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82. お試し雇用

 今日は大きな出来事がある。屋敷で雇う料理人と使用人と面会するんだ。しばらくは試用期間で、問題なければ正式雇用という流れになる。


 で、ついさっき、その2人がやって来た。今は、応接室で紹介を受けているところだ。


 応接室には住人が勢ぞろい。その中で、2人がガチガチに緊張している。


 ここで働くことになるならみんなを紹介してしまおうと思ったけど、早まったかな。意図せず、圧迫面接になってしまったかも。それも物理的に。そんなつもりはないんだけどね。


「ロイ、こっちが料理人のダバッグさんで、こっちが使用人見習いのキーラさんだ」

「お、俺が……あ、いや、私がダバッグです」

「キ、キーラです」


 ルクスの紹介で2人が自己紹介してくれるけど、やっぱり表情が固い。それをルクスが不思議そうな顔で見ている。


「どうしたんだ、2人とも」

「い、いや、こんなデカい屋敷とは聞いてなかったから」

「そ、そうですよ。旧スラムで働くって聞いてたのに、こんなお屋敷だなんて!」


 あら。2人が緊張していたのは、屋敷が予想外に大きかったせいみたい。


「あ、そうか。そういえば、うちの屋敷って伝えたんだった……」


 ルクスが顔を真赤にして俯いた。珍しい失敗だ。特区では、僕らのことを知らない人はいないものね。それで通じると思っちゃったのかも。


 でも、ダバッグさんとキーラさんは特区の住人じゃない。ルクスが以前冒険者として受けた依頼で知り合った人たちなんだって。そのときの伝手で、自宅で働いてくれる人を探していると声をかけたみたい。


 まぁ、冒険者の自宅だからね。普通は、こんな大きな屋敷だとは思わない。僕らだって、最初は驚いたもの。


「えっと、まあ改めて、僕がこの勇者開発特区の区長代理、ロイです。それで、どうでしょうか? ここで働いてもらえませんか?」

「「区長代理!?」」


 まぁ、知らなきゃそういう反応になるよね。自分で言うのもなんだけど、普通はこんな子供がやる仕事じゃない。


 昨日似たような反応をしたリックが共感するように頷く。それを真似して、アライグマ隊もちょこちょこ頭を動かした。


「あ、あの……」


 その様子が気になったのか、ダバッグさんが彼らを見ながらおずおず口を開いた。


「どうしました?」

「いえ……あの動物、ですか? あれはいったい何でしょう。従魔ですか?」


 あれっていうのは、もちろんリックとアライグマ隊だ。


「えっと、すみません。説明が遅れましたね。こちらはリックです。この辺りでは珍しい種族なんですけど、人なんですよ。しばらく、うちに滞在して貰う予定です」

『リックです。よろしくお願いします』

「人!? し、失礼しました!」


 ダバッグさんが顔を青くした。ゲストを従魔扱いしたら、ケンカを売っていると思われても不思議じゃないからね。


 でもまぁ、今回に関しては仕方がないと思う。だって見た目はアライグマそっくりだもの。それがわかっているから、リックも苦笑いするだけで気を悪くしたりはしない。


「そして、その隣にいるのは従魔のアライグマ隊ですね。正式にはバブルウォッシャーという魔物です」

「「「きゅー!」」」

「こっちは従魔!?」

「か、かわいいですね」


 ダバッグさんとキーラさんの視線が、リックとアライグマ隊を行き来する。わかりにくくてごめんね。


「で、あっちの跳び鼠も従魔です」

「「「チュウ!」」」

「従魔は基本的にビネが取り仕切ってますから、何かあれば赤マフラーの彼に聞いてください」

「チュ、チュウ!」

「従魔が従魔を取り仕切っているのですか……?」

「ネズミさんも可愛い……!」


 ダバッグさんは戸惑っているけど、キーラさんは早くも従魔隊の魅力に心惹かれているみたい。よしよし。


「僕は区長代理ですけど、まぁ子供ですし。あまり気にせず気軽に働いてもらえれば」

「気軽にって言われても、私はこんな場所で働いたことはありませんし……先輩がたが迷惑するんじゃないですか?」

「そ、そうですよね……仕事も大変そうでついていけるかどうか……」


 あらら。従魔隊で心を開いてくれたかと思ったのに、まだ戸惑いがあるみたい。それに誤解があるね。


「えっとですね。雇うのは2人が初めてなんです。厳しい先輩とかもいないので、もっと気軽に引き受けてもらえませんか?」

「……初めて?」

「こ、これまではどうしていたんですか!?」


 実情を伝えると、2人はとても驚いてる。


「食事は主にルクスが作ってくれています」

「あ、いや、あまり得意じゃないんだ。だから、新しく雇いたいと思って……」

「行政府の人にも雇いなさいと言われてるんです」

「そりゃそうですよ!」


 ダバッグさんが勢いよく頷いた。


「あの、こんなに広いとお掃除が大変なのでは……?」

「えっと、この屋敷は自動浄化機能つきなので、基本的にはそこまで汚れが残りません」

「じ、自動浄化?」


 キーラさんが目を白黒させている。詳しくは説明できないので、軽く流そう。


「はい。それでも埃はたまりますが、それはあの子たちが」

「……え、トビネズミが掃除をするんですか?」

「はい。ハウスキーパー隊です。ビネ、試しに見せてあげて」

「チュウ!」

「「チュ!」」


 ビネが指示すると、緑マフラーのトビネズミ隊が応接室に風を吹かせた。器用に操り、ゴミを集める。


「こんな感じですね」

「何が、どうなってるの……?」


 キーラさんは目の前で起きたことが信じられず、混乱しているみたい。いや、見たまんまなんだけどね。


 ダバッグさんも驚きのあまり固まってしまっている。なんだか、入ってきたときよりもガチガチになってしまって気がするね。


「まぁまぁ。さっきも言いましたが、気軽な感じで働いてみてください。きっと慣れますよ」

「「は、はい」」


 よーし。そうと決まれば歓迎パーティだ!

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