7. GPが増えたヨ
差し当たって考えないといけないのは今日の寝床だ。さすがに野宿はマズい。ピラさんも言ってたけど、この世界、普通に魔物とかいるからね。そう、ゲームとかに登場するあの魔物だ。
魔物は危険な生命体。多くは凶暴で、人を見ると問答無用で襲いかかってくる。種類は多種多様。世界中に何かしらの魔物はいるから、街の外で夜を明かすのは非常に危険な行為だ。もしやるなら護衛は必須。じゃないと高確率で次の朝に目覚めることができなくなってしまう。
というわけで、スラムに戻って寝床を探すしかないわけだけど、その辺で適当に寝るってわけにもいかない。だって、スラムには縄張りってものがあるから。よそのギャングの縄張りで寝てたら、次の日冷たくなってても文句は言えないらしい。まぁ、死んだらそりゃ文句は言えないよね。そういうことじゃないんだろうけど。
だから、寝るなら僕……というかピラさんが所属するギャングの縄張りでってことになる。となると、ピラさんと遭遇するのは避けられないよね、きっと。
うーん、どうしようか。絶対殴られるよね。でも、スラムで暮らす限りそれは避けられないか。僕には他に行き場はないんだから。
他のギャングに移籍するのは……まぁ、無理だろうな。僕、子供だし。できたとしても状況は変わらない気がする。ギャングはどこも似たりよったりだから、殴られる相手が変わるだけだ。
よし、こうなったら開き直って戻ろう。防御重視の因子が手に入ったから、少しは打たれ強くなったはずだ。以前よりは耐えられるに違いない。耐えられなかったら……そのときはそのときだ。
僕は覚悟を決めていつもの寝床に戻ることにした。スラムは昼でも危ない場所だけど、夜はなおさら危険だ。日が沈みきる前に走って戻ることにしよう。“みなぎる活力”のおかげか、全力で走ってもいつもより息が続く。
「ロイ!」
「あ、ルクス!」
目的のオンボロ建物の入り口までやってきたところで、知り合いと出会った。僕が帰るのを待っててくれたみたい。
ルクスは僕と同じ境遇……つまりはピラさんの世話になっている子供の一人だ。僕と同じ位の年頃だけど、スラム生活は長いみたい。体はひょろっとしてるけど、頼りになるんだ。まぁ、スラムの子供はみんなひょろっとしてるんだけどね。食べる物がないから。
「遅かったな。心配したんだぞ」
「うん、ごめん……」
ルクスはこういう子だ。面倒見が良くて、みんなのまとめ役みたいなポジションになっている。こうして待ってくれてることも十分考えられたのに……もっと早く戻るべきだったかな。
「恩寵、あまり良くなかったのか?」
「うん。まぁ……そんな感じ。ピラさん、機嫌悪そうだった?」
「ピラ……? もしかして、トンガさんのことか?」
「あ、あはは、そうそう! トンガさん」
おっとっと。ピラさんは正式名称じゃなかった。うっかりうっかり。
「……お前、何か変わったか?」
「そうかな……? そうかも」
ルクスが不思議そうに僕を見てる。まぁ、そういう反応になるよね。だって、僕はスラムに来てからほとんど喋らなかったもの。たぶん、性格も変わった。記憶が塗り替えられたせいか、前より明るくなった気がする。
不気味に思われるかと思ったけど、ルクスはニコッと笑って僕の肩を叩いた。
「いいと思うぜ! こんな環境だ。気持くらいは強く持たないとな!」
「うん、そうだよね! ありがとう!」
ルクスって本当に良いやつだよね。スラム暮らしじゃなければ大成しそうなのに。ピラさん……じゃなかったトンガさんに使われて人生を棒に振るなんてもったいないと思う。あ、いや、それはルクスだけじゃない。他の子もだ。どうにかできればいいんだけど。
「トンガさんの機嫌は確かに悪かったけど……まぁ、いつものことだしな。今日はもう出てったから、中に入っても平気だぞ」
「そうか」
ちょっとホッとした。ここは子供が住むための建物で、トンガさんはよく顔をだすけど寝泊まりは別の場所でしている。今日は顔を合わせなくてすんだみたい。
「あとは何か機嫌をとるための土産でも……おっ?」
ルクスの視線が僕のポケットから顔を出したキノコに向いた。
「ミルケ茸じゃないか! なんだ、ちゃんと用意してたんだな。これなら、まあ、多少は機嫌も直るだろ」
「ああ、うん。そうだネー」
ミルケ茸は食用キノコ。毒はない上に、紛らわしい毒キノコもない。決して高級品ではないけど、スラムの住人にとってはご馳走だ。たしかに、これならトンガさんの機嫌も直るかもしれない。
何か忘れてるような気もするけど、忘れてるなら仕方がないよネー?
「お前が直接渡すのはまだやめといたほうがいいだろ。これは俺からトンガさんに渡しとくぜ」
「そうしてもらえる? あ、トンガさん用だから、他の子は絶対食べないようにね! トンガさんのことだから独り占めするとは思うけど。あとは、触ったあとはちゃんと手を洗うこと!」
「お、おぅ……? そりゃわかってるけど。手を洗えって?」
「まぁ、念のためだよ。念のため!」
「おい、これ、ミルケ茸……なんだよな……?」
「もちろんだヨー。きっと美味しいヨー」
「おいおい、本当に大丈夫なのか……?」
そして、次の日。
■現在の保有GP:3
おおぅ……何故かGPが増えてしまった。不思議だネー。