるな。随分前の消費期限になっとる。ほんまにおらへんくなってから長いんやな。事件が起こった日が消費期限や」
スマートフォンで一応写真を撮る。
「ところであなた、見た目は高校生くらいですけど本当に探偵さん?」
「色々事情があってな。お世話になってる人が容疑者やねん。猫の手も借りたい状況ちゅーことや」
「はあ」
それにしても、この部屋とあの事件がどー繋がるんやろな。
事件当日にこの部屋が無人だったとして、稲置先輩以外にアリバイの無い奴がおらんっていう八方塞がりな状況が何か変わるんやろか?
「てか事件当日は刑事さんがここにも事情聴取にきたやろ?」
「ええ。その時は二人ともいたみたいですね」
「……じゃあ刑事さんが問題にしなかったのも無理あらへんか。じゃあ後は現場も一応見せてください」
当日にここが無人やったんなら、犯人がこの部屋に隠れて警察のチェックをやり過ごすなんてこともできたかもしれへんけどなあ。




