表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/154

72. エリザさんとルーグさん

 オードさんに従魔スカウトツアーの相談をした3日後。僕は再び、“跳び鼠の尻尾亭”を訪れた。今日はいよいよ出発の日だ。超特急で日程調整したからね。


「おはよう、オードさん」

「ああ。準備はできてるな?」

「大丈夫だよ」

「チュチュウ!」


 宿の前で待っていたオードさんと挨拶する。このあとは、冒険者ギルドにはよらず、直接街の正門に向かう。


 今回の件、僕からオードさんパーティへの依頼という形になるけど、報酬が特殊なのでギルドを介してないんだよね。事情が事情なので仕方ないけど、本来ならば推奨されない行為だ。なので、ギルドで待ち合わせは厳禁。


「おはようございます」

「おはよう、ロイ君。オードもね」

「おう」


 門前にいたのはイリスさんに挨拶をすると、笑顔で応えてくれた。


 エリザさんとルーグさんはまだ来てない。けど、僅差だったみたいで、2人もすぐに到着した。


「エリザさんとルーグさん、久しぶりですね」

「おほほほ、そうですわね!」

「ええ、お久しぶりです」


 テンション高く返事をしたのがエリザさん。くるくる巻いた明るい金髪とお嬢様チックな喋り方が特徴的な人だ。年齢はオードさんたちと同じく20歳くらい。


 一方のルーグさんは落ち着いている。銀髪で他3人よりも少し年上らしい。あまり似てないけど、エリザさんのお兄さんなんだって。


 2人は本人たち曰く、由緒正しき庶民の出らしい。庶民に由緒とかないんだけど、その辺りは突っ込んでは駄目なんだって。オードさんが、面倒なだけで得るものがないって言ってた。


「今回はロイ少年の従魔スカウトのお手伝いをすると聞いてますわよ!」

「はい、そうなんです。よろしくおねがいします」

「何でも特別な報酬が貰えるとか。オードは意味ありげに笑うだけで話してくれませんが」

「あはは、そうですね。それについては外に出て話しましょうか」


 因子操作に関わる話なので、人の出入りの多い門前で話すことじゃないからね。目配せすると、意図を察してくれたオードさんとイリスさんも頷いて賛同してくれる。


「そうだね。ここでは落ち着いて話せないし」

「というわけだ。まずは出るぞ」

「おほほほ! よくわかりませんが、わかりましたわ!」

「やれやれ、ひっぱりますね……」


 騒がしく門を通過し、街道に沿って東に進む。けれど、すぐに外れて南に進路を変えた。


 こっちに進むと山岳地帯。小さな村がいくつかあるけど、基本的には何もない未開発地域だ。その分、魔物も多くて種類も豊富。従魔スカウトには都合が良いってわけ。


「内緒話をするにも、そろそろいいのではありませんこと?」

「そうだな」


 少し歩いたところで、エリザさんが切り出した。オードさんも頷いて、僕に視線を向ける。説明しろってことかな。


「じゃあ、報酬の話をしますね。と、その前に……お二人はオードさんが魔法を使えるようになったのは知ってますよね?」

「もちろん、知ってますわ! イリスの魔法も強化されたのもね。でも、二人とも意地悪なんですのよ? 理由を聞いても教えてくださらないの」


 エリザさんは怒ってみせる。けど、擬音をつけるなら“ぷんぷん”って感じだね。怒ってるというより拗ねてると言ったほうが正確かも。オードさんはギクシャクしてると言っていたけど、そこまで深刻ではないみたい。


 一方、ルーグさんは黙ったまま考えこむ素振(そぶ)りだ。けれど、すぐに信じられないといった顔をした。


「……特別な報酬? いや、まさか、そんな」


 僕の言いたいことがわかったみたい。でも、すぐには受け入れられないようだね。


「そのまさかですよ。オードさんが魔法を使えるようになったのは僕の恩寵がきっかけです」


 オードさんの場合、“魔法適正:水”を自前を持っていたので、僕が魔法を使えるようにしたとは言えないかもしれないけど、きっかけとなったのは間違いない。


「そんなことが本当に……?」

(にわか)には信じられませんわ!」

「まぁ、普通はそうだよね」

「たしかに、胡散くさい話だよな……」


 ルーグさんとエリザさんは話を聞いて戸惑っている。イリスさんとオードさんも苦笑いで同意するだけでフォローしてくれない。いやまぁ、言葉だけで信じさせるのは難しいとは思うけどね。


「では、わたくしも魔法を使えるようになるんですの……?」

「そうすることもできますし、他にもいろいろ取り揃えてますよ」

「怪しげな商人みたいな謳い文句ですね……」


 あらら、ルーグさんが警戒してしまったみたい。本当のことなのになぁ。


 今回の報酬のために、この3日で因子集めをしたからね。特区の住人を見て回って、目ぼしい因子は勝手にコピーさせてもらった。あとでお返しの因子をセットしてあげないとね。


 それはともかく、今は二人の説得だ。言葉じゃ駄目なら、実践で。これが一番わかりやすいよね。


「じゃあ、実際にやって見せますね。えええと、オードさん」

「なんだ?」

「ロックスキンを付与しますね」

「ロックスキン?」


 怪訝そうな表情を浮かべるオードさんに構わず作業を進める。説明が面倒だからね。結果はすぐにわかる。


 今回付与したのは〈オン・オフ(自)〉の加工なしバージョン。常時発動タイプだから、直後オードさんが岩に包まれる。


「どわっ!?」

「これは……ロックスネークの岩の鎧ですか」

「驚きましたわ!」


 突然発生した岩の鎧に、びっくり仰天する一同。ふふふ、インパクトはバッチリだね。


「こんな感じで、特殊な素養を付与できるんです」

「素晴らしい! 素晴らしいですわ! わたくし、ロイ少年には特別な力があると信じていましたのよ!」

「まさにまさに。私もどこか違うと思っていたのです。ええ!」


 うわぁ。凄い手のひら返し。この二人、意外と調子が良いね。


 とはいえ、これで報酬の話ができる。


 さてさて、エリザさんとルーグさんにはどんな因子をセットしようかな。いや、その前に因子チェックだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ