69. 団員スカウト
デルグサーカス団との共同公演が決まったけれど、僕らがやるべきことは特にない。演目については、実際に曲芸をやることになるトビネズミたちが決めることだしね。意思疎通に関してはリーヤムさんがいる。だから、ほとんどはお任せだ。そのほうがいざお披露目ってときに僕らも楽しめるからね。特にライナとレイナは今からわくわくしてるし。
代わりにと言ってはなんだけど、新たな仕事が発生した。サーカスに協力する跳び鼠たち――黄色マフラーのサーカス隊として組織された――は、警備隊とハウスキーパー隊からの出向だ。人数が減ったせいで、本来の仕事に障りが出ると困る。早急に、新人のスカウトが求められているってわけ。
今は夕食時。料理人はまだ雇えていないから、今日もルクスたちの手料理だ。もちろん、文句はないけどね。
「チュウ、チュチュウ! チュウ!」
「うーん、たしかに。そのほうが、できることが増えそうだね」
「チュ!」
そこでビネからスカウト方針を聞いているところだ。ビネは従魔たちの統括者を自負しているから、とても熱心に意見をくれる。
「ずいぶんと熱心に話しているな」
「ビネ、どうしたのー?」
「何、言ってるのー?」
ルクスたちがビネの様子に首を捻っている。簡単なことなら、みんなもビネの意思を汲み取れるんだけどね。複雑な話になってくると、まだ無理みたい。
「新しい従魔をどうしようかって話。ビネは跳び鼠以外も従魔にしたらって言ってる」
「チュ!」
「なるほどなぁ……」
そういうことだと頷くビネに、ルクスが曖昧な表情を見せる。含むものがある……というと大袈裟だけど、諸手を挙げて賛成って感じじゃないね。
「何か問題がある?」
「いや、問題はないよ。ただ、人を雇うって話は後回しにして、従魔ばかり増えるなと思って」
「うっ……それはたしかに」
その件に関しては、ゴードンさんやノンネさんをはじめ、いろんな人に心配されている。どうにかしたほうがいいとは思ってるけど、そこまで必要性を感じないからついつい後回しにしちゃうんだよね。
「よし、わかった。そっちは私が対応しよう」
「そうなの? じゃあ、任せてもいい?」
「ああ。とりあえず、料理人と来客対応のために一人でいいか?」
「うん、それでいいよ。必要があれば増やしてもいいけど」
「まずは少数で様子見するくらいでいいだろ」
「それもそうだね」
良かった、良かった。ルクスならおかしな人を雇うこともないだろうし、安心だ。
「まぁ、そっちは私に任せろ。ところで、新しい従魔をスカウトするとして、何か当てはあるのか?」
「それなんだよね。この辺りの魔物で賢そうな魔物は思い当たらないし……ビネはどう?」
「チュー」
ビネが肩を竦める。特に腹案があったわけではないみたい。
「それならオードさんたちに相談してみたらどうだ?」
「そうしようかな」
最近は区長の仕事が忙しくて、冒険者活動もやれてない。せっかくだし、一緒にお仕事できたら楽しいかも。もちろん、オードさんの予定しだいだけど。
「でも、日帰りだと限界があるよね。珍しい魔物をスカウトするなら、少し遠出することになるかも……」
「たまにはいいじゃないか。ロイは働きすぎだって」
そうかな? 基本的には朝に報告を聞くだけなんだけど。まぁ、区内の見回りも仕事に含めれば、結構働いているかも。
とはいえ、基本的には丸投げしているだけだから、大変ってほどでもないんだよね。だからこそ、少しくらい休んでも平気とも言える。
「うん。それじゃ、ゴードンさんたちと相談して、数日お休みを貰おうかな」
「それがいいって」
ルクスが真面目な顔をして頷いている。もしかして、心配させちゃってたのかも。
そこまで無理をしてるつもりはなかったけれど、これからはもう少しお休みをもらってもいいかもしれないね。特区も安定してきたし、大きな問題が起きるとも思えないし。
まぁ、今回に関しては従魔のスカウトもあるから、半分仕事みたいなものだけどね。
「ルクスも一緒にいく?」
「いや。さっきも言ったけど、私は屋敷に入れる人を探すよ。じゃないと、いつまで経っても、そのままな気がするし」
「あはは、そうだね」
ルクスは留守番か。
「ライナとレイネは?」
「「うーん……」」
尋ねると、2人は考えこんだ。新しい従魔には興味がありそうだけど、かなり悩んでいるみたい。
「レイネは残る!」
「ライナも! ギタラ頑張る!」
「そっか」
ビネたちに触発されて、ライナとレイネも今まで以上に楽器の練習に取り組むつもりみたい。サーカスで、動物たちがギタラの演奏に合わせて踊る演目があったからね。ビネたちと一緒に参加したい思ってるのかも。
「じゃあ、スカウト活動は僕一人か」
「チュチュ!」
「え、ビネも? サーカスのほうはどうするの?」
「チュチュ! チュウ!」
そっちはサーカス隊の隊長に任せるみたい。ビネは全体の統括者だし、新人を入れるなら自分の目で見極めると意気込んでいる。
「わかったよ。それじゃ、お願いね」
「チュウ!」
お決まりの、胸を叩いて任せろのポーズだ。可愛いけど、頼りになるね。




