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3.友がみえる

私の名はネフェメラリ。

女の魔族でありながら、自らの研究の功績を讃えられ、魔王様よりボーダー領を任されている。


とある日。

遠隔地への音声連絡用魔道具「魔電」が信号を受信する。

この座標は・・・珍しいな。

通信を繋ぎ、応答する。


「私だ。久しいな、ローズ。最後に通信をとってから1年ほど経つが、息災か?」

「は。主人様。」


連絡を寄越してきたのは、優秀な頭脳とスキルを兼ね備える私の有能な部下ローズのようだ。

久々の相手に話を弾ませたくなる気持ちもあるが、何か違和感を感じる。

そうか。

いつもの彼女ならば、私のことを主人様とは呼ばない。


「付けられておるのだな?」

「遮音の魔道具を使用していますので、誰かに聞かれることは無いと思いますが、念のためにと。」


ローズが慎重なのはいつものことだが、それ以上に何か怯えてるように感じる。


「ネフェメラリ様。急な話で申し訳ないのですが・・・。」

「結界はこちらで処理しておく。速やかに帰ってきなさい。報告は戻ってきてからで良い。」

「えっ・・・。」

「其方の考え、私が分からないとでも?」


ローズの声が震えている。

恐らく、逃げることしかできない状況にあるのだろう。

よほど危機感を抱いているようだ。


「ありがたき幸せですわ。それで、あの・・・。」

「ん?よい、話せ。」


報告は後で良いということをローズは十分理解している。

それにも関わらず、冷静沈着であるはずの彼女が今私に何かを聞きたがっていることに少々驚く。


「あの・・・主人様は、その・・・フィーシャ王女殿下とお知り合い、なのですか?」

「あー・・・。」


いつかローズには話しておく必要があるとは思っていた。ここが潮時か。


「そうだ。」

「な、なぜ・・・!」

「そのことについても、ローズがこちらに帰ってきたら話そうか。」

「あ・・・はい。分かりましたわ。」


ローズの声がますます細くなる。

私はローズを傷つけてしまったのだろう。

ローズは大の人族嫌いである。

そんなローズが、私が人族と繋がりがあることを快く思わないのは当然だ。

我が子のように可愛がっているだけに、ローズを苦しめてしまうことに私としても胸が痛む。

ここは少し口調を柔らかくしようか。


「ローズ。私は其方に無事帰ってきてほしいと願っています。」

「ネ・・・主人様っ!」

「色々と聞きたいこともあるでしょうが、まずは今を生きることに専念なさい。」


顔は見えなくても表情は分かる。

ローズはふるふると首を振り、自身に喝を入れ、深呼吸する。


「主人様のお言葉、痛み入ります。わたくし、必ずや帰還することをお約束いたしますわ!」


ローズは背筋を伸ばす。

もう大丈夫そうね。

この子には、つい甘くなってしまう。

だが、失う命は少ないに越したことは無い。

本当に無事で帰ってきて頂戴。

ローズとの魔電から5日後。

私はいつもの研究室で休息を取っていると、扉の奥よりよく知る者の気配に気づく。


「ネフェメラリ様、ローズにございます。」

「入れ。」


扉が開く。

そこには、ケガ一つとしてない見目美しい魔族の少女が佇んでいた。


「おいで。」


こんなにも傷だらけで、とても可哀想に思ってしまう。

目の下の隈、力み過ぎの肩、服の皺。

そして、救いを求める表情。

私はその子に向けて優しい目で応える。


「はい・・・。」


震える声でその子は私に向かい、重い足取りで歩いてくる。

時間をかけて私のすぐ側まで寄ってくると、そのまま前のめりに崩れ落ち、頭から私の胸に飛び込んでくる。

私はそれを拒まずしっかりと、しかし、傷つけないように優しく抱擁する。


「よく頑張りましたね。」

「申し訳ございません!わたくし、わたくし・・・!」


私が彼女に掛ける言葉は、これだけで良いと直感的に理解する。


「ああ、分かっている。」

「う゛あ゛あぁあぁあぁあぁ!」


少女は全てが解放されたかのように勢いよく泣き崩れる。

今だけは、愛し子の5年間を私の全てで受け止めていたい———




数分は経っただろうか。

ローズは私の隣りに座り、いつの間にか私は膝枕をさせられている。

ローズは弱った顔つきだが、それでも落ち着きを取り戻している。


「落ち着いたか?」

「はい・・・。取り乱してしまいましたわ・・・。」


彼女の頭を優しく撫でる。

ローズが悲しんでいると、どうしても甘やかしてしまう。

これが母性というものなのだろうか?私には分からない。


「いつまでもこうしてやりたいが、すまない。そろそろ報告を聞かせてもらいたい。」

「いいえ、分かっていますわ。」


ローズはやはり聡い子だ。

だからこそ、一人で全てを抱えてしまわぬか、心配になってしまうのだが。


「フィーシャ王女殿下に直接会いましたわ。」

「彼女はどうであったか。」

「掴みどころのない、化け物に思えましたわ。」

「そうか。そうだな。」

「わたくし、フィーシャの鑑定もできましたの。」

「ほう。それは興味深い。」

「・・・やはり、貴方様も興味がお有りなのですね。」


ローズが少し不貞腐れる。


「私は何があっても其方の味方よ。」

「か、からかわないでくださいまし!」


顔を背けるが、声は少し嬉しそうだ。


「ふ、すまない。それで、どうであったか?」

「はい。能力値は人族の年相応のものでしたわ。」

「スキルは?」

「それが・・・『遠見』のスキルだけ持っていましたわ。」

「そうか。」


この子のスキルは超がつくほど優秀である。

だからこそ、フィーシャ王女殿下・・・フィーの秘密が分かるかもしれないと少し期待していた。

「遠見」スキルだけでは、今までのフィーの不可解な言動に説明がつかない。

何か・・・スキルをも超越した何かを持っているのであろうか。


「ただ、フィーシャにはわたくしの鑑定スキルを持ってしても解明できない何かがありますわ。」

「其方がこの短期間でそこに辿り着くとは、流石は私の優秀な部下よ。」

「ありがたきお言葉ですわ!」


すっかり元気を取り戻しているように見える。

だが、ローズは一向に私から離れようとしない。


「どうしてそう思ったか、説明してみせよ。」

「はい。フィーシャはわたくしの『遅死の鎌』が見えていました。」

「何!?それは真か?」

「ふふ、あの『冷徹なる研究者』も驚くこともあるのですね。」

「はあ。その二つ名は好いておらぬ。それに、私もいち魔族に過ぎぬ。」

「すみませんですわ。でも、そのお顔を見れてちょっと安心できましたわ。」

「もう膝枕せぬぞ?」


顔が熱くなる。さっきまで可哀想と思っていた相手にちょっとイタズラしたくなる。


「う、嘘ですわ!今のはちょっとした冗談で!」


ローズは懸命に釈明する。


「んん!まあ良い。それで、其方の鎌が見えたというのは真なのか?」

「はい、間違いありませんわ。明らかに鎌を怖がり、それを避けようとする行動をしてましたの。」

「よもや、そのようなことが・・・。」


フィーは予知ができる能力でもあるのだろうか?

それならば、色々と説明がつく。

しかし、予知ができるというスキルは聞いたこともないし、数多の文献にも載っていなかった。

それに、そのようなスキルを持っていないのはローズが証明してみせた。


「それに、もっと不思議だったのは、わたくしの正体を知っていたことですわ。」


ドキッとしたが、ローズに弄られたくないので平静を装う。


「ああ、それはだな・・・すまぬ。」


私は頭を下げる。

目の前を見ると、身と鼻の先にローズの顔ある。

血色が戻ったのか、さっきよりも顔が赤く見える。


「どどど、どうどうどう・・・。」


ローズは口早に何かを言おうとしているが、上手く口が回っていないようだ。

私は決していたずら好きではないので、このまま話を続ける。


「実は彼女とは定期的に通信をしているのだ。」

「え?・・・。」


宇宙が広がっている、ローズの瞳の奥に。


「・・・ネフェメラリ様。」


ローズは今度は真顔で私を見つめてくる。この距離なのに目が合っていない気がする。

ああ、いかん。

この子のスイッチが入ってしまったようだ。


「最後まで聞きなさい。」

「いやですわ。」

「聞きなさい。」

「いやですわ。」

「彼女は」

「いやですわ。」

「私は?」

「大好きですわ。」


自分で聞いておきながら、少し恥ずかしくなる。

このこそばゆい気持ちをどうしてくれよう。

ええい、やけよ。

私は自身の額とローズの額を合わせる。


「落ち着け。」


少しの時間差の後、ローズは茹で上がったようになり、やがて小さくなる。


「ひゃ、ひゃい・・・。」


ローズの額が熱い。息も熱い。

いや、私の体が熱いのか。

なんだか変な気分だ。


「落ち着いたか?」

「す、すみませんですわ。2度も・・・。」

「よい。私も思い出しとうないゆえ、忘れよ。」

「わたくしは忘れたくないですが・・・。」


小声が聞こえる。いや、私には聞こえていない。

ああ、私は本当にローズに甘い。


「・・・あれは其方がアームハイン王国に赴いて1年が経った頃だった。」

———



4年前、ボーダー領領主館。


「遂にこの時が来たか。」


長年に渡り研究し続けてきた魔道具「魔電」。

幾度の試験を繰り返し、今から初めて人族領に向けて発信するのだ。

目的は威圧。

魔族の技術力を見せつけ、国交を優位に進めるためだ。


「このボタンを押すと通信が始まる・・・。」


緊張しないと言えば嘘だ。

だが、ここまで積み重ねてきた研究の時間が、私を後押しする。


「座標確認、問題なし。魔電、起動する。」


座標は王城、王の部屋。

私はボタンを押し、魔電を起動する。

息を飲む。


魔電は発信者がその魔道具を所持していれば使用することができる。

まだ受信者側に通信を許諾する権利はないが、いずれは応答制にしようと考えている。

だが、敵国にそのような選択肢を与える義理はない。

私は変声機を取り付ける。


「人族の王よ、聞こえておるか?」


これは宣戦布告だ。

それも、敵に大将へ一方的に未知の力を見せつけるのだ。

どこに心踊らぬ者がいるだろうか。

王よ、畏怖するが良い。


「ふっ。突然のことで言葉も出ぬか。人族も落ちたもの・・・」

「あのぅ・・・。」


王とは似つかわしくない、可愛らしい声が聞こえてきた。


「わたち・・・おう・・・でしゅ。」

「・・・。」


たしか、この国・・・アームハイン王国の王は元勇者で、20代と聞いている。

若いとは知っていたが、人族の王はこのような幼稚な声をしているものなのか?


「あ・・・んとね。おとーさまは今いなくて、わたちがおーさまなの。」

「其方は何者だ?」


魔電は音声通信専用だ。

相手の声こそ聞こえはするが、その姿を見ることは叶わない。


「わたち、は・・・おとーさまのむすめなの。」

「アームハイン王の娘とな?」

「うん!」

「其方はいくつなのだ?」

「いつつ!」


これは参った。

畏怖を植え付ける相手が5歳児とは・・・。

むしろ、果たしてかような子どもが私の話を理解できるのだろうか。


「誰か交渉できる者は居らぬか?」

「こーしょー?おとなの人だったら、おせわしてくれる人なら。」


はあ、話にならぬ。

まさか人族国の王が話の通じぬ者とは思わなんだ。

これは流石の私も想定外だ。


だが、成果はある。

通信先までは200キロは離れているが、正確に問題なくやり取りができている。

今はこれだけで満足しておくか。


「命拾いしたな、小僧。」

「ム!わたちは女の子だよ!」

「ああ、許せ、小娘。今日はここまでとしよう。」

「うん!()()()()()()もまたね!」


・・・ん?

今、此奴は何と言った?


「今私のことを何と申した?」

「えー?きこえてなかったのー?しょーがないなー、()()()()()()!」


私は変声器を使っていたよな?

魔電は相手の姿が見えない。

なぜ小娘は私を女だと思っているのだ?


「小娘。私の声はどう聞こえる?」

「んとね、こわそうなおじちゃん?みたいな?」


変声器は正常のようだ。

まさか、私が半年前に開発した「変声器」の声が解析されるなどということもなかろう。


「では、なぜ私を女だと思った?」

「え〜?だって、おねーちゃんはおねーちゃんだもん!」


答えになっておらぬ。

これだから子どもは苦手なのだ。


「其方は私が見えておるのか?」

「うん!」


小娘は嘘をついている。

今私のいる部屋に魔力の痕跡はない。

そもそも、200キロ離れた先まで届く魔法はもちろん、スキルすら聞いたことがない。

それに無いのだ、窓が。

例え私の配下が我が居城のどこに居ようが、今の私を認識することはできまい。

小娘のママごとに付き合ってやるつもりなどなかったが、なぜか次のことを聞かずにはいられなかった。


「では、私が今いる場所で、何か特徴的なものを述べてみせよ。」

「んとね・・・。」


当たり障りない答えならと、私はなぜか期待してしまう。


「まっかな杖がね、おねーちゃんのうしろのイスにたてかかってるよ!わぁーきれー!」


背筋が凍る。

あるのだ、真っ赤な私の杖がそこに。

大概のことなら冷静に立ち回れる私が、久しく恐怖を覚え始める。


「杖?何を言っておる?そんなものは」

「イスはみどりでね、テーブルはきいろいの!あれ?きれーなあおい石さんがきらきらういてる!すごーい!」


全て合ってしまっている。

・・・そうか。私は全て見られているのか、この小娘に。

私の掌で転がすつもりが、まさか小娘ごときに転がされていようとは、な。


———す。

殺す!

今すぐ奴を消さねば———

危険因子は速やかに摘むっ。


「小娘。一つ、訓練をしようではないか。」


これは不慮の事故なのだ。


「え?どういう・・・。」

「すまないが、其方にはここで消えてもらわねばならなくなった。」


私はイスに掛かっていた杖を手に取り研究室を飛び出す。

誰にも秘匿している青の魔石を見られたのだ。奴を消すしかあるまい。

そのまま急ぎ足で司令室へ一目散に目指す。


「あ、ネフェメラリ様。今日も良いお天気で・・・。」

「魔法兵を集めよ。」

「え?・・・あ、は、はい!」


舐めていた。


「お疲れ様です、ネフェメラリ様!」

「魔道砲を起動する。至急整備の者に伝達せよ。」

「は、は!直ちに!」


これは私の落ち度だ。


「おお、これはご当主様。何やらお急ぎのようで。」

「爺、砲門を開けよ。」

「・・・御意に。」


狩ることだけに執着し、己が狩られることを考えておらなんだ。

思惑通りであったのは・・・敵側だったのだ。

メイドのキャリー、警備のテニ、執事長のノドロムに指示を与えと、私は司令室に辿り着く。

そして、間髪入れず司令室にある魔電を起動する。


「標的は敵国アームハイン城だ。」

「あ、あの。魔王様への許可なく、それも、人族領への撃ち込みは・・・。」

「責任は全て私が取る。」

「で、でしたら、折角なので城下町も巻き込むのは・・・。」

「いや、威力を削がずに城だけを確実に撃ち抜く。」

「し、失礼しました!」

「発射準備はまだか!?」

「砲門開放完了しました!」

「魔道砲発射まであと2分!魔力の充填をお願いします!」

「ふぅ・・・魔力充填を開始する。」


各担当者との確認を終え、魔道砲発射の最終段階に移る。

私は魔力伝達路へ魔力を注ぎ出す。


魔道砲はその名の通り、遠距離殲滅兵器である。

その動力源として、膨大な魔力を必要とする。

従来の魔道砲であれば、魔法兵1人の魔力で事足りていた。

しかし、私が開発した魔道砲「イノーマス」は、超遠距離型であるがゆえ最低でも100人の魔法兵を必要とする。

それだけの人材を私は抱えることができないので、私の魔力とこの杖で70人分を担うことになる。

一度使用すれば杖は粉砕し、私も暫くは魔力枯渇状態になる。

だが、それもやむなし。

私はそれほどの事態だと判断したのだ。周囲もそれを理解している。


「充填率50%です!」


2年前、魔王様に許可を得て試験発射をした際には、山が3座消えた。

あまりの危険性に、魔王様の許可なく使用することは禁じられた。

しかし、この兵器を開発したことで、私は七魔天の座を手に入れることができた。

それだけこの兵器は、次代に重大な意味を持つものとなるだろう。

今がその幕開けなのだと理解できてしまう。


「充填率90%!」

「・・・ぐっ!」


ピシッと杖にヒビが入る。

ほぼ同時に、全身が重くなり始める。

自分で造っておきながら、嫌になるほど魔力を食われる。


小さき命には本当に申し訳ないと思っている。

だが、これも我々の未来を守るためなのだ。許せ。


「充填率・・・100%!いつでも発射できます!」

「イノーマス・・・発射せよっ!」

「イノーマス、発射ぁっ!」


魔道砲の砲口に光が集まる。

やがて光は膨張し、明るさを増す。

そして。


ドォオオオオオオオオオオオオオオオオ。


光を帯びたレーザーが目にも止まらぬ速さでアームハイン城を目指す。

その衝撃に一部の城壁が剥がれ、兵士が吹き飛ばされる。

あまりの神々しさに誰もが動きを止め、息を止める。

私は一切揺らぐことなく、その光の筋を見つめ続ける。


30秒ほど後。

標的地が光り輝く様子が私にも分かった。


「着弾・・・しました!」


遠見スキルを持つ衛兵が確認する。

人の姿までは確認できないが、山の上にそびえる城のおおよその状態くらいであればわかる。

命中すれば・・・いや、擦りもすれば城など跡形もなくなるはずだ。

私は・・・私は、新たな歴史を切り拓いてしまった・・・!


「城は堕ちたか?」

「そ、それが・・・煙が視界を遮り、まだ確認できません!」


そこに1本の魔電が入る。魔電を掛けられるのは私とあの方しかない。

私は命令違反で処罰されるであろうが、それも本望。


「こちら魔王城統括部。魔王様より、巨大な魔力反応あり連絡が入った。何か心当たりはあるか?」

「は。報告を申し上げ・・・」

「ひょ、標的、未だ健在!大きな欠損・・・確認できません!」


片一方の魔電から耳を疑う報告が飛び込む。

無傷・・・だと!?

馬鹿なっ!

防ぐのは不可能だ。

聖女であろうが魔王様であろうが、決して防ぐことのできない超弩級の破壊力のはずである。

間違いなく命中したはずだ。そうでなければ、遠い地で光が拡散などしない。

何がどうなっているというのだ!?

魔王城からの通話があるにも関わらず、それを放置し、衛兵に問う。


「冗談はよせ!正確に申せ。」

「い、いえ・・・ほ、本当に・・・本当なんです!」

「そんな馬鹿なことがあるか!いい加減に・・・。」

「いい加減にするのは、あなた。」

「っ!?」


頭に血が昇っていたから気づかなかったのか、いや、それでも声を掛けられ初めて気づく気配が目の前に居る。

見た目に反し、どこか大人びた口調で話してくるのは、漆黒の衣を纏った幼女だ。

初めて目にするはずの少女は、しかし、誰かの面影を感じさせてくる。


「ま、おう、様・・・。」


見間違えるはずもない。

それは魔王様をそのまま幼くした顔立ちそのものであるのだ。

私は恐怖で我に返ると、片膝をつき、頭を垂れる。

少なくとも私の命はここで終わるのだと思う。

命令を反故にしたうえ、魔道砲を無駄に消費してしまったし、これを機に人族が反撃をしてくるかもしれないからだ。


「いいの。分かってたから。」

「分かって・・・?」


その幼女・・・魔王様?は、顛末を最初から分かっていたというのか?

それこそ理解できない。


「お母様・・・先代魔王アミラがそう言ってた、から。」

「魔王アミラ様が・・・先代?」


と、いうことは・・・。


「わたしはイリル。アミラの娘。今は魔王。」


イリル様———覚えがある。

5年前、イリル様がお生まれになられた際に、魔王様がここへ連れて来てくださったことがあった。

そのイリル様が・・・現魔王?


「イ・・・魔王様はどのようにして、こちらへ?」


魔王城からのここまでは瞬足スキルを用いても1週間は掛かるほど遠いはず。


「わたし、飛べるの。見たことある場所なら、どこでも。」


空間転移!

そのような希少スキルを現魔王様がお持ちであるとは。


「魔王様、教えてください。どうして砲撃は失敗すると?」

「知らない。お母様が言ってた。それだけ。」

「アミラ様が?」

「ネフィに人族の王は()れない、って。」

「は、はは・・・。」


新たな歴史を切り拓くと豪語していたことが、実に愚かだったと晒される。

どうやら、私は井の中の蛙であったようだ。


「私は人族を甘く見ていたようです。」

「そう・・・。わたし、帰る。」


魔王様は振り返り、魔王城へ帰ろうとする。


「ま、魔王様!私はどのような罰を。」

「わたしはいいって言った。」

「しかし!このままでは人族どもが・・・」

「攻めてこないよ。」

「え?」

「ネフィがやらかしても、人族は攻めてこない。ってお母様が言ってた。」

「分かりかねます!なぜ断言できるのです!?」

「知らない。」

「し、知らないで済まそうとでも・・・」

「ネフィ、怒るよ?」

「ぐ、うっ!」


魔王様が私を睨みつけると、魔力の圧が私に襲いかかる。

首が締め付けられるような感覚がする。

私なぞ、いつでも屠れんとでも言わんばかりだ。

まだ幼いと思っていた魔王様が、まさかこのお歳でここまでの魔力をお持ちだなんて。


「も、申し訳ございませんでした。」

「いいよ。もう帰る。」

「はっ。」


魔王様はそう言うと、高密度の魔力を纏い、その瞬間姿を消した。


「これが、空間転移・・・。」


まだ手足が震えている。

現魔王様はすでに強大な力を手にしておられる。

しかし、知性にはまだ乏しさがあるのも事実。

先代魔王様は、なぜ魔王の座をイリル様にお譲りされたのか。

一つわかることは、私は何もかもが無知なのだということだ。


「・・・リ様!応答してください!ネフェメラリ様!」


ああ、そういえば衛兵との通信が途中であったな。

魔王城との通信はすでに切られているようだ。

私は体を持ち上げると、ヨロヨロと歩み出す。


「すまぬ。()()は終わりだ。」

「あ、はい・・・ってええええええ!?訓練って・・・これがですか!?」

「ああ、そうだ。緊張感があったであろう?」

「緊張感と言いますか・・・我々、本当に攻撃しました・・・よね?」

「訓練だ。相手側は無傷であったろう?」

「あー、いえ、あー・・・」

「訓練、であろう?」

「あああ、もう!そうですね!そうでした!すみません!」


これで良かったのであろうか。

私の選択肢はもはや無いに等しいのだから、考えるだけ無駄だが。


———そういえば。

向こうの幼女(ばけもの)との通信が途中であった。

私は落ち着いた足取りで、しかし、なぜか前のめりになりながら研究室に向かう。


開きっぱなしの研究室からは、今まで感じたことのない空気を感じる。

決して悪い空気ではない。

好奇心すら覚える。

知りたい。

真実を。


気づいたら既に研究室の中に私は居る。

そして、自然と口が開く。


「まだ、いるか?」

「・・・。」


返事はなかった。

今頃、魔族領への報復を会議しているところなのであろう。

しかし、その考えはすぐに裏切られる。

通話の向こう側から、慌ただしそうな足音が近づいてくる。


「はぁはぁ・・・おねーちゃん・・・はぁ、はぁ。まだ、いる?」


声の主が嫌でも分かってしまう。

忌むべき存在。先ほどまで滅すべきと思っていた相手。

だが、今はそんなことよりも先立つものがある。


「ああ・・・もう少し話をしたいと思ってな。」

「わあ・・・!うん!でも、その前に。」


不思議と小娘は明るい声で返す。


「お名前、おしえてくだしゃい!」

———




「あの時の騒動はそういうことだったんですのね。」

「流石に城下でも話題になっていたか。」

「とてつもない魔力とともに、空一面が真っ白に輝いたと思ったら、猛烈な風が舞いましたわ。」

「はあ。やはり迷惑をかけておったか。」

「ま、まあ人族ですし、死者も出なかったそうですわ!」


私は殺生を好まないので、一般民に犠牲者が出なかったことにひとまず安堵する。


「それより、その後はどうなったんですの?」

「うむ。どうもならなかった。」

「え?」

「どうやら、彼女は本当に訓練だと思っていたらしい。」

「いやいやいや!フィーシャがそう思ってても、周りはそう思わないと思いますが。」

「私もそう思うが・・・。それ以上のことは分からず終いよ。」

「これ以上考えても無駄、ということですわね。」

「其方の頭脳を持ってしても、考えるのをやめてしまうとはな。」

「それを仰るなら、貴女様もでしてよ。」

「ふっ。まあ、それを機に彼女とは友になり、月1回の通信を取るようになったというわけだ。」

「はあ・・・。でしたら、もっと早く教えて欲しかったですわ。」

「いや、其方に教えたら我を忘れて捨て身で王城に飛び込んでおったであろう?」

「んぐっ!そ、そんなこと・・・ありませんゎ。」


分かりやすく語尾が小さくなる。

ういやつよ。


「そうだ、ローズ。戻って来たばかりですまないが、其方に1つ任を与える。」

「はい!何なりとお申し付けくださいまし!」


食い気味に返事を知るローズ。


「彼女を・・・フィーシャに近づき、探りを入れなさい。」

「はい!わたくしめにお任せあ・・・れ?」


笑顔のまま固まるローズ。


「今・・・なんと?」

「フィーシャに近づき、探りを入れなさい。」


平和そうによだれでも垂らしそうだったが、一気に顔面蒼白になるローズ。


「い、いやいやいやいや!わたくし追われてますの!そんなの無理に決まって・・・」

「いや、別の者に扮すれば良かろう。」

「あ・・・。」


あまりの余裕の無さに失念していたのだろう。

豆鉄砲でも打たれたような顔だ。


「どうして・・・」

「ん?」

「どうじでおじえでぐだざらながっだんでずの゛〜!」

「それは、だな。」


泣きじゃくるローズの頭を撫でながら微笑み、こう答える。


「私が其方の顔を見たくなったからだ。」

今朝、珍しくネフィお姉ちゃんから連絡があったの。

なんと!ローズさんが私の下で働いてくれるんだって!

しかも、今度はメイドさんに変装して来てくれるんだ!楽しみー!


でも、いつもと違うタイミングで連絡が来たから、ちょっとビックリしちゃった。

そういえば、いつからネフィお姉ちゃんとお話しするようになったんだっけ?

うーん、と。あれは確か———




「・・・もう少し話をしたいと思ってな。」

「わあ・・・!うん!でも、その前に、お名前、おしえてくだしゃい!」

「ふふ、そうだな。敗者は勝者に従わねばならないな。」

「はいしゃさんっていうの?」

「いや私は医者ではない。私はネフェメラリという。」

「ネメメアイ?」」

「ネフェメラリ、だ。」

「ネメメマル?」

「はぁ。もうネフィで良い。親しいものはそう呼ぶ。」

「ネフィ!ネフィおねーちゃん!」

「して、其方の名はなんと申す?」

「わたち、フィーシャ!」

「フィーシャ・・・しかと覚えよう。」

「えへへ!くんれん、たのしかったね!」

「其方・・・本気でそう思っておるのか?」

「ん?うん!」

「はは、本当にそうであるのか・・・では話を変えよう。フィーシャは・・・」

「フィーでいいお?」

「では、フィー。其方は私が怖くないのか?」

「ぜんぜん!」

「それはなぜだ?」

「だって、ネフィおねーちゃん、おかーさまみたいにやさしい顔してるもん。」

「ああ・・・そういえば、フィーには私が見えているのであったな。」

「あのね・・・ネフィおねーちゃんは、わたち、こわい?」

「・・・なぜそう思う?」

「だって!みんあわたちとおはなしすうと、こわがっちゃうの。」

「フィーは友を持たぬのか?」

「おともだち、いないの・・・。」

「・・・では、私がフィーの友となろう。」

「え!?」

「其方は私をネフィと呼び、私は其方をフィーと呼ぶ。これだけで十分に友と言えよう。」

「ほんと・・・?」

「では、今後は月に1度、こうしてお話をするとしようか。」

「うん!・・・ひぐっ!うん!・・・う、うぅうあああああああああ。」

「これ、泣き止め。それでも王であろう?」

「だってええええええ!だってええええええええええ!」

「わかったわかった!フィーは勝者だ。何でも1つ、いうことを聞こうぞ。」

「ずずっ・・・ほんどぉ?」

「ああ。お願いごと、聞いてやる。」

「あ・・・あ゛、あ゛あああああありあどおおおおおおおおおおおお!」

「はあ。これではもう話が続けられないな。最後に1つだけ聞かせてほしい。」

「ひっく!・・・ひっく!・・・」

「フィーは、どうやって先の攻撃を防いだ?」

「・・・ないちょ。」

「な!そこを!そこを私は知りたいのだ!」

「だってね・・・ひっく!・・・おねがいごときいてくれるってネフィおねーちゃん、言ったから。」

「・・・はあ。其方も存外意地が悪いな。」

「いひひ!おともだちにないちょ、やってみたかったの!」

「お手上げだ。いつか痛い目合わせるゆえ、覚悟せよ。」

「ほんとにおててあげてる。かあいい!」

「な!も、もう切るぞ!またな小娘!」

「あ・・・きれちゃった。」

———




懐かしいなー!

あのときの訓練はものすごく本格的だったな〜。

あの訓練のお陰で、アルフともお話できるようになったんだっけ。


コンコン、とドアが鳴る。

ドキッとする。怖い。

先ほどまでの高ぶっていた気持ちが急に冷え、下を向いてしまう。

魔電は顔を合わせなくて良いからちゃんと話せるけど、それ以外は、わたし全然ダメなんだよね。


「妾じゃー。」


この声は・・・!


「は、はい、どうぞ!」


ガチャっという音とともに扉が開く。


「お邪魔するぞー!」

「アミィちゃん!」

「おう!アミィちゃんじゃ!久しいのう。」


そこに現れたのは、漆黒の衣を纏い、頭に左右対称な立派なツノを生やした女の子である。

お父様とお母様が居なくなってから会うのは初めてだ。


「ちーっとばかし、お主と話をしたくのーてのう。」

「お父様とお母様は一緒じゃないの?」


アミィちゃんは、わたしが普通に話すことができる数少ない知り合いだ。

アミィちゃんはお父様とお母様の昔からのお友達らしい。


「ああ。あやつら、フィーに仕事放り投げおったから、今さら会いづらいんじゃろ。」

「えー!?そんなことないよー。アミィちゃんからも言ってあげて!」

「ハッハッハ!妾に頼み事ができる者など、お主とあやつらくらいじゃわい。」

「お願い!」


わたしは目をキラキラさせてアミィちゃんを見つめる。


「くぅ〜〜〜!妾にもフィーのような可愛げのある娘が欲しかったものよ!よし、あいわかった!」

「ありがとう、アミィちゃん!」


わたしはぎゅっとアミィちゃんに抱きつく。

頼りになるお姉ちゃんみたいで、すごく安心する。


「おーよしよし!相変わらずフィーは甘えん坊じゃのう。」

「もう子どもじゃないもん!」

「そうかー。よしよし!」

「えへへ〜!・・・あれ、アミィちゃんはどうしてここへ?」

「おー!そうじゃった!実はのう・・・」


アミィちゃんの眼差しが、狩る者の頂点のような形相になる。


「ネフェメラリという妾の部下が裏切りおったかもしれん。」

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