第28話:悪魔のアリバイを崩せ
【登場人物】
・速水小石
女子高生VTuber。過去に引きこもりだったところを助けられてから稲置(元主人公)とは配信者のマネージャーの仕事をしてもらう関係。副業で探偵をしている。探偵として世界を飛び回る父を持つ。稲置の容疑を晴らすために奮闘中。
・淡野瑞希
稲置の後輩の女子高生。剣道有段者。眼鏡が似合うショートカット。大阪出身で関西弁。稲置の懐刀。醤油は甘い関西風以外認めない。
「ていうわけで~リスナーのみんなに池袋住みの人がいたらDMください!
ちょっと聞きたいことがあるの! 私ミコは今、難事件の捜査中なのだ! 協力してくれた人にはちゃんとお礼するからね!」
タワーマンションの上層階の配信室。
定期のVTuberとしての雑談配信を終えると、奥の部屋で待機していた淡野さんが入ってくる。
「こういう時はほんま便利やな。配信業ってのは」
「今までこういう頼み方をファンのみんなにしたことはあんまりないんだけど、正直もう手段を選んではいられないからね。一番いいのは、あの事件現場のマンションの関係者と連絡がつくことなんだけど」
私はSNSのDM画面を開き、送られてきているメッセージを眺める。ほとんどは男性ファン達の下心丸見えのダル絡みだった。
「こんなんばっか見てたら嫌にならん?」
「でも私たちはそういうお仕事だし、それで少しでも心の隙間が埋められるなら、お互いにとって良いことなんじゃないのかなって」
「……中々ええこというやん」
これは昔、稲置先輩が言ってくれたことだ。
「あたしはぶっちゃけると小石ちゃんって、もっと冷たい子なんかとおもてたもん」
「私はちゃんと冷たいよ? いつも自分のことばっかり考えてるもん」
「ほんまにそういう子は、自分からそういうこと言わへんねん」
ツインテールの青髪をくしゃくしゃとしてくる。髪しばってるとこ痛いんだけど?
「じゃれあいはこの辺にして、本格的に調査を始めるわよ。事件現場に関係する情報ならなんでもいい。徹底的に集めるの。私が警察に勝ってるところがあるとしたら、外に出なくてもこれでいくらでも広範囲に聞き込みできることなんだから」
コバルトブルーのカバーをかけたスマートフォンを顔の右横まで掲げて見せる。逆に言えば、この利点を活かせなければ私がやる意味がない。
「よっしゃ! じゃああたしは泥臭い昔ながらのやり方で行かせてもらうで! 足使って聞き込みや! 警察には言えへんくても、女子高生になら言えることもあるかもしれへんしな。それに人の口割らすんは得意やねん。稲置先輩の女性関係もそれで突き止めたしな」
……それでわたしのところに来たのか。2年前に高校の教室で急に話しかけられた時は、見知らぬ陽キャが来たと思って怖くて校舎裏まで逃げたっけ。
「とにかく誰でもいいから、稲置先輩以外の人間のアリバイを崩すの。池袋住民30万人が容疑者だと思ってね」
「それは難儀やな。不審者を隠すなら不審者の巣窟の中ってわけや」
「不審者と殺人犯は違うわ。どんなに難しくてもやるのよ」
「池袋が不審者の巣窟ってとこにはもう突っ込まへんのやねえ」
「真っ赤な嘘言ってもしょうがないからね」
「せやな。じゃあ行くわ。後でまたな」
西のJK剣士は、そういって部屋の扉を開けて駆け足で出ていった。流石体育会系、元気がとても良い。
私も、見習わなくっちゃ。
マルチモニターのハイスペックPCが配置された配信机に深く座り直し、目薬を差して、体の奥の方にある、集中のスイッチをカチッと入れた。




