第22話:港区事変
【登場人物】
・氷室稲置
ミコ(小石)のマネージャーだったが無職になったがめでたく再就職した。19歳。高校時代は生徒会長をしていた。料理がそこそこできる。変人をなぜか吸い寄せてしまう人生を送っている。
・淡野瑞希
主人公の後輩の女子高生。剣道有段者。眼鏡が似合うショートカット。大阪出身で関西弁。稲置の懐刀。剣道部の後輩にはスパルタ。
・速水小石(はやみこいし。ハンドルネーム:ミコ)
女子高生VTuber。主人公の後輩で、過去に引きこもりだったところを助けられてから配信者のマネージャーの仕事をしてもらう関係。副業で探偵をしている。タワマン部屋のガラス修理代で今月は赤字。
・青島慎次
40代の刑事。池袋警察署に勤務している。刑事部捜査第一課所属。彼女募集中。
「それで、ようするにこういう事ですか? 淡野さんと瓜二つの何者かが訪ねてきて、突然ナイフを突きつけてきて速水さんを襲い、それを氷室さんがかばって腕を刺され、対抗したらその何者かはタワーマンションの窓ガラスを破ってハンググライダーで月夜に消えたと」
青島刑事は、手帳に万年筆で何やら書きながら、眉をひそめながら確認した。
「まあ、大体そうです。この傷を見れば本当だって分かるでしょう」
「……それはお気の毒でしたな。私も星を上げる……犯人を捕まえるときにここを刺されたことがあります。その時はぶっ倒れて2週間は病院のベッドに縛り付けられましたよ。現場に戻りたいって言っても警部が聞く耳持たなくてね」
自分の腹を指さして言った。破天荒だ。
「あたしらもわけわからんことだらけでそう言うしかないんです。変装にしては自然すぎるし、2人の話じゃ声もそっくりだったって話や。自分の声なんてじっくり聴かへんからあたしは分からんかったけど、あそこまでそっくりモノマネされると気色悪いもんなんやな。モノマネ芸人に真似される芸能人の気持ちが分かったわ」
淡野は語る。何者かに自分のアイデンティティをコピーされ、命懸けの死闘を演じたあとの女子高生とはとても思えない。ひょっとしてお前のほうが偽物じゃないだろうな?
「稲置先輩、あたしの顔になんか付いとるん?」
「いや?」
池袋警察署の取調室。そこに3人と青島刑事はいた。人生で2度目の事情聴取。いくらなんでもインターバルが短すぎる。
「昨夜の港区上空をそんなものが飛んでいた、という目撃証言は取れなくてですね。タワーマンションのガラスが割れたところを見た人はいたんですが。黒いハンググライダー、だとしたら無理もないのかもしれないですが。何か人から恨みを買うような覚えはありませんか?」
「……恨みを買う、ですが。それは分かりませんが、襲ってきたやつは間違いなくノエルちゃんの事件の犯人です。使ってきたのも果物ナイフでしたから」
稲置は左腕の包帯を見ながら言う。病院で輸血と点滴を受けてきた後だ。まだ動かすだけで痛みがある。これをもし腹部に受けていたらどうなっていたか、考えたくもない。
「……その可能性は高いでしょうな。しかしそうだとして、犯人があなた達を狙った理由が見えないんですよ。最初に思いつくのは、犯人にとって不都合な証拠を握っているとか。そうでなければ2度目の襲撃事件なんてリスクのある行動を取るはずがありません」
青島刑事の推理。それも最もな話だろう。殺人事件はただでさえ多くの証拠が残る。亡骸という証拠。現場という証拠。目撃証言という証拠。
しかしタワーマンションという閉鎖的な環境を逆手に取って、助けを簡単に呼べないという状況を逆に利用されるとは。なんて奴だ。
「あたしらが事件を調べてたからや。友達の親友がやられたんや。高校生だからって危ないことはやめろって言われるかもしらんけど、うちはどうしても許せへん。この池袋という街に、人一人殺めても野放しでのうのうと飯食って、平気な顔して道を歩いてる奴がまだおるって事実をな」
「淡野……」
その通りだ。
じっとしてるなんてできるはずがない。
「……お気持ちは分かりました。ですがあとはどうか我々に任せてもらいたいです。そして」
青島刑事は、他でもない俺、稲置の方に向き直った。
「火将ノエルさん殺害事件の容疑者が特定されました」
「……え?!」
「ホンマですか?」
「…………」
小石はなぜか、青島刑事の表情を一人冷静に観察した後、俺の方に視線を移した。その頬には一筋の汗が。
「火将さんのマンションの管理人に裏を取ったところ、当時に彼女の部屋に立ち入りできた人間でアリバイの無い人間はただ一人、それは氷室稲置さん。あなたです」
世界が、不協和音を奏でながら急速に歪んでいった。




