第29話:蜂蜜味の密談
【登場人物】
・速水小石
女子高生VTuber探偵。裏で調査中。今回はお休み。
・淡野瑞希
稲置の後輩の女子高生。剣道有段者。眼鏡が似合うショートカット。大阪出身で関西弁。稲置の懐刀。醤油は甘い関西風以外認めない。今回は聞き込み役。
・月読桜音
稲置の生徒会長時代に書記をやっていた現女子高生3年。VTuber。被害者である火将ノエルの親友だった。
「さてと、やっぱまずはここからやな」
港区から豊島区まで軽くジョギングしながら一時間でたどり着いた淡野瑞希は、母校の校門の前にいた。
「あの子はまだおるやろか。一応連絡はしてるんやけど……」
「お久しぶりです。淡野さん」
「お、迎えに来てくれてたん? 月読桜音ちゃん」
「ええ。丁度ノエルちゃんのお葬式の打ち合わせに行く前でしたから。少ししかお時間割けませんけど」
「それはすまんかったな。なに、15分とかからへん。稲置先輩の容疑を晴らすために、少しでも情報を集めたいだけや」
月読桜音。
彼女は、その見事に手入れされた艶のある長い黒髪を夏の風になびかせていた。うなじには大粒の汗がしたたっている。
もう夏も始まる頃やから暑いんやろな。気持ちはよーわかる。
「じゃーそこの喫茶店はいろか。美味しいレモネードが飲めるとこ知ってんねん。あたしが奢るから」
「ではお言葉に甘えて」
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喫茶店の店内は、落ち着いた生活感が包み込んでいるようだった。店というよりは家、のような内観だ。木製のテーブルが3つあり、後は本棚が置かれている。奥の方に明らかな生活空間が覗いている。
確か店員さんがここで暮らしていたはずや。
「……変わったお店ですね」
「ここの店員のお姉さんの作るレモネードの炭酸割りが絶品やねん。自家製らしいで」
「それは楽しみです」
「ところで、ノエルちゃんの件、残念やったな」
「お気持ち有難うございます。少し泣いたので、今はちょっとだけ元気になったと思います」
彼女は、今回の事件の被害者の親友だった。
「それはええことや。あたしも道場の師匠のじいじ……おじいちゃんが亡くなった時は泣き腫らしたもんや。そういう感情はため込まずに出し切らなあかんからな」
「そうですよね。そう思います」
桜音は、目の前に出されたグラスを手に取って、蜂蜜味のレモネードサイダーを口にした。
「……美味しい」
「せやろ! 暑い日にぴったりやねん」
蜂蜜の甘さを、レモンの苦みと酸味がうまく受け止めている。
「ところで本題なんやけどな、あの例のマンションに関係することで知ってることがあったら教えて欲しいねん。管理人さんとか、オーナーさんの話とか、住民に知り合いがいるとか、何でもええねん」
「……刑事さんにもお話ししたんですけど、私は何度もノエルちゃんの部屋に遊びに行ったことがあるだけで、他のことは特になにも知らないんです。あ、でも」
急に思い出したように、彼女は視線を右側に映した。
「ノエルちゃんに配信活動のマネージャーは結局いなかったみたいです。刑事さんから電話があって」
そういえばそんな話もあったなあ。彼女にマネージャーがいたとしたら、配信アバターの乗っ取りもそいつがやったんやないかって話だったはずや。
ノエルちゃんが配信活動で使ってたアバターが、彼女の死後も誰かに使われてたってとこから話がややこしくなって、稲置先輩だけがアリバイが無いんやったな。
「なら単刀直入に聞くわ。桜音ちゃんは、ほんまに稲置先輩がやったと思うか? そもそも動機があらへんやろ」
「……そんなこと私も信じたくありませんよ。本当は他に犯人がいるんじゃないかってずっと考えてます」
「あたしもや。あたしの過去の調査では、先輩とノエルちゃんが親しかったっていう情報はあらへんからな。それに先輩がやってないって言ってるんや。あたしは先輩を信じる」
「そうですね。私も」
この子がやったって可能性は、流石に考えすぎか。
あたしも焼きがまわったんかな。
「じゃあここは払っとくから。また学校で会ったらよろしゅーたのむわ」
「ええ。淡野さんもお元気で」




