97. イケてる!
"自動修復"は使いかた次第でいろいろ応用できそうだね。
とはいえ、今回の目的はマテリアルデュプリケーターの機能維持だ。応用を考える前に、基礎的な利用法についての検証を続けよう。
「シンプルな素材は修復できることがわかったから、もう少し複雑なものに適用してみようか」
「複雑なものって?」
ルクスが首を傾げて聞いてくる。
「うーん、複数のパーツからなる道具とか? 何か壊してもいいものってあったかな」
「そういう道具は高いからな……そうそう壊していいものなんてないと思うけど」
まぁ、ルクスの言う通りなんだよね。手作業で作るから、この世界では加工品の値段が高い。食器一つにしても、僕が元いた世界よりずっと価値があるんだ。
「ちょっと待って!」
「持ってくるー!」
心当たりがあるのか、ライナとレイネが目を輝かせて声を上げた。二人は小走りで屋敷に入っていく。しばらくして戻ってきた2人が持っていたのは砂時計だった。
「なるほどね。砂時計か」
「ふむ。それくらいならば良いのではないか。修復できなければ、購入の費用は私が出そう」
キースさんが申し出てくれた。ガラスだから安くはないけど、買えないほどじゃない。実験するには手頃かもね。
「じゃあ、いくよー」
「ライナがやりたかった」
「まぁまぁ」
壊す役はレイネ。僕が"自動修復"を付与したあと、彼女が砂時計を石の上に落とした。
ガラスが割れて、中の砂が飛び散る。みんなで見守っていると、やっぱり10秒くらいあとに変化が起こった。
砂が逆再生のように集まって、割れたガラスの破片が宙に浮かび上がる。少し歪んでいた木枠も元通りだ。あっという間に砂時計は修復された。まるで何事もなかったみたいに。
「わぁ! 本当に直った!」
「元通り!」
ライナとレイネが歓声を上げる。トールさんたちも感心した様子で見つめている。
うん。ひっくり返してみても、砂がサラサラ流れる。複数素材からなる砂時計もちゃんと修復されることがわかった。
『はぁ、すごいね。科学技術でもこんなこと無理だよ。素材を分解して3Dプリンターで出力するにしても、ここまで高速で修復はできない。しかも、その場でなんて』
リックが驚いた様子で言った。
『この星って科学技術は劣っているけど、それをこういう不思議な力で補っているんだね』
何かちょっと誤解してるみたい。キースさんとトールがやれやれといった様子で訂正する。
「それは違う」
「そうだぞ。ロイくらいだから、これを一般的だと思われたら困る」
『あ、そうなんだ。みんな驚いてないから普通のことなのかと。やっぱり、ロイはちょっと変わっ……すごいんだね!』
リックが感心したふうに言う。でも、今、“変わってる”って言おうとしたでしょ。
抗議しようとしたら、思わぬところから追撃がきた。
「ロイが変わったことするのはいつものことー」
「ねー?」
ライナとレイネだ。さらにルクスまで頷きながら笑う。
「私たちはロイの非常識さに慣れたってだけだな」
みんな好き勝手言うなぁ。これは多勢に無勢かも。
でもまぁ、たしかに自動修復はかなり非常識な力だよね。
これって、人に付与したらどうなるんだろう? 傷を負っても自動で治るのかな? 試してみたいけど、今はやめておこう。そんなことを考えながら、次のステップに進むことにした。
「複雑なもの修復できるってわかったから、これをマテリアルデュプリケーターに付与しようと思うんだけど」
『え? いいの?』
リックが驚いた様子で聞いてくる。
「それはもちろん。そのために、手に入れたんだから」
『そうだったの!?』
あれ、言ってなかったっけ? そういえば、言ってなかったかも。
『でも、僕、対価とか払えないよ』
「それは、ほら、エネルギーシールドを作るためにもデュプリケーターを動かせないと困るから」
『そっか。そっちは任せといてよ!』
リックが拳を握って張り切ってる。対価のバランスとして釣り合ってるかどうかわからないけど、お互いに不満はないから、良い取引なんじゃないかな。
「あとは魔石があればいいんだよね」
「魔石か。ならこれを使え」
どこからともなく、トールさんが魔石を取り出した。小石程度の青く透き通った石だ。
「それが魔石? 持ってたんだ」
「まぁな。魔道具で使うからな」
トールさんが頷く。
ダンジョンの魔物が落とすって話だけど、潜ったことがあるのかな? いつか詳しく聞いてみよう。
「じゃあ、リック」
『うん。試してみよう!』
裏庭に移動する。リックは一度UFOに戻り、金属の箱を持ち出してきた。いつか見せてもらったマテリアルデュプリケーターだ。そのあと、さらに別の箱も持ってくる。こっちはエネルギーの変換器みたい。二つを接続して使うんだって。
「じゃあ、因子を付与するよ」
『お願い』
リックに許可をとって、"自動修復"を付与する。他にも"手に馴染む"とか付与しても良さそうだけど、まずはこれだけで試してみることにした。
「これでよし。ちゃんと付与されてるよ」
『試しに少し傷つけてみようか』
両方の箱の表面に小さな傷をつけて因子が機能していることを確かめる。数秒後に傷は消えた。これで因子もチェックOK。ちゃんと付与されてる。
『魔石をセットするね』
リックがエネルギー変換器の箱に魔石を入れて蓋をした。そのあと、操作パネルのようなところを撫でる。すると、箱が微妙に振動しはじめた。
『おお、イケてる。イケてるよ! 思ったよりも変換効率がいいね! これなら大丈夫! AragurIumも複製できるよ。素材さえあれば、あとは僕がどうにかできる!』
アラグリウムさえあえば、リックが宇宙船の修復もエネルギーシールドも作れるんだって。良かった良かった。これで、邪教徒もどうにかできるかな。




