76. 降参するアライグマ
「あの後ろのは何かな?」
イリスさんの発言でみんなの注目がUFOに集まった。いや、UFOかどうかわからないけど。
「自然物じゃなさそうだが、何だろうな。アレが魔物を集めてるのか?」
「誰が何のためにですの?」
「実験、でしょうか……?」
みんなは魔物が集まった原因かもしれないと考えてるみたい。UFOかもしれないと思ってる僕にはもどかしくて、つい口を挟んだ。
「昨日の光の原因って、あれなんじゃない?」
「あれが? 昨日のはどう見ても飛んでたぞ」
「あんな大きなものが飛びますの?」
「いえ、大きさで決めつけるのは早計かと。ドラゴンも巨大ですが飛びます」
「つまり、あれも魔物ってこと……?」
あ、いけない。今度は魔物疑惑が浮上してる。どうにか誘導しないと。
「魔物にしては反応がないし、乗り物かなんじゃないかな? 故障でおかしな動きをしてて、結局落ちちゃった、とか」
「乗り物なの? あれが?」
「そうなのだとしたら、マズい状況なのではありませんこと? 中に人がいるのでしょう?」
「そうですね」
乗り物と言ったら、乗員を助けなきゃって流れになった。予想が的中してたら中にいるのは宇宙人だ。とはいえ、そこまで指摘するのはちょっとね。何故知ってるんだと言われると、説明が難しい。
「救出するにしても魔物はどうしますの? バブルウォッシャーですけれど」
「テイムを試みるには数が多すぎるよね。少数ずつ釣り出すって手もあるけど、それだと時間がかかりすぎる。中に取り残された人がいるなら早く助けてあげないと」
「ですが、周辺のバブルウォッシャーはここに集まっている可能性があります。だとしたら、ここでテイムしておかないと……」
エリザさん、イリスさん、ルーグさんが意見を言う。それをオードさんがまとめた。
「あれが乗り物だとしたら人命を優先すべきだな。そうでなくても、得体のしれないもののそばで長期戦はしたくない。まずはバブルウォッシャーを蹴散らそう。逃げるようなら追わない。数が減って安全が確保できそうなら、ロイがテイムする。でいいか?」
「うん。それでいいよ」
要は、撃退と従魔スカウトの両取りを狙った折衷案だ。この作戦だとスカウトできるのは1匹か2匹かってところだけど、バブルウォッシャーが逃げてくれれば後々スカウトするチャンスは残る。
僕としても異論はない。従魔のスカウトが目的とは言え、それも今すぐ必須というわけじゃないからね。それよりも、今はあのUFOが気になる。
「じゃあ、適当の魔法で散らすぞ」
「では、わたくしが!」
「馬鹿。最初はイリスに任せろ」
「むぅ、仕方がありませんわね」
「はいはい。とりあえず、殲滅よりは蹴散らすこと優先ね?」
「頼む。向かってくるようなら個別に撃破だ。いいな?」
因子のおかげで才能に差はないんだけど、技術においては魔法使いとしての経験の差がある。重要な初撃はイリスさんに委ねられた。
「いくよ――〈ストームバレッド〉」
イリスさんの杖から魔力が迸る。目に見えないそれは、今はまだ魔力の塊だ。それがバブルウォッシャーたちのやや手前側に着弾した。
直後に響く破裂音。着弾位置を起点として、暴風が巻き起こる。かなり離れた僕らのもとにまでも強い風が吹いたくらいだ。間近で受けたバブルウォッシャーたちはより強烈に影響を受ける。
「きゅ!?」
「きゅー……」
大風の煽りをうけて、アライグマみたいな小さな体が吹き飛んだ。UFOにしがみついて飛ばされまいとする個体もいるけど、1匹また1匹と耐えきれずに消えていく。
「oNurettAnuoDoTogiNanawu!?」
不思議な鳴き声を上げながらも、どうにか耐えきったのは1匹のみ。リーダー個体じゃないかって疑いのある大き目バブルウォッシャーだけだ。まぁ、あの子も耐えたっていうより、UFOと地面との窪みに嵌って動けなくなっただけなんだけど。
「さすがはイリスですね。ちょうど良い加減です」
「むむ……まだまだ魔法ではかないませんわね」
「いや、一匹残ったのはたまたまだけどね」
ルーグさん、エリザさんの称賛に謙遜しつつ、満更でもない様子のイリスさん。でも、倒すことなくバブルウォッシャーを排除できたのはありがたいね。これなら、UFOを調べたあとにも、スカウトのチャンスが残る。
「ロイ。アイツはテイムするんだよな?」
「できればそうしたいけどね」
でも、正直言って従魔になってもらう方法はよくわからないんだよね。ビネはいつの間にか懐いてくれたし、その他の跳び鼠はビネの紹介だもの。
「チュウ!」
「そうだね。まずは話を聞いてみないと」
一応、従魔ギルドに顔を出して、魔物の従い方ついては教えてもらっているんだ。ただ、やり方は千差万別。幼い頃から育ててって言うのが一般的だけど、野生の魔物を手懐けることもあるし、戦いの果に友情が芽生えることもあるんだって。
つまりは、相手の出方次第ってこと。だから、まずは話を聞いていようと思っている。従魔にできるのはたいてい賢い子だからね。
オードさんたちとは少し後ろに控えてもらって、まずは僕とビネとで接触を試みる。
「ねぇ、キミ、大丈夫?」
「eIh! oyIanukiHsiooMetebaTaHukob!!」
「うーん。なんだろう? なんだか慌てるのはわかるけど」
「era? onianebatukuob? uresanah etisakihsom?」
「これ、鳴き声にしては妙な気が……まるで何かを喋ってるような……?」
「チュウ?」
僕だけじゃなくて、ビネも戸惑っている。魔物のリーダーにしては様子がおかしいんだよね。オドオドしているように見える。
「etToetTo, uoKowerok akihSat」
「ん? 何かな?」
「チュチュ?」
途方に暮れていると、彼は首元をごそごそとやりはじめた。ふさふさの毛で見えていなかったけど、ネックレスのようなものを下げていたみたい。わたわたと手を動かして、何かやっている。
「uZahiieDerok!」
彼はひとしきりペンダントをいじったあと、満足そうに頷く。そして、おずおずと僕を見上げてきた。
『あのー……僕の喋っている言葉、わかりますか?』
お、おお!?
喋ってる!?




