70. スカウトツアー打合せ
新従魔のスカウトを決めたのはいいけど、具体的な計画は白紙状態。お仕事の調整もあるし、まずはさっくりとした日程を決めるところからだ。特に、案内をお願いするオードさんたちの予定は大事。なので、朝から"飛び鼠の尻尾亭"に向かった。
「おはようございます!」
「ロイ、か。久しぶり、だな」
宿屋に入ってすぐのところに、リッドさんがいた。嬉しそうに頭を撫でてくれる。1週間前に会ってるから、久しぶりってほどでもないんだけどね。まぁ、以前は宿暮らしで毎日顔を合わせてたから、それに比べると長く感じられるのかも。
「オードさんはいますか?」
「今、食堂で、飯を食ってるぞ」
「おう、なんだー? 俺に用事か?」
僕らの会話が聞こえていたみたい。食堂からオードさんが呼びかけてきた。
リッドさんにぺこっと頭を下げてから食堂に向かう。朝早いから利用者さんはちらほらって感じ。その中にオードさんがいた。
「おはようございます」
「おう! 話があるなら食いながら聞くぞ。まぁ、座れよ」
お客でもないのに席を使うのはちょっと気が引けるけど……席は空いているからいいか。そう思って、オードさんの向かいに座る。
「ロイ、一人か。珍しいな」
「チュウ!」
「はいはい。お前もいるのな。わるかったよ」
「チュウ!」
一人と聞いては黙っていられなかったのか、ビネがポケットから顔を出して存在をアピールした。
食堂にネズミ。前世なら衛生面で問題になりそうだけど、ここでは誰も気にしない。まぁ、しばらくはここで一緒に暮らしてたわけだし、いまさらだよね。ここの利用者って常連客がほとんどだし。
「で、どうしたんだ?」
「えっと、新しい従魔をスカウトしようと思ってるんだよね。実は――」
ネズミ隊の活躍と隊員不足について説明する。話を聞いたオードさんは、はぁと息を吐いた。
「警備隊だけじゃなくて、ハウスキーパーにサーカスか。そいつら、本当に跳び鼠なのか? 本当に優秀だな……」
「チュチュウ!」
「何言ってるかわからんが、ドヤってるのはわかる」
「チュウ!」
ポケットからテーブルに飛び移ったビネが後ろに倒れ込みそうなくらい胸を反らしていた。見事なまでのドヤ顔だ。オードさんは呆れたその様子を見ている。
「それでね。せっかくだから、跳び鼠以外の従魔もスカウトしようと思ってるんだよ」
「ふぅん。何か当てはあるのか?」
「全然。だから、オードさんに案内してもらおうと思って」
「ほーん」
オードさんは少し考え込むような仕草をしたあと、頷く。
「まぁ、この辺りの魔物ならだいたい知ってるぞ。任せておけ」
オードさんはニヤリと笑って引き受けてくれた。けど、すぐに眉をへにょりと下げる。
「だだ、俺からも相談があるんだ。時間はあるか?」
「大丈夫だよ」
「すまんな。ここではなんだから、場所を移そう。少し待ってくれ」
そう言うとオードさんは大きな口で料理を片づけはじめた。それを見た、ビネがトトトとオードさんに近づく。
「チュチュウ?」
「なんて言ってるんだ?」
「あはは……手伝おうかって」
「食い意地が張ってやがるな。結構だよ」
「チュ!」
チェッと残念がる仕草は可愛いけど……
「ビネ、朝ご飯、ちゃんと食べたよね?」
「ヒュヒュウ♪」
口笛吹いて誤魔化してる。器用だね……
オードさんが食べ終わるのを待ってから移動する。と言っても、オードさんの部屋だけど。
「それで、相談ってどうしたの? 僕にできることならいいんだけど」
「いや、まぁロイにしか相談できないというか……話はパーティのことでな」
オードさんは不景気そうな顔で話してくれた。
「ロイが因子で“魔術の才能”を付与してくれたおかげで、俺とイリスの冒険者としての実力は上がった。それは感謝してるんだが……それが原因でルーグとエリザと少しな」
ルーグさんとエリザさんはオードさんのパーティメンバーだ。しばらく故郷に戻ってたけど、半年前くらいに戻ってきた。何度か顔を合わせたことはあるけど、僕自身はあまり交流はないんだよね。特区に移ったあとだからさ。
「少しって……何かあったの?」
「特に何があるわけじゃないが、少しギクシャクしていてな。やっぱり、仲間内で秘密があるとな……アイツらにお前の因子操作のことを話してもいいか?」
オードさんとイリスさんは律儀にもパーティメンバーにも僕の因子操作を秘密にしているみたい。それが原因で関係がギクシャクしてたなんて……そこまでしなくてもいいのに。
「もちろんだよ」
せっかくだし、二人にも何か因子を付与してあげよう。お世話になってるオードさんの仲間だものね。自分たちだけもらえないとなると、それはそれでギスギスの原因になりそうだし。
そう提案すると、オードさんは百面相したあと頷く。
「すまないな……」
「いや、大丈夫だって。いろいろお世話になってるんだし。今回のことの案内料ってことでいいんじゃない?」
「案内料にしては破格すぎるんだよ」
「チュウチュ!」
「なんだ?」
「なんでもないよ。気にするなだって」
「チュウ?」
本当は“しっかり感謝するように”みたいなことを言ってるんだけど、それはさすがにね。偉そうに恩に着せるつもりいはないよ。オードさんにはいろいろお世話になってるんだから。
「ただ、冒険者向きの因子はあまり集まってないんだよね」
「いや、俺に付与してるのとかで充分だろ」
「うーん。でもなぁ」
せっかくなら良い因子をあげたい。オードさんたちの因子も更新したいかも。こういうカスタマイズを考えるのって楽しいよね。
でも、意外と新しい因子が集まらないんだよね。似たような系統の因子が多いんだ。開示される因子に制限でもあるのかな?
こんなときこそ、GPによる恩寵強化だ。1年ため込んだから、さすがに制限も解除できるはず!




