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77. 宇宙アライグマ

「わかりますわ! わたくし、バブルウォッシャーの言葉がわかるようになりましたわ! まさか、テイマーの素質が!」

「エリザ。残念ですが、私にもわかります」

「あら、まさかお兄様も!?」

「いや、そうじゃねぇだろ」

「普通に喋ってるよ、エリザ」


 背後で見守っているオードさんたちにも言葉がわかるみたい。ってことは、やっぱり、この子が喋ってるんだ。


『あのー……?』

「あ、ごめんね。ちゃんと伝わってるよ」

『よ、良かったぁ!』


 アライグマの顔がぱぁっと明るくなるった。


「ねぇ、さっき、何をしてたの? ペンダントみたいなのを操作してたみたいだけど」

『あっ、これ? これは翻訳機……と言ってわかるかな?』

「わかるよ。違う言語を自分の言語になおしてくれるんでしょ。両方向なんだ?」

『そうそう、そうなんだよ! 良かった、話が通じる種族がいた!』


 アライグマ君が両手をぴこぴこ動かして、喜びを表現する。なんだか和むね。


 それにしても、翻訳機か。明らかに文明の利器だ。そして、背後に転がるUFO。これから導き出される結論は……


「ねぇ。君って、宇宙人なの?」

『ひゃっ!? そうだよ、よくわかったね! もしかして、この星の文明って、思ったよりも進んでる?』

「いや、どうかな。あんまり一般的な知識じゃないと思うけど……」


 そこまで話したところで、オードさんたちが近寄ってきた。


「なんだ、その宇宙人ってのは。そいつは、バブルウォッシャーじゃないのか?」

『バブルウォッシャー? なにそれ?』


 オードさんの言葉に宇宙アライグマ君が首を傾げる。


「さっき、君を取り囲んでいた魔物のことだよ」

『へぇ……え、魔物!? 魔物って何? 危険な生き物じゃないの!?』


 大袈裟にのけ反るアライグマ君。って、勝手に呼んでるけど、失礼かな。


「ねぇ、君、名前は? 僕はロイっていうんだけど」

『名前? そうだね、リックって呼んで。正確にはもっと複雑なんだけど、たぶん聞き取れないから』

「人の名前は翻訳されないの?」

『そうそう! 君……いや、ロイはよく知ってるね』

「うん。まぁちょっとね」


 前世の知識をもとに想像しただけなんだけどね。


「で、ええと……ああ、魔物のことだっけ。魔物は、まぁ基本的に凶暴だね」

『ひぇ……そうだったの? あの子たち凶暴な存在だったんだ。そんな感じじゃなかったけど』


 リックはぶるっと体を震わせた。けど、すぐにコテンと首を倒す。危険だったという実感はないみたい。


 実際、僕から見ても、バブルウォッシャーたちにリックを襲う意思はないように見えた。じゃなきゃ、さすがにリックのことをリーダー個体だと勘違いしないよ。


「リックは、バブルウォッシャーたちと何をしてたの?」

『何と言われても……話を聞こうとしてたんだけど、全然通じなくて困っていたところだよ』

「翻訳機は?」

『全然駄目。そこまで万能じゃないんだよ。体系化された言語なら解析できるけどね。あの子たちのは、そんな感じじゃなかったから』


 見た目が似てるバブルウォッシャーとはやりとりできなくて、全然違う僕らとは意思疎通できるんだ。なんだか不思議だね。


「チュ、チュウ?」

『え、うん。わかるけど? あれ、君はずいぶん姿が違うね?』

「チュウ!」

『そりゃ、僕もそうだけどね』


 でも、何故かビネとは会話できてる。どういうことなの。


「ええと。リックは宇宙から来たんだよね。そのUFO……宇宙船で戻れるの? 昨日はおかしな動きをしていたみたいだけど」

「ん!? おい、ちょっと待ってくれ。もしかして、そっちのリックってのが、アレに乗っていたのか?」


 オードさんが今さら驚いたような顔をした。


 でも、そうか。宇宙人と言っても通じないよね。僕ら人間と同じような姿ならともかくアライグマみたいな見た目だもの。僕も宇宙()と呼ぶのに少し戸惑いがある。


「えっとね。空に浮かぶ星には、ここと同じように生き物が住んでいるところがあるんだよ――」


 異界のようなもの、と説明してもいいんだけど、せっかくなので宇宙について簡単に説明してみる。だって絶好のGP獲得チャンスだ。


「というわけで、リックはどこか遠い星から来たんだと思う」

『うんうん。だいたい合ってるよ!』

「ほ、ほぅ?」

「なんだかわかりませんが、すごいんですよね!」


 まぁ、ちゃんと伝わったかどうかわからないけどね。


「それで、どうなの?」

『ああ、うん……正直、今のところ目処は立ってないんだ』


 昨日見た謎の光はリックの乗っていた宇宙船だったみたい。突然制御がきかなくなって、この山に墜落したんだって。墜落によって機体は破損。それ以前に制御ができなくなったことを考えるとシステムにも損傷がある可能性が高い。


『一応、自動修復機能はあるんだ。だけど、修復には資源が必要なんだよね。外側の装甲はともかく、システムのほうには特殊な鉱石がいるから……』


 リックの顔は苦しげだ。手段あるけど、材料がないってところみたい。


「すぐには直らないってことだよね? それならここに留まるのは危険かもよ。バブルウォッシャーは襲ってこなかったみたいだけど、ここには他にも魔物がいるからね。もしよければ、僕らと一緒に来ない?」


 僕が提案すると、リックが顔を輝かせた。


『いいの? 実はちょっと心細かったんだ! あ、でも、これをここに置いておくわけにも……』


 リックが振り返って見るのは、円盤型宇宙船だ。彼が故郷に戻れるかどうかはこの宇宙船にかかっている。それを見張りもなく山に置いておくというのは、リックからすると気が気でないんだろうね。


 僕としても、置いといて大丈夫とは言えない。むしろ、絶対に持って返らなきゃと思う。


 けれど……どうしたものか。

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