第27話:コピー能力
【登場人物】
・速水小石
女子高生VTuber。主人公の後輩で、過去に引きこもりだったところを助けられてから配信者のマネージャーの仕事をしてもらう関係。副業で探偵をしている。
・千本桜皿
イラストレーター。この時代にアナログの技法をメインに使う絶滅危惧種。小石の熱狂的なファン。小石と親しい稲置を敵視している。紅茶はアッサムのロイヤルミルクティーがお好み。
・丘砂紫暮
皿の執事。
「ミコちゃん大丈夫だった??? 襲われたんだって!? やったのはあのマネージャー?? 私はあいつはいつかやると思ってたのよっっ。この可愛いお顔と体に傷が付いたら大変だわあぁっ!! 大丈夫???」
港区のタワマンの部屋の扉がバン! と開かれるや否や、ピンク色の小動物のような何かが私に向かって突進してきた。プ〇プランド住みのコピー能力を使う丸いあいつかな?
ともかく彼女は、VTuberである”ミコ”としての私のファンだ。だから私のことを”ミコ”と呼ぶ。
「皿ちゃん、皿ちゃんの髪の毛で前が見えないわ。落ち着いて」
「あーごめんね? 最近ミコちゃんを吸ってなかったからつい! 小石ちゃんでしか接種できない栄養があるのよねえ」
「小石様、お元気そうで何よりです」
千本桜皿ちゃんの後ろから、忍びの如く現れた銀髪の執事は丘砂紫暮だ。
彼のことはまだわからないことが多い。皿ちゃんの小さい頃からの付き合いらしいけれど。
「ありがとう紫暮さん」
いえいえ、とうやうやしく謙遜する。稲置先輩も、少しは彼の爪の垢を煎じて飲んで欲しい。
「あと稲置先輩に襲われたわけじゃなくて、誰か分からない不審者に襲われたの。変装してたみたいだけど」
「変装、ですか」
執事がそう確認した。
「案外コスプレイヤーとかだったりしてね」
と、皿ちゃん。
「コスプレっていう次元を超えてたけどね。声も、喋り方もほとんど友達と同じだった。そんなことって可能なのかな?」
そういうキャラクターが出てくる漫画やゲームなら心当たりはあるけれど。
「某国のスパイや、FBIならその手の能力者はいるでしょうね。異常な学習能力の持ち主なら、現実的にも可能なのでしょう」
「その不審者は確か、変装する相手の動画をとにかく見た、って言ってたような」
「私もミコちゃんの配信は全部見てるから、ミコちゃんの癖は全部分かるわよ! 嘘ついてるときは画面左側にアバターの視線が逸れるのよね!」
「ほんと? ……それ稲置先輩には言わないでね」
気が付かなかった。でもそんなこと言われると、今度からどんな顔で人と喋ればいいのか分かんなくなるなあ。
「それにしたって、ミコちゃんの声は透き通ってて、ハープの音色みたいで、とても真似できないわ。ミコちゃんを物まねなんてできないよ!」
「……皿ちゃん、ありがとー」
少しだけ、心の奥につっかえていた何かが抜けた気がした。
私たちは半分くらいバーチャルな存在だ。現実の体と違って、仮想の姿形は簡単にコピーできる。
いつの日か、私じゃない別の誰かが、私のVTuberとしてのアバターを乗っ取って、私の代わりに”ミコ”を演じる日が来るのではないか?
そして今私のことを好きでいてくれているファンのみんなが、そっちの方を応援し始めたら?
そんなことをたまに考えていたので、皿ちゃんのその言葉は、私の心のやわらかいところを優しくなでてくれた。
「ところで、本当に小石様はこの事件の犯人を捜すのですか?」
「ええ。友達と一緒にね」
「私たちも手伝いたいところなんだけど、今大手VTuber事務所さんとお仕事してて、本当にごめんね!」
その気持ちだけで、十分だ。
「ううん。それに皿ちゃんを荒事に巻き込みたくないし」
「いざとなったら紫暮くんを送りつけるから!」
「いつでも小石お嬢様のもとに、馳せ参じましょう。地獄の底までお供致します」
とても心強い。
「ありがとう。その時は頼むわね」
遠くから見守ってくれているだけでも、きっと人は戦う元気を取り戻せるものなのだろう。




