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辺境観測士、鑑定AIで魔術を最適化する~今日もデータ片手に、幼馴染とまったり研究生活~  作者: hiyoko


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 リオルは羊皮紙を懐にしまいながらふと《鑑定》の事を思いついた。魔術と違って理論的に最適化できないスキルだが研究者の目から見たらどう映るのか。

 アデリナはすでに次の研究資料へ手を伸ばしていたがリオルが口を開く前にその手が止まった。

アデリナ「何かね?」

 その声は淡々としていたがリオルの躊躁いを察したようだった。

リオル「いえ、僕の持ってる《鑑定》スキルも魔術だったらもっと効率化したり工夫できたかもなあって思ったんですけど」

アデリナ「《鑑定》か。私たちからすると羨ましい限りだがね。研究では正確な情報が全てだ、侮れないスキルだよ」

 アデリナは立ち上がり研究室の隅に置かれた古い機械を指差した。

アデリナ「せっかくだ。これを見てみないかい? 動かなくなった古い機械なんだけどね何か直すヒントにでもなれば」

 それは魔力測定器だった。表面は錆び内部の一部が剥き出しになっている。金属の枠組みは歪みガラス部分には亀裂が走っていた。リオルは近づき《鑑定》を発動した。

 視界の端に情報が流れ込んでくる。名称、用途、破損箇所、その原因。そして修復方法まで。リオルはその情報を整理し口にした。


《鑑定応答》

・名称:古代式魔力流量測定器

・用途:周囲の環境魔力密度を連続測定し、長期記録する装置

・破損箇所:内部魔力流入チャネル(第三層)の結晶構造崩壊

・破損原因:魔力流量の異常上昇による過負荷 → 緊急停止機構作動

・修復可能性:魔力流入チャネルの再結晶化により修復可能

       必要素材:低純度魔石粉末、触媒としての銀粉

       手順:破損部分を加熱(約200度)し、魔石粉末を流し込み再結晶化

・推定稼働年数:約三百年。破損時期:約百年前。


 リオルはその結果を口にした。用途、破損箇所、その修復方法。一つ一つを淡々と述べていく。アデリナの表情は大きく変わらなかったが目だけが鋭くなった。

アデリナ「……リオル君、君の鑑定はどういう仕組みなんだい?」

 その声は少し早口だった。詰め寄りはしない。ただ興味のみがそこにあった。リオルの背筋がわずかに緊張する。やはり気づかれたか。

アデリナ「その《鑑定》結果は破損前の内部構造まで読めているね。普通の《鑑定》では壊れた魔道具として結果が出るんだよ。破損部分が出る事自体はおかしくないが……修復方法まで出るのは聞いたことがないな」

 アデリナは机に戻り何かをメモし始めた。その手の動きは速く思考が加速しているのが分かった。リオルは内心で少し焦りながらも表情には出さないよう努めた。どこまで話すべきか。自分でも仕組みは分からない。それは本当だ。

リオル「まあ情報収集には便利なんですけど。仕組みはよくわからないんですよね」

 リオルは自分の《鑑定》について改めて考えた。なぜここまで詳細な情報が出るのか。それは前世の知識が影響しているのかそれともスキルそのものの特性なのか。ただ一つ確かなのはこの異常さを安易に見せるべきではなかったかもしれないということだった。

アデリナ「興味深いね。非常に興味深いよ、リオル君」

 アデリナはそう言いながらも顔を上げずメモを取り続けていた。ペンが羊皮紙を走る音だけがしばらく続いた。リオルはアデリナが書き続けるのを見守った。その手の動きは速く思考が止まらない様子だった。リオルの胸の内では小さな焦りが渦巻いている。研究者の興味は止まらない。このまま深く追求されたらどうしよう。しばらくしてアデリナはペンを置いた。

アデリナ「リオル君。君の《鑑定》は通常のものとは明らかに異なる何らかの特殊な要因が働いているようだが……」

 その言葉にリオルは内心でヒヤリとした。特殊な要因。それは転生者である自分の前世の知識なのかそれとも別の何かなのか。

リオル「特殊な要因、ですか」

アデリナ「まあともあれ有用な能力だ。ルーネ教授あたりが喜ぶかもしれないな。どうだね、都合のつくタイミングで鑑定の仕事でも請け負うというのは。資金にもなるしいろんな研究者に会う機会にもつながる」

 アデリナはそう言いながら古い測定器を見つめた。リオルは小さく息をついた。個人差という説明で済んでくれたのは助かった。これ以上深く追求されなかったことに内心で安堵する。

リオル「はいそうですね。是非時間あうタイミングでやってみたいです」

アデリナ「この測定器、君の《鑑定》結果を信じるなら修復できるかもしれないね」

リオル「魔石粉末と銀粉があれば恐らく…」

アデリナ「ふむ。それなら試してみる価値はあるかもしれないね。古い測定器だが君の《鑑定》通りに修復できれば使えるだろう」

リオル「修復ですか」

アデリナ「ああ。君が示してくれた手順で試してみるよ。もし動けば私の研究にも使えるからね」

 その言葉は淡々としていたがリオルには確かな興味が感じられた。

リオル「ありがとうございます。もし何か進展があればまた報告します」

アデリナ「うむ。期待しているよ」

 アデリナは再び机に向かった。その動作が会話の終わりを示していた。だがその前に一つだけ付け加えた。

アデリナ「それと……さっきの飲み物。時々差し入れてくれると助かるよ。もちろんいくらか払おう」

 コーヒーのことだ。リオルはアデリナの研究室を見回した。この空間で得られる知識と貨幣との交換比率を考えれば答えは明白だった。

リオル「材料費だけで十分ですよ。それより……たまに研究の相談に乗ってもらえれば」

アデリナ「ふふ言われなくてももちろんだ」

 アデリナはそう言ってメモの束を整理し始めた。リオルは軽く頭を下げる。アデリナは頷きを返したがその視線はすでに次の羊皮紙へ向いていた。


 リオルとノエルは研究室を出た。扉を閉めると廊下の静けさが戻ってくる。

ノエル「お疲れさまですリオくん」

リオル「うん。随分長く話し込んじゃったね」

 二人は階段を降り始めた。古い絨毯を踏む音が静かな学士棟に小さく響く。

ノエル「アデリナ先生、独特な方でしたね」

リオル「うん。研究以外眼中にないって感じだけど初学者の育成には熱心そうで助かったよ」

 リオルは階段を降りながらアデリナの言葉を反芻していた。《鑑定》の特異性。研究の目的を大きく持つこと。そして魔術理論の専門家という相談相手を得たこと。それらが少しずつ繋がり始めている。

ノエル「《鑑定》の結果にとても驚いていらっしゃいましたね」

リオル「うん。普通の《鑑定》とは違うって言われたけど……正直自分でもよくわかってないんだよね」

 リオルは自分の《鑑定》について改めて考えた。なぜここまで詳細な情報が出るのか。それは前世の知識が影響しているのかそれとも何か別の要因があるのか。

ノエル「でもその《鑑定》は便利ですね。いろいろな場面で役立ちそうです」

リオル「そうだね。まあ使いすぎると怪しまれるかもしれないけど」

 ノエルは静かに頷いた。

ノエル「研究の相談に乗ってくださる方が見つかったのも良かったですね」

リオル「そうそうコーヒーを気に入ってくれたのも嬉しいし良い出会いだったよ」

 二人は一階へ降り受付の職員に軽く会釈して学士棟を後にした。外は夕暮れ時で空が薄い橙色に染まっている。ファルドの街並みが柔らかい光の中に沈んでいた。

 リオルは空を見上げた。研究の目的。魔術の効率化。そしてアデリナという専門家との繋がり。それらが今日の会話でわずかに形を持ち始めた気がした。

ノエル「今日は充実した一日でしたね」

リオル「うん。散布実験も済んだしアデリナ先生とも会えた。また定期的に来たいな」

 ノエルは静かに頷いた。二人は夕日に照らされた道を並んで歩いていく。リオルはアデリナという相談相手を得たことを静かに実感していた。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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