7
「ヴァルクネアさん、この街を出ましょう」
「そうだな、少し目立ちすぎた」
そんなわけで私たちはこのピックの街を後にすることにした。
夜の森に入るとヴァルクネアさんは服を脱いでドラゴンの姿に戻った。私はその服をアイテムボックスにしまってヴァルクネアさんの背中に跨ってその体にしがみついた。
こうして私たちの夜間飛行は始まった。風が冷たい。凍えてしまいそう。でも私には魔法が使える。防風シールドをイメージして魔力を練り上げる。成功だ。そうしてアイテムボックスから毛皮を取り出して体に巻きつけた。迷宮で寝床に使っていたあの毛皮だ。私が防風と防寒対策をしたことに気付いたヴァルクネアさんはスピードを上げた。
景色が流れるように変わっていく。太陽の下ではきっと美しいのだろうその光景も月明かりの下ではよく分からない。いくつかの街の灯りを通り過ぎてヴァルクネアさんはようやく地上へと降り立った。私はヴァルクネアさんの背から降りて服を差し出す。目は閉じている。瞼の裏でヴァルクネアさんが光ったのが分かった。服の重さが手からなくなる。
「ウメノ、ボタンをとめておくれ」
仕方がないので目を開けてヴァルクネアさんのシャツのボタンをとめていく。ズボンのボタンがとめられるのだからシャツも自分で着られるだろうに。恐らく甘えられているのだろう。悪い気はしなかった。
「ヴァルクネアさん、今夜はここで眠りますか?」
「いや、街へ入ろう。一時間も歩かずとも着くはずだ」
三十分ほど歩いて街へ入った。宿はどこもいっぱいでなんとか見つけた宿はシングルしか空いてなかった。宿の主人の許可を得て二人でその部屋に泊まった。
「ウメノよ、寝床はどうするのだ」
「仕方がないので一緒に寝ましょう」
「よいのか? 人のメスは番以外のオスとは同衾せぬものだと思っていたが」
「基本的にはそうですね。でも床に寝るスペースもないですし仕方ないです」
「水浴びは?」
「順番にしましょうね」
しょんぼりしながらヴァルクネアさんはお風呂場に向かった。なんでヴァルクネアさんは私と一緒に水浴びをしたがるのだろう? そう疑問に思ったから聞いてみれば離れがたいとのことだった。そんなに私のことが心配なのだろうか。
お風呂から出てきたヴァルクネアさんの髪を拭いてやる。彼はこれをされるのが好きみたいだ。
私もお風呂に入って試してみたい魔法を使った。名付けてドライヤーの魔法である。髪は一瞬で乾いた。焦げたりもしていない。成功である。
「ヴァルクネアさん、髪の毛乾かしてあげますね」
ドライヤーの魔法をかければヴァルクネアさんの長い髪が一瞬で乾いた。ヴァルクネアさんは私を抱きしめてそのお腹に顔を埋める。私はベッドに腰掛けるヴァルクネアさんに跨るように膝立ちになっている。ドラゴンの時は擦り寄っていたが人型だとこうなるのか。サラサラとしたその髪を手慰みにとく。
「ヴァルクネアさん、どうしたんですか」
「ウメノ、おぬしからはいい匂いがするのだ。できることならずっとこうして嗅いでいたい」
それにどう答えればいいのか分からなくてなにも言わずにヴァルクネアさんの頭を撫でた。
「寝ましょうか」
「ああ」
+++++
その晩、ヴァルクネアはなかなか眠れなかった。感じたことのない熱が自身を包んでいた。ジリジリとしたこの焦燥感にも似た情動をヴァルクネアは知らなかった。隣ではウメノが眠っている。その体に触れたかった。体中全部触れて、舐めて彼女と一つになりたいとそう思ったのだ。そこまで考えてヴァルクネアはようやく気がついた。ウメノは自身の番なのだと。




