第18話:厄介ファンにご注意を
【登場人物】
・速水小石
女子高生VTuber。主人公の後輩で、過去に引きこもりだったところを助けられてから配信者のマネージャーの仕事をしてもらう関係。副業で探偵をしている。
・氷室稲置
ミコ(小石)のマネージャーだったが無職になったがめでたく再就職した。19歳。高校時代は生徒会長をしていた。料理がそこそこできる。変人をなぜか吸い寄せてしまう人生を送っている。
・千本桜皿
イラストレーター。この時代にアナログの技法をメインに使う絶滅危惧種。小石の熱狂的なファン。小石と親しい稲置を敵視している。
・丘砂紫暮
皿の執事。特技は早業で紅茶を淹れること。
「……貴方がミコちゃんにつきまとうお猿さんですか。今度貴方をモデルにした同人誌描いていいですか? だめって言われても描きますけど」
「……千本桜さん、か。会うのは初めましてですよね? ちょっと毒が強すぎやしませんかね?」
場所は変わって小石のタワマン部屋。
いつものように厳重なセキュリティを通り抜け、上層階の部屋にたどり着き、中に入るや否や彼女はそこに立ち塞がっていた。
千本桜皿。
小石の仕事仲間の、そして信者的なファンの一人でもある、イラストレーターだ。ペンキまみれのいかにも画家、といった服装をしている。今時のイラストレーターとしていささか珍しいかもしれない。
「お嬢様、氷室さまが困っておられます。ここは剣を鞘にお納めください。この方は小石様の敵ではございません」
中世ヨーロッパのお屋敷から飛び出してきたような、あるいは某執事漫画から実体化したような、この世界にはあまりにそぐわない男が彼女の側に仕えていた。見事な銀髪だ。どうやって染めているのか。
しわ一つない見事な執事服を着こなしている。一つ一つの所作が美しい。
「敵よっ!!! VTuberに男の影なんてあっちゃならないでしょうが!!! 私がファン代表としてあらゆる精神攻撃を開始しないと」
「小石こいつを止めてくれ!!!」
「ごめーん今作業中で忙しいーーー」
奥の部屋から声だけで放置宣言。
厄介なファンとそれを放置するVTuber。これこそがこのネット世界が荒れる原因そのものなのでは!?
「稲置様、お初にお目にかかります。私は丘砂紫暮と申します。皿お嬢様にお仕えする執事でございます。以後お見知りおきを。皿様のご友人には全身全霊でご奉仕させて頂きます」
「……またキャラ濃いのが出てきたよ」
「癖が強いとはよく言われます」
まぶしいほどの笑顔。これがイケメンってやつかあ。なんだかしつこい。
「紫暮くん!!! そんなやつに優しくすることないわ!!! とりあえず紅茶!!!」
「はっ。今すぐに」
執事はどこかに消えたかと思えば、ものの3分ほどで紅茶のティーカップを携えて戻ってきた。四次元ポケットかな?
「ロイヤルミルクティーでご用意いたしました」
「ありがとう。今日もおいしいわ」
「有りがたき幸せ」
「とりあえずお前らは何しに来たんだ?」
敬語を使おうという気持ちは大気圏を超えて海王星まで飛んで行ったようだ。
「ミコちゃんに呼ばれたのよ。なんでもVTuberの3Dアバターのモデリングについて聞きたいからってね」
「……ああ、それでか」
「そうだよーん。配信乗っ取りに使われたノエルちゃんの配信用アバター、あれを本人以外が入手、もしくは複製できるかどうかクリエイター目線でききたくてね」
小石がようやく姿を現した。おでこに冷えピタを貼っている。
「3Dモデリングは専門外だけど、私の絵をアバターにしてもらう時によく手伝ってもらうから多少ならわかるけどね。配信のアーカイブは見たけど、ほとんど既存の配信のものと同じと言って良いわね。見よう見まねでコピーしたとは思えない。確実に同じモデラーが作ったもの、もしくは同一のCGデータを使ってるでしょう」
「やっぱそうよねー。となるとノエルちゃんが誰に頼んでたかだけど。SNSみても書いてないのよね。まあそういう情報を隠す人は普通にいるだろうから不自然ではないか」
「表で書きすぎると面倒事はつきものよね」
「俺のことも守ってほしかったなあ」
「「なんか言ったっっっ???」」
「なんでもないです」
「稲置様、お気持ちはお察しいたします」
捜査をしているとは思えないようなコメディがかった雰囲気が、港区のタワマンの一室を包み込んでいた。これはどの世界線から流れ込んできたラブコメ臭だろうか。




