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辺境観測士、鑑定AIで魔術を最適化する~今日もデータ片手に、幼馴染とまったり研究生活~  作者: hiyoko


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 遺跡の入口に到着したのは、太陽がまだ低い時間帯だった。リオルが以前刻んだ印を確認し、隠し部屋の扉を開く。かすかな音を立てて、石造りの通路が現れた。新しい剣を帯びたノエルは、その通路へ静かに足を踏み入れる。

リオル「静かだね。一応、安全そうではあるかな…? もちろん油断はしちゃだめだけど」

ノエル「ゴーレムは倒しましたからね」

 二人は慎重に進んだ。通路の空気は冷たく、わずかに湿った匂いを含んでいる。前回の調査から経った時間の中で、何かが変わった痕跡はない。ただ沈黙だけが堆積している。制御室の残骸エリアに着いたのは、陽が頭上に来た時刻だった。ここは以前、何かが動いていた痕跡があった場所。今は完全に静寂に包まれている。

 破損した制御盤が、暗い石の壁に浮かび上がっていた。その周囲には、細い導管が複雑に張り巡らされている。一部は焼け焦げており、その色は黒く変色している。焼け焦げた部分から立ち上る、微かに金属的な匂いがした。

リオル「前も思ったけど、何かの循環システムだ」

ノエル「液体を送る仕組み……でしょうか」

 リオルは制御盤に近づき、その表面の傷や劣化パターンを観察した。焼け焦げは局所的ではなく、複数の箇所に散在している。それは過負荷が段階的に進行したことを示していた。その配置を見つめながら、彼は考えをまとめていく。

リオル「とも限らないかな。液体・気体とも違う、あるいはもっと別のものとか」

 その言葉を口にしながら、リオルは《鑑定》を発動させた。心の中にアインの応答が浮かぶ。

《鑑定応答》

推定機能:循環制御装置。内部に魔力反応の痕跡あり

損傷状態:部分的焼損。過負荷による劣化の兆候

注意喚起:内部構造の詳細は不明。データ不足の可能性あり

アイン(複数の焼損箇所が確認されます。段階的な過負荷進行の痕跡と判断します)


 ノエルが導管に触れようとしたのを、リオルは手で制した。

リオル「触らない方がいい。何か反応する可能性がある」

 その制止に、ノエルは手を引く。彼女の瞳は、この施設の奥深くへと向かっていた。制御盤の表面を丹念に眺めながら、リオルは数字らしき刻印を確認する。それらの意味は読めず、ただ刻印の配置だけが規則的に残されている。何かを計測し、記録していた――その痕跡だけが。

ノエル「この施設、一体なにを扱っていたのでしょうか」

リオル「何かを送って、また戻す。そういう循環の仕組みなのかな」

ノエル「外部へも繋がってるかもしれませんね」

 その指摘は正しい。リオルが導管をたどると、いくつかの太い管が奥へと繋がっていた。その先は、おそらく外部へ向かっているはずだ。だとすれば、この遺跡は単なる建造物ではなく、外部と何かを「やり取り」していた施設だということになる。

 更に奥へ進むと、前は気付かなかった扉が見えた。ゴーレムはこれを守っていたのだろう。その前には、石と金属が複雑に組み合わさった施錠機構がある。リオルが導管の痕跡をたどり、その構造を《鑑定》で読み込んだ。複数の施錠が、魔力の流れによって連動するように設計されている。数分後、機構が音を立てて解放された。扉が少しずつ開く。その先は、予想を超える空間だった。

 巨大な空洞。天井は見えず、壁も遥か向こう。その中央に、何かの装置が立っている。それは観測機器の残骸だった。複数のレンズ状のもの、針金のような導管、そして文字盤のような面――全てが、ここでかつて何かが「測定」されていたことを物語っていた。装置の周囲には、かつて何かが爆発したような痕跡がある。床は砂粒のように割れており、壁には黒い焼き跡が走っている。

ノエル「見たことのない構造ですね。いずれの設備も」

 その言葉に、リオルは深く頷いた。巨大な空洞を見上げながら、二人は立ちつくす。この空間全体が、かつての測定の意図を秘めているかのように。天井の暗がりの中に、無数の刻印や配線が、今も尚、かつての記録を保持しているように見えた。

リオル「こんな規模で何を測定していたんだろう……」

 ここは遺跡ではなく、施設だ。かつて誰かが、明確な目的を持ってこの空間を作った。その目的が、いま床に焦げ跡として、壁に焼き跡として、残されているだけ。

 観測装置に近づくと、その表面に細かい刻印が見える。リオルは改めて《鑑定》を使った。

《鑑定応答》

推定用途:長期観測装置。対象は広範囲の魔力量と推定

記録媒体:内部データ保存機構あり

注意喚起:解読不可。記録形式が不明

アイン(観測対象の地理的範囲は判定できません。但し、内部記録容量から推定すると、相当期間の連続観測が行われていたと考えられます)


リオル「《鑑定》する限り、ここは魔力量を観測していたんだと思う。かなり広い範囲の」

 その言葉に、ノエルはゆっくりと頷く。観測装置の周辺に積もった埃を見つめながら、二人は同じ疑問に辿りついていた。

ノエル「広範囲ということは、この遺跡だけではなく……」

リオル「周囲一帯かな。もしくは、もっと広いのかもしれないけど」

 更に詳しく観測装置を調べると、その一部から微かな文字が見える。リオルは装置に触れ、目を閉じた。心の中で、アインが情報を抽出する。沈黙の時間が流れる。装置から微かに感じられるのは、内部に保存されていた何らかのエネルギーだ。アインがそれを辿り、解析している。その過程は、言葉を持たない。ただ、データが復号されていくのを感じるだけだった。

《鑑定応答》

最後の記録が復号可能。内容は以下:

- 「急激な魔力低下。回復機構起動」

- 「補助回線開放。最大出力継続」

- 「警告。出力過負荷に達した」

- 「警告コード一致(一致内容不明)」

- 記録終了

アイン(記録の時系列は判定できません。記録媒体の劣化が著しく、その後のデータは喪失しています。最後の記録は、何らかの異常終了の直前と推測されます)


 リオルは目を開いた。その応答は、簡潔でありながら、多くのことを物語っていた。

 沈黙が落ちる。二人は、その記録の意味を咀嚼していた。急激な魔力低下。回復機構の起動。補助回線の開放。そして――過負荷。

ノエル「何かわかりましたか?」

リオル「過去に事故、みたいなものが起こったみたい。かなり深刻な」

 ノエルはその言葉を聞いて、空洞全体を見回した。この巨大な空間が、かつて何かの調査に費やされていたのだ。そして、その調査は失敗に終わった。かつての記録が、今もなお、この空間に刻まれている。

リオル「魔力が急激に低下したんだと思う。システムは回復を試みたけど、追いつかなかったんじゃないかな。最後には補助回線を全開にしても対応できないほどの過負荷が発生した、とか」

 リオルは観測装置の周囲を更に調べた。床には、焼き焦げた痕跡が残っている。それは爆発、もしくは極度の過負荷による跡だった。何か物質的なものが、高熱で変質している。その一部は、完全に灰になっていた。

 二人は、その空間に立ちつくす。周囲の静寂が、かつての事故がどれほど深刻だったかを物語っていた。この施設が失敗に終わったとき、土地に何かが起こった。観測装置は、ロウディアの魔力を長期観測していた。その過程で、何かが起こった。

リオル「何かの魔力を長期観測していたのかな。その過程で、何かが起こったんだと思う」

ノエル「何かが起きた結果、魔力が低下したのですね」

リオル「その可能性が高いと思う。補助回線を全開にしても対応できないほどの事態が」

リオル「魔力低下への対応が失敗したのか、それとも……」

 その言葉は、一つの問いを残したまま、空洞の中で消える。

ノエル「魔力低下そのものが、この施設の機能不全の結果なのかもしれませんね」

 ノエルの指摘は、因果関係を逆転させた。施設の事故が土地を衰弱させたのか。それとも、土地の衰弱が施設を機能不全にしたのか。その真実は、今も装置の沈黙の中に隠されたままだ。

 リオルはアインに更なる解析を指示した。装置から抽出できたデータは、まだ限定的。ここで何かが起こったこと。それだけは確実だ。

リオル「長期観測していたんだと思う。広範囲の魔力量を記録していた。その記録が、ここで終わったってわけだ」

ノエル「いつ頃のことなのか、判別できるのでしょうか」

リオル「装置の劣化度合いから、ある程度は推測できるかもしれないけど」

 黙考の時間。リオルは装置の周囲を見つめる。床の灰、壁の焼き跡、天井の暗がり。全てが、かつての事故を証言している。その時間軸は、言葉では測れない。ただ、痕跡の重さだけが、その年月を物語っていた。

リオル「わかる範囲の情報だけど、この施設が観測していたのは広範囲の魔力。なんらかの事故が起こり、急激な魔力低下が発生した。そしてここ、窒息の地ロウディア」

 一つずつ、因果は繋がっていく。観測装置は魔力を観測していた。システムは過負荷に達した。その結果として、記録は終わった。そして、その事故は現在のロウディアへと繋がっている。

リオル「この施設で起こった魔力災害が原因でロウディは窒息してしまったんじゃないかな」

 今はもう動いてない遺跡の装置から、ある種の脈動を感じた気がした。もちろんそれは気の所為だ。しかし、リオルにはそれらが自分の発言に対して頷いているように思えた。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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