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67. サーカス乱入事件

 噂のサーカスがブルスデンの街にもやってきた。場所は特区近くの広場。いつか、神授の儀をやったところだね。双子は大喜び。約束通り、みんなで見に行くことになった。


 広場には大きなテント。サーカスはその中でやるみたい。団員の人たちが笑顔でサーカスの開幕の宣伝をしている。


 表に出てる団員はみんな若めだね。まあ、僕らよりは年上だけど。男女ともにひらひらの衣装を着ている。


 あと、珍しく黒髪が多いね。けれど、転移とかじゃなくて、外国の人なんだと思う。目の色は黄色とかオレンジだし、トールさんとは顔立が違うもの。


「いい席に座れたな」

「早く出たかいがあったね」


 僕らが座ったのは前から3列目。ステージに近くて、よく見える。僕、ライナ、レイネ、ルクスの順で座った。ビネは僕の肩に座っている。


 僕らの後にも続々とお客が入り、すぐに満席になってしまった。想像した以上の人気だ。みんな娯楽に飢えているのかな。


「それではサーカスの開演です」


 団長らしきおじさんが宣言すると、ステージ両脇から2人お兄さんが側転しながら現れた。中央でくるりと1回転すると、いつの間にか、その手にはカラフルなボールが握られている。2人はお互いにボールを投げ合い、キャッチしては投げ返す。


「すごいねー!」

「ボール、ぐるぐる!」


 観客がわっと湧いた。ライナとレイネも目を輝かせて手を叩いている。あっという間に引き込まれたね。


「チュチュウ」


 ビネもやるなって感じで頷いている。


 前半は人間の団員による演目が続く。ナイフ投げや綱渡りとか、何となく見たことがある内容。どこの世界も同じようなことをやるんだね。


 とはいえ、目の前で見ると迫力がある。充分に楽しめたし、双子もルクスも興奮している様子だ。


 中盤になると、いよいよ動物たちの出番だ。


「お猿だ!」

「ボール、乗ってる!」


 トンガリ帽子を被り、玉乗りしながら現れたのは、小柄な猿だ。愉快なポーズを取りながらも、上手に玉を乗りこなし、ステージを動き回る。


「すごい!」

「じょうず!」

「チュチュウ……?」


 双子はキャッキャと喜ぶけど、ビネが見る目は厳しい。その程度かと言わんばかりの態度だ。


 続いて現れたのはライオンっぽい動物。僕の知るライオンよりは小型で、迫力よりも可愛らしさがある。演目は輪っかくぐりだ。火の輪ではないけど、似たような輪っかをジャンプで飛び越える。補助の団員がヒョイと飛ばした3つの輪っかをタイミングよく飛び越えた時には拍手喝采が起こった。


「チュウ」


 ビネがそれを見て頷く。楽しんでいるというよりは、敵情視察でもしてるみたい。真剣だ。


 楽しい時間はあっという間にすぎて、サーカスも終盤。再び団長さんが出てきて、おしまいの挨拶をはじめた。拍手をしなから、僕らは感想を言い合う。


「凄かったね。何が楽しかった?」

「レイネはお猿の玉乗り!」

「ライナは……えっと全部!」

「あ、ずるい! それなら、レイネも全部!」

「ははは。たしかに、全部凄かったな」

「そうだね。ビネは……あれ、いない?」


 ビネの感想を聞こうとしたら、どこにもいなかった。さっきまではたしかに僕の肩にいたのに。サーカスに夢中で、いなくなったことに気づかなかったみたい。


「どこいっちゃったんだろう?」


 ビネは賢い。先に戻るなら一声かけてくれるはずだけど、それもなかった。連れ去られたとかじゃないと思うけど、少し心配だ。


「チュチュウ!」

「「「チュウ!」」」


 そのとき、聞き覚えのある鳴き声がステージに響いた。咄嗟に顔を向けると、そこにいてのはマフラーを首に巻いた跳び鼠たち。どう見てもうちの子だ。


「チュウ!」


 赤マフラーを巻いた跳び鼠――ビネの号令で緑マフラーの跳び鼠たちが動き出す。2匹で1組になったと思えば、片方がもう一方を上に投げ飛ばした。因子“力自慢”で、見た目よりも遥かに力があるから、天井ギリギリの高さまで到達する。


 観客がどよめく中、飛び上がったネズミがバサリと布を広げた。両手両手足で掴んでモモンガみたいに滑空態勢に入る。


「チュウ!」

「「「チュウ!」」」


 ビネの指示で今度は青マフラーのネズミたちか動き出した。何かと思えば魔法を使ったみたい。空中に幾つかの光の輪が浮かんだ。その中心を滑空するネズミたちが潜っていく。


「「「おー!」」」


 何も知らない観客たちは、大盛り上がり。双子も手を叩いて喜んだ。でも、僕とルクスはそれどころじゃない。


「ど、どうしよう?」

「サ、サーカスの対応次第だ。ヤバそうだったら、謝ろう!」


 サーカスの団員に視線を向けると、当然、彼らも慌てている。けれど、それもしばらくすると落ち着いた。危険はないと判断してのか、今では観客と同じように笑顔でビネたちの演目を楽しんでいるみたい。


 少し安心して……それでもヒヤヒヤしながら僕とルクスはステージを見守った。


「チュチュウ!」

「「「チュウ!」」」


 ひと通り、スゴ技を見せた後、ビネがペコリと観客に向けて頭を下げた。それに合わせて他のネズミたちも頭を下げる。


 万雷の拍手が響く。今日一番の盛り上がりかもしれない。そんな中、跳び鼠たちは解散していく。


「ビネたち、すごい!」

「かっこよかったー!」


 双子は無邪気に笑っている。けれど僕らはぐったりだ。ただ見てただけなのにね……。


「良かった……無事、終わったね」

「そうだな……」


 思わず席に座り込んで、二人で視線を交わす。そこに、元凶のビネが戻ってきた。


「チュチュウ!」

「ああ、あの方々がこ主人なんですね?」

「チュウ」


 しかもサーカス関係者らしき人を連れて。ビネを肩に乗せて歩いてくるのは糸目のお姉さんだ。彼女は僕らのところまでくるとニッコリ笑って言った。


「こんにちは、みなさん。さっきの件でお話があります」


 ……ですよね。無事に終わってなかったのかも。

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