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74. 怪しい光

「やっぱり、魔法が使えるのは便利ですわね! 火が必要ならわたくしをお呼びぐださいね? すぐに着けてさしあげますわよ、この魔法で!」

「いや、大丈夫だからね。私も使えるから。なんだったら、ここにいる全員使えるからね」

「つまらないですわね」


 スカウトツアーの1日目が終わり、僕らは野営の準備中だ。魔法が使えるようになって浮かれているエリザさんにイリスさんがツッコミを入れている。


「ふふふ、闇の中でもよく見えます。これなら暗闇から迫る暗殺者にも対応できますね」


 少し離れたところでは、ルーグさんが物騒な話をしている。闇魔法の〈ダークサイト〉を試してるみたい。こっちも浮かれてるね。


「お前らな、いい加減に落ちつけ。今回はロイの手伝いだってことを忘れるなよ。お前らが調子に乗って魔物を倒しまくるからテイムする機会がまったくなかっただろうが」


 さすがに浮かれ過ぎと思ったのか、オードさんが2人を注意した。


 実際のところ、今日は成果なし。新しい従魔は得られなかった。ただまぁ、それはエリザさんたちのせいではないんだけどね。


 とはいえ、冒険者として思うところはあったみたい。浮かれていた2人もハッとした様子を見せ、うなだれる。


「そ、そうですわね。少し調子に乗りすぎましたわ」

「そうですね。これほど素晴らしい報酬をいただいたというのに、役に立てず申し訳ない」

「いや、大丈夫ですよ。今日はあまりスカウトしたい魔物もいなかったですし。明日が本番ですからね」


 もともと、今日は山の麓まで移動することを目標にしていた。スカウトは二の次だったんだ。もちろん、従魔に良さそうな魔物がいればスカウトするつもりだったけど、残念ながらどの魔物も従魔向きではなかったんだよね。


 三叉バファルは角が一本増えた水牛のような見た目の魔物。突進の威力が凄まじい、この辺りでは一番の強敵だ。従魔にできれば心強いだろうけど、問題もある。デカくて迫力があるからたぶん街の中には入れられないんだ。ネズミ隊の隊員不足を補うという目的にはそぐわない。


 次に遭遇したのは走黒蟲。握りこぶしサイズの黒い虫だ。強くはないけど、とにかく素早い。従魔としての適性は未知数だけど、別のところに問題がある。だって、あれ、カサカサと走る姿がまるっきりGだ。とてもじゃないけど、家に入れる気にはならない。絶対拒否だよ。


 その他、大きさや生理的な嫌悪感、あとはテイム難度の問題なんかもあって、スカウトする気にはならなかったんだ。だから、エリザさんたちが殲滅してしまっても問題ない。


 それはみんなもわかっているはず。だから、オードさんの注意は単純に心持ちの話だ。要は気を引き締めろってことだね。


「明日は落ち着けよ」

「もちろんですわ! 必ず役目を果たしてみせます!」

「ふふふ……私に任せなさい。必ずや恩返してみせますよ」

「……本当に大丈夫かよ」


 オードさんが首を振った。やけに力が入ってるから少し不安なのかな。まぁ、たぶん大丈夫だよね。


 すでに周囲は真っ暗。野営の準備はギリギリで間に合ったかな。といっても、乾燥した枝を集めて、魔法で火を着けただけだけど。


「チュウ!」

「あ、ビネ、おかえり。何か取れた?」

「チュチュウ!」

「へぇ、木の実か。おいしいのかな」

「食べられるやつね。ちょっと酸っぱいけど、悪くないわよ」


 

 食材確保に出ていたビネが戻ってきた。“夜目”の因子を付けてるわけじゃないけど、ビネは暗闇の中でも目が見えるんだって。もともと、暗くて狭い巣穴で暮らす種族だからかな。


 本来、食材は暗くなる前に採取しておくべきだったんだ。そこはまぁエリザさんたちが魔法に興奮して移動が止まることも多くてね。ちょっと移動に手間取ったんだ。


 一応、三叉バファルの肉は確保しているから、メイン食材の用意はあったんだけどね。それでは足りないとビネが協力してくれたわけ。


 調理担当はイリスさん。料理人に興味はないみたいだけど、パーティでは率先して調理役を買って出るみたい。他のメンバーの調理したものは食べらたものじゃないんだって。


 今日は僕も協力した。肉を焼いて、スープを作るだけのシンプルな食事だ。パンは保存用の固いヤツ。でもまぁ、野営中にしては悪くないよね。


 食事を終えて、しばらく雑談してたけど、早めに寝ることにした。となると、必要になるのは見張りだ。


「どうするの?」

「俺たちでやるから、心配するな。ロイは依頼人だからな。寝てていいぞ」

「いいの?」

「もちろんですわ!」

「ロイ君は旅慣れてないでしょ。長く歩いたし、自分で思う以上に疲れてると思うよ」

「うーん、そうでもないけど……」


 “みなぎる活力”があるおかげか、それほど疲れた感じはしない。ただ、慣れていないのは確かだ。


「チュウ!」

「お、なんだ?」

「あ、うん。手伝ってあげるって言ってるね」

「おお、そうか。じゃあ、頼むな」

「チュウ!」


 僕の代わりにビネが見張りをやってくれるというので、お言葉に甘えて、休ませてもらうことにした。


 天幕は張ってない。雨よけのために用意はしているけど、今日は必要ないって話になったんだ。実際、外套にくるまれば充分暖かい。


 横になったらすぐに眠気が襲ってきた。やっぱり疲れていたのかも。




「チュウ! チュウチュウ!」

「……え、何?」


 ぐっすり寝ていたら、慌てた様子のビネに起こされた。尋常じゃない様子に眠気も吹き飛ぶ。


「チュウ!」


 ビネは頻りに空を指している。何が言いたいのかはすぐわかった。ふらふらと頼りない軌道で何か光るものが飛んでいる。星ではない。それよりも明るいし、あんな風に動くのは普通じゃない。


「何、あれ!?」

「わからん。しばらく前に気づいて、ずっとあんな感じだ」


 オードさんが答えた。こんな状況だから、当然、みんな起きている。


「ねぇ、少しずつ近づいてきてない?」

「変な音も聞こえますわ!」

「何でしょうね……悪い予兆ではないといいのですが」


 得体の知れない謎の光。みんな不安げにそれを見守る。ふらふら動く光は北から来て、僕らを通り過ぎ、南へ飛んでいく。


「うわっ、何!?」

「消えた?」


 そのまま通り過ぎていくかと思ったけど、突如轟音が響いた。それっきり光は消える。


「何だったんだろう?」

「……わからん」


 僕の言葉に具体的な答えはなかった。

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