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66. サーカスの噂

 いつものように特区を見て回る。スラムだったころと比べると、みんな表情が明るい。


 やっぱり、安全安心って大事だよね。生活に余裕が出てきたせいか、かつての殺伐とした雰囲気はすこしも残ってない。まぁ、元凶のギャング団が居なくなったっていうのが一番大きな理由だと思うけど。


 住民もかなり仕事に慣れてきたみたい。最初の頃は働く意欲に乏しく、指示されたことをノロノロとこなすくらいだったけど、今では自発的に仕事を探すくらいになってる。有志で自警団を組織しようって話も出てるしね。どうせだったら、人の警備隊として働いてもらってもいいかもしれない。


 ただ、みんなのやる気が上がったことで、仕事のほうが不足気味なんだよね。そろそろ新しいことを初めてもいいかなと思ってるんだけど、なかなかこれといった案が思い浮かばない。それが悩みといえば悩みだ。


 と、そうこうしているうちに日が暮れてきた。家に帰ろう。


「チュチュウ!」

「あ、うん。ただいま」

「チュウ!」


 扉を開けたら、青マフラーの跳び鼠に挨拶された。ちょうど、入り口に明かりを灯しに来たところだったみたい。チュウチュウと魔法で明かりをつけると、ペコリと頭を下げて去っていった。


 彼はハウスキーパー隊の跳び鼠だ。新しい家に移ってから、警備隊の一部を分割して組織した。役割は屋敷の維持管理。因子は魔法が使える構成になってるんだ。今みたいに明かりをつけたり、風魔法で掃き掃除をしたりもする。


 かなり器用で、なんだか人間の使用人はいらない気がしてきた。いや、やっぱり駄目か。他所からのお客さんが来たとき、ビックリしちゃうよね。


「お、帰ったな。お帰り」

「ただいま」

「「おかえりー!」」


 食堂に顔をだしたらみんながいた。挨拶をして無駄に大きなテーブルにつく。


「食事を作ってくれたんだ」

「まぁな。せっかく調理場があるのに使わないともったいない」

「レイネも手伝ったよ!」

「ライナも!」

「へぇ。楽しみだね」

「「えへへ」」


 出てきたのはスープと蒸した芋、鳥の肉を焼いたものにサラダだ。


「おいしいよ」

「普段通りだけどな」


 ルクスは苦笑い。


 まぁ、それは仕方がない。調理場が変わったところで、料理の腕が上達するわけじゃないものね。宿の手伝いで多少は経験があるけど、それ以前はまともに料理をしてたことがないんだよね、僕ら。それを思えば充分な出来だ。


「料理人は雇ってもいいかもしれないな」

「たしかにね」


 ルクスの提案は一理ある。せっかくの広い調理場だもの。活かさないともったいない。料理だって教えてもらえるかもしれないし。検討しておこう。


「ねぇねぇ、ロイ」

「知ってる? 知ってる?」


 スープをすすっていると、双子がそわそわした様子で話しかけてくる。


「知ってるって、何を?」

「サーカスだよ!」

「街に来るんだって!」


 かなり興奮してるみたい。いや、でもわかるな。サーカスなんて、こっちでは見たことない。


「そうなの?」

「ああ。隣町に来てるらしい。今日、イリスさんから聞いた」


 イリスさんか。僕らの魔法の師匠だ。因子のおかげで魔法の素質は充分な僕らだけど、実際の運用になると知識不足な面もある。いまだに頼りにさせてもらっているんだ。


 サーカスが来ているのは隣町のレイデン。大きな街を訪れる移動サーカスだから、次はブルスデンに来るみたい。


 双子がキラキラな目で僕を見る。何を期待してるかは、もちろんわかる。


「サーカスが来たら、みんなで行ってみようか」

「「やったー!」」

「ふふふ、良かったな」


 双子がお互いの手をパチンと叩いて喜んだ。ルクスが優しい目でそれを見守っている。僕も微笑ましい。


 それにサーカスだ。一応、娯楽地区を目指す僕としても興味がある。こっちまで来るなら、見に行かない手はないよね。


 ただ、喜ぶ双子とは対象的にビネは元気がない。さっきからずっといるんだけど、ふてくされたような態度で芋をかじるばかりだ。


「ビネはいったいどうしたの?」

「はは……いや、サーカスには動物の見世物もあるだろ? ライナとレイネが楽しみだというものだから……」

「チュ!」 


 なるほど、いじけてるのか。そんなところにまで対抗心があるんだね。変な話だけど、サーカスの動物たちより、ビネのほうがよほど凄いと思うけど。完璧に僕らの言葉を理解して、魔法まで使うんだから。


 というか……あれ?


「ビネたちならサーカスと同じようなことができるんじゃない?」

「……そうだな」


 ルクスも目から鱗といった様子で目を瞬かせている。サーカスといえば、見るもの。やるっていう発想にはなかなか至らないけど、考えてみれば悪くなさそうだ。


「チュウ?」

「ビネ、サーカスやるの?」

「見たい見たい!」

「チュ? チュウ、チュチュウ!」


 双子に期待されて、ビネもやる気になったみたい。嘘みたいに元気になって、テーブルを走り回ってる。


「ほらほら、落ち着いて」

「チュウ!」

「うんうん。ビネならできると思うよ。でも、実際、どんなことやるだろう?」


 前世の記憶だと、あまりはっきりしない。ぱっと思い浮かぶのは火の輪くぐりとか、かな。そのくらいなら、平気でやりそうだけど。


「やっぱり、一度見てみないと。ビネも一緒に行こうか」

「チュチュウ!」


 おっと、やる気だね?

 ふふふ、楽しくなってきたなぁ。

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