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90. アライグマの悪魔

 リックはうちのお客さんだ。滞在中の安全は僕が守らなきゃならない。そんな主張をして、トールさんが喋るアライグマを警戒している理由を聞いた。


「邪教徒の連中は知っているだろう?」

「知ってるというか、まぁ聞いたことはあるけど」


 トールさんの切り出した内容に、ちょっとだけ落ち着かない気分になる。なんたって、混沌神様も邪神と言われることもあるからね。


 もっとも、トールさんとキースさんには、僕が混沌神様の使徒をやっていることは知られている。二人とも混沌神様が邪神という認識はないみたい。まぁ、カトレアさんが使徒だから、キースさんの立場だと邪神扱いはできないよね。


 だから、僕が責められているわけじゃないのはわかってる。ただ落ち着かないだけ。


「奴らの目的は世界に破壊をもたらすこと。そのための活動は多岐に渡るんだが、その1つが悪魔召喚だ」

「悪魔召喚……」


 うっ、嫌な思い出が。以前、GP欲しさに街の外の草原にミステリサークルを作ったとき、悪魔召喚陣と勘違いされて衛兵さんに追いかけられたことを思い出した。


「ん? どうした?」

「ううん、何でも」


 不思議そうな顔のトールさんに、気にしないでと首を振って見せる。だって、あれはあくまでミステリーサークル。悪魔召喚とは何の関係もないんだもの。


 気を取り直したトールさんが続ける。


「前回の遠征は邪教徒の討伐が目的だった。大規模な悪魔召喚の噂があって、俺に白羽の矢が立ったというわけだ」

「うん」

「拠点に踏み込んだとき、奴らのそばには悪魔がいた。アライグマのような姿の、喋る悪魔だ」

「あー……」


 それは警戒するよね。


「その……それは本当に悪魔だったの?」

「邪教徒の連中はそう呼んでいたな。俺でも無効化できない不思議な力を使っていた。魔法発動の予兆も感知できなかったし、あれが悪魔の力だと思ったが……」


 トールさんが黙り込んだ。別の可能性を考えているみたい。僕も嫌な想像が頭をよぎった。


「実はね、リックがこの星に来た理由は救難信号をキャッチしたからなんだって」

「おおぅ……」

「おい、どうした? どういうことだ?」


 トールさんが頭を抱えた。状況がよく分かってないキースさんは戸惑っている。なんて説明したらいいかな。


「宇宙人というのは異世界人みたいなものだと思ってください。その喋るアライグマ僕のところにいるリックと同郷の異世界人が、邪教徒側にいるかもって話です」

「異世界人……トールみたいな者だな。とると、あの力は、勇者の力のようなものなのか」


 キースは僕の説明を自分なりに解釈したみたい。まあ、だいたいあってるかも。もし、その喋るアライグマが本当に宇宙人なのだとしたら、その人が振るった力は勇者の力ではなく科学力だと思うけどね。


「結局、その人はどうなったの?」

「邪教徒の幹部と一緒に逃げられたよ。良かったのか悪かったのか。次に出会ったら戦いづらいな」

「あ……それはごめんね」


 ある意味、トールさんと似たような境遇だものね。そうと知らずに討ち取ってしまわなくて良かったという想いもあるようだけど、反面、同情で戦いづらくもなるか。話し合いで決着がつくならいいけど、あくまで邪教徒に協力するなら立場的に戦わざるをえないものね。


「問題は、その宇宙人の立場だよな。俺の目からは自発的に協力していたように見えたが。キースは?」

「私にもそう見えた。だが、時々やり取りに齟齬があったようにも思える」


 二人はそのときの様子から、宇宙人の立場を推し量る。概ね、自発的な協力者と見ているみたい。


「騙されて従わされている可能性はないかな?」

「否定はできないな。最初に保護したのが邪教徒なら、ヤツらの良いように情報を吹き込まれているだろうし。俺だって、最初に接触してきたのがキースのところじゃなければ、どうなっていたことか」


 嫌な想像をしたのか、トールさんが顔をしかめる。


「人質をとられて脅されている可能性もあるぞ」


 キースさんは顔を歪めて別の可能性を示唆した。邪教徒って、そういうことも平気でやるみたい。とんでもない人たちだよね。けど、それと同じ扱いの混沌神様っていったい……。


「どんな理由で邪教徒の手先になってるのかわからないけど、救難信号を出したってことは、救助される意思はあるはずだよね。帰還手段を提示できたら、戦いは避けられるんじゃない?」

「なるほど。それはそうだな」


 トールさんが納得したように頷く。


「ロイのところの客は、戻る手段があるんだな?」

「あ、いや、実は……リックも遭難してて」

「そういえば、そう言ってたな。じゃあ、戻る手段はないのか」

「一応、救難信号は出せるんだって。あと、UFOも素材さえあれば直せるかもって」

「UFOか!」


 渋い表情が続いたトールさんの顔が急に輝いた。気持ちはわかる。


 UFO……ロマンだよね!


「それが何かわからんが、今は自重しろ。それよりも、ここであれころ言うよりも、その異世界人に直接話を聞いたほうがいいじゃないか?」


 すぐにキースさんに釘を刺されたけどね。トールさんも苦笑いで、その提案には頷く。


「そうだな。ロイ、その宇宙人に合わせてもらえるか?」


 まぁ、今の二人なら大丈夫かな。リックの状況も、彼が貴重な情報源になる可能があるとわかってもらえたと思う。手荒な真似はされないはずだ。


 僕は二人をリックと引き合わせることに決めた。


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