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91. リックとトールさん

 トールさんたちをリックと引き合わせるために、屋敷に戻ってきた。広い庭を見て、トールさんが驚く。


「想像以上に立派だな!」

「区長邸だから、本当はトールさんの屋敷なんだけどね」

「いや、俺が区長なのは名目だけだから、ロイの屋敷でいいんだぞ」


 名目とは言うけど、権力者からの面倒事はトールさんが引き受けてくれているんだよね。申し訳なさはあるよ。


「とにかく、二人の部屋も用意するから、遠慮なく使ってよ」

「もちろん、使わせてもらうさ」


 機嫌良さそうに答えるトールさんに、キースさんが釘を刺す。


「領主邸でないからといってハメを外すなよ?」

「俺をなんだと思ってるんだよ。堅苦しくない生活が送れるだけで充分だ」


 トールさん、普段は偉い人の屋敷で過ごすらしいから、窮屈しているみたい。ここにいるときくらいは羽を伸ばして欲しいね。


 せっかくなので、屋敷の中を披露したいところだけど、リックと話が最優先だ。ちょうど庭で作業中のアライグマ隊がいるね。緑色スカーフだから、ハウスキーパー隊から転属になった子だ。


「リックはいる?」

「きゅう!」


 いつも通り、裏庭にいるみたい。


「普通のバブルウォッシャーだな」

「庭の草刈りをするバブルウォッシャーが普通なものか」

「それもそうだ」

「もうそれはいいから。裏庭にまわるよ」


 トールさんとキースさんの間で、僕の従魔を普通じゃないとイジるのが流行っているみたい。相手にしても仕方がないので、さっさと先を促す。


「リック」

『あ、ロイ』


 裏庭に回ると、リックが一人でポツンとUFO眺めてた。声をかけると振り返って、トコトコ駆け寄ってくる。


「本当に喋っている……トール?」

「凄いな。本当にUFOだぜ……」


 キースさんはリックが喋っていることについてトールさんと意見を交わしたかったみたいだけど、そのトールさんはUFOを見て目を輝かせていた。気持ちはわかる。


『えっと、こっちの人たちは……?』

「僕の後ろ盾みたいな人。実はリックと話したいことがあって――」


 どこから話したものか迷ったから、トールさんが邪教徒の討伐に出たところから話していく。アライグマっぽい喋る悪魔に話が及ぶと、リックは頭を抱えて首を振った。


『そんなことになっていたんだ……』

「どう思う?」

『どう思うも何も、絶対同郷のヤツだよ。話を聞く限り、その魔法で防げない攻撃っていうのはフェイズガンかな。たぶん、ステルス状態のガードドローンがついているんだと思う』


 リックからしても、その悪魔は彼の同郷人に思えるみたい。


「ひとつ聞きたいことがある。君たちがその異界の人……なのだとして、悪魔召喚に応じることはあるのか?」


 キースさんが尋ねた。リックは困惑顔だ。


『いや、僕らは悪魔じゃないから、召喚に応じるも何も……』

「しかし、邪教徒どもは悪魔召喚陣を使って悪魔を呼ぶ。今回も儀式あとが見つかっているので、無関係とは思えないんだが……」

『うーん、そんなこと言われても。そもそも、悪魔召喚陣って何なの?』


 そう言われると僕も、実際にはどんなものか知らない。ミステリーサークルが悪魔召喚陣と間違えられたことを考えると、魔法陣的なものなのかなとは思うけど。


「トールさん、知ってる?」

「知らない。そういうのはキースに聞け」


 リックの疑問は、僕、トールさんを経由して、キースさんにパスされた。


「悪魔召喚陣は魔法陣の一種だな。しかし、その原理はよくわかっていない。魔法陣の機能をそのまま解釈すれば特定の魔力波を遠方まで飛ばしているに過ぎないんだ」


 キースさんの解説によると、悪魔召喚陣そのものは、一般的な魔法陣と何ら変わらないんだって。普通ならばまともな効果を発揮しない、魔力波を頭上に向けて強く放つという機能の欠陥魔法陣らしい。けれど、それがどういうわけか悪魔を呼ぶ。専門家の間では、放出する魔力波を好む悪魔がいて、それを引き寄せているのではというのが定説らしい。


 結局のところ、原理は不明。なんだけど、リックの表情が曇った。


「どうしたの?」

『嫌な想像が頭をよぎって。その召喚陣って、魔法的に救難信号を再現してるのかもしれない』


 え、救難信号を?

 でも……


「リックの星には魔法を検知する技術はないんだよね。魔力波を飛ばしても、検出できないんじゃないの?」

『それはそうだよ。でも、飛ばしてるのが魔力波だけとは限らないでしょ。魔法って物理現象を起こすこともできるんだよね? 救難信号が再現されている可能性もあるじゃないかな』


 ああ、なるほど。リックは、救難信号を送る副産物として魔力波が発生していると考えているのか。


 話を聞いたトールさんが唸り声を上げる。


「それは……だけど、そんな偶然ありえるのか?」

『偶然ならいいんだけどね。でも、僕はソイツが知恵を貸したんじゃないかって考えている』


 ええ!?


「脅されて協力されてるってこと?」

『いや、どうかな。騙されてるならともかく、脅されてるってことはないと思うよ。だって、ガードドローンがあるなら、なんとでもできるよ』

「それは……うーん」


 勇者であるトールさんを撃退できる力だ。不意をつけば邪教徒でも排除できそうだよね。


『ここの星域は以前から行方不明者が多いって有名なんだよ。ソイツが救難信号を悪用して、この星に引き込んでいたのかも』


 リックはぷんぷん怒っている。救難信号を罠として利用されたんだから、それは怒るよね。遭難時の生命線なのに、それを悪用されたら救助者がいなくなってしまう。リックたちの星では、かなりの重罪みたいだ。

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