第2話:正義は民衆にあり
【登場人物】
・速水小石
女子高生VTuber。ハンドルネームはミコ。主人公の後輩で、過去に引きこもりだったところを助けられてから配信者のマネージャーの仕事をしてもらう関係。副業で探偵をしている。
・氷室稲置
小石のVTuber活動のマネージャーしている。19歳。高校時代は小石の通う高校で生徒会長をしていた。
「あー社長ってあのおっさんのことね。この前DMでご飯誘ってきてあからさまに下心出してきたからつい配信で言っちゃった!」
小石はスマートフォンをいじりながらそう言った。
彼女は自分の配信であろうことか、企業案件を貰った相手の社長について攻撃的な発言をしたのだった。しかしどうやら裏ではそのような事情があったらしい。とはいえ。
「……そういうことかよ。案件くれたのもそういうことか。ロリコンの風上にも置けない野郎だ。とはいってもうちみたいな個人配信勢にとっては大口のお客さんは貴重なんだから手加減してくれよ……。じゃないと明日から昼飯だけじゃなく晩飯もパスタになるぞ」
「むむむ……それはやだなあ。ていうかそんなにうちって売り上げやばかったっけ? あんた私に隠れてキャバ嬢に貢いでたりしないでしょうね?」
「おまえに来るクレーム処理のコストがほとんどだよ!!! この前北海道まで俺が土下座しにいったのを忘れたか!!!!!!
!!!!!! すすきのにすら寄る暇もなかったしな!!!!!!!!」
「すすきのってなあに?」
小石はきょとんとしている。純粋培養の筋金入りの引きこもりは基本的に世間のことを何も知らない。
「……知らなくていいよ。てか論点すり替えてんじゃねえ! これ以上気の狂った配信を続けるなら俺はお前を訴えるぞ!!!」
「いーよ。高いお金払って弁護士さん雇うから。そもそも稲置くんは正社員じゃなくて業務請負だからどこまで権利を主張できるかは微妙だけど、それでも喧嘩売るっていうのなら小石も正々堂々買ってあげる! 配信のネタになりそうだしー」
「ぐ……この資本主義の犬め!! 今に見てろ!!! 今に俺たちは結束してクーデターを起こすからな!!! 正義は民衆にこそあるんだよ!!!」
「稲置くん友達そんなにいないじゃん笑」
「があ!! おまえ!! それを言ったら戦争だ!!!」
「受けて立とうじゃないの!!」
このあと2人はめちゃくちゃスマブラした。
「おい小石! ハメ技は禁止だぞ!」
「私の辞書にはそんな概念は無い!! 負けたらゴミ!! 敗者は一生地べたを這いつくばってなさい!!」
「てかお前だけコントローラが配信用の特注な時点でおかしいだろ!!」
「悔しかったら企業案件取ってきなさい!! 1件につき1000円給料上げてあげるからー」
「プロコントローラ買うまで何件かかるんだよ!! インセンティブ設計が下手すぎる!!!」
※インセンティブとは、要するにめんどくさいことをするためのご褒美、みたいなもののことです。
「小石ちゃんのために頑張らせて頂けるっていう最高のインセンティブがあるじゃない。世の中お金じゃないのよ?」
「大金払って弁護士雇おうとするやつに言われても説得力ねえよ!! 俺だって彼女作ったり推しに課金したりしたいんだよ!!」
「なにそれ……他に推しがいるなんて聞いてないんだけど!!! あんたは私だけ観てなさいよ!!!」
「よくもこれだけの仕打ちをしておいてそんな口がきけるな!!! 家事もしないわ料理はマックを電子レンジにかけることだ、なんて言う始末だわ、安月給で異次元の仕事量を振り続けるわ!!! お前なんか貰い手いるわけない!!!」
小石はその整った陶器のような顔を、秋の紅葉のように紅潮させ、次の一言を言い放った。
「クビ……」
「へ……?」
「あんたなんかくびよっっっっ!!!!!!!!!!!」
こうして俺は住み込みのマンションを追い出され、血統書付きの無職に転落したのだった。




