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59. 圧倒的勝利

 因子で強化された衛兵隊の活躍は目覚ましかった。“頑丈”で防御力アップしているから半端な攻撃ではほとんど負傷しない。その上、“溢れる生命力”で軽傷ならすぐに癒えるんだ。攻撃面では“力自慢”が生きる。中には槍を振り回して、ギャング数名を吹き飛ばしている人もいるね。


「はははは! 勝てる、勝てるぞ! 俺は、俺は強い! 強いんだぁ!」

「おい、興奮しすぎだ! 突出しすぎると死ぬぞ! 落ち着け!」

「……そうだな。悪い」

「き、急に冷静になったな……」


 中には急な強化で調子に乗ってしまう人もいるけど、そういう人も感情因子を取り込んでしまえば冷静さを取り戻す。ついでに感情因子の“興奮(Lv5)”をゲットだ。使い所があるかわからないけど。


 超人めいた働きをする職業兵士が50人。恐れを知らないギャングたちとはいえ、抗うのは難しい。


 もちろん、人数差は大きいから囲まれて負傷する衛兵の人もいるけどね。大きな怪我は“溢れる生命力”で即回復とはいかない。


 けれど、治癒者がいるから大丈夫。なんと、キースさんがそうなんだ。神官の家系だからか、それとも本人の素養か。どちらかわからないけど、治癒魔法が使えるみたい。致命傷じゃなければ、たちまち戦線復帰だ。


 普通なら問題になりそうなスタミナに関しても“みなぎる体力”のおかげで何とかなっている。まぁ、そもそもの体力が違うしね。ギャングと違って真面目に訓練をする職業兵士は基礎能力が高い。


「お、お前らはここを死守してろ! 俺は仲間を集めてくる!」

「あ、お前逃げる気か!」

「くそっ! 貴族の犬のくせに!」

「逃がすか!」

「深追いするな! まずは安全の確保が第一だ!」


 士気が保てなくなったのか、ギャング側には離脱者が出はじめた。増援を呼ぶつもりかもしれないけど、その間にこの場を食い止める人員は壊滅しそうな勢いだ。


 誰かが指揮をとって、この場を死守するようなら巻き返す可能性もあるけど、おそらくそれは無理だ。向こうは幾つかのギャング団の寄せ集め。全体を統率できる人がいない。


 対する衛兵側は隊長の指揮が行き届いている。組織としての能力もこちらが圧倒的に上だ。


 しばらくすれば、ギャング側に立っている人はいなくなっていた。もちろん、全滅させたわけじゃなくて、半分くらいは逃げ帰ったのだけど、それでも凄まじい戦果だね。


 一方で、こちらの死者はゼロ。文句無しの完勝だ。


「おい、キース。どうだ? 俺より少年のほうが勇者っぽくないか」


 きっぱり断ったのにまだ諦めきれないのか、トールさんが妙なことを吹き込もうとしている。


 だけど、キースさんは表情を変えることなく、首を左右に振った。


「たしかに、勇者に匹敵するほどの力はあるかもしれない。だが、バルダーズ家の予言とは違う。勇者はお前だ」

「くっ……なすりつけるのは無理か」


 なすりつけるって言ってるし!


「しかし……これだけの力を持っていると、たしかに囲おうとする者たちは出てくるだろうな」


 キースさんが懸念を示した。さっきのオードさんとの話を聞いていたみたいだね。


「そうそう、それなんだ。ロイは権力者に囲われることを望んでいない。勇者の権威でどうにかできないか?」


 オードさんの要請に、キースさんは首を少し傾げて考えるような素振りを見せた。


「ふむ。力を持つ者は、相応の責務を果たすべきだと思うが……それを子供に課すのは酷か。そうだな。コイツにはもったいないが、勇者の弟子としておくか」

「いや、それはなぁ……変な(しがらみ)まで背負せることにならないか?」


 キースさんの提案にトールさんが難色を示す。さっきまで僕を勇者に仕立て上げようとしていたのに……まぁ、冗談だったんだろうけど。


「いや、丸く収めるにはそれくらいのほうがいい。半端な権威では守りきれないぞ、この力は」

「でもなぁ。勇者だからやれるよなって感じで、厄介事を押し付けてくるヤツも多いだろ。俺の弟子ってことになると、少年のところにも来るぞ、そういうヤツが」

「そこは師匠から適当に役割を申し付けておけ。そちらを優先する必要があるので、受けられんと言い訳ができる」


 なんだかトールさんも苦労してそうな雰囲気だね。まぁ、勇者といっても、その立場は権力者に囲われているようなものかも。トールさんは保護してくれた恩があるからと、仕事と割り切って役割を果たしているみたいだけど……やっぱり僕には向かないかなと思う。


 結局のところ、キースさんに押し切られて、僕は勇者の弟子という立場になった。あくまで名目だけどね。


「面倒ごとを押し付けられそうになったら、俺を通すように言ってくれ」

「いいんですか?」

「いいよ。その代わり、師匠として命じる。もっと世界に娯楽を広めてくれ! 娯楽は世界を平和にするはずだ。まさに勇者の仕事だと思わないか!」


 あはは……結局はそれなのか。まぁ、厄介事を押し付ける代わりだと思えば、全然構わないけどね。


「勇者の仕事かどうかはわからないですけど、わかりました。ちょっと考えてみます」

「まぁ、そこまで張り切らなくてもいいけどな。頼むぞ、ロイ」


 トールさんがニヤリと笑って親指を立てた。


 隣のキースさんは呆れ顔でため息をついてたけど、弟子の役割については何も言わなかった。代わりに1つ頼まれ事をしたけど。


「すまないが、私からも頼みがある。カトレア様を気にかけてもらえないか。事情は聞いているのだよな?」


 カトレア様……?


 ああ、そういえばキースさんは隣国の貴族家の生まれって言っていたね。カトリアさんの出身国の人なのか。


「もちろんです。僕で力になれるなら」

「そうか、ありがとう。まったく、王も素直に防衛戦力を派遣すれば……いや、外交問題になるか。そもそもカトレア様が納得しない……ああ、面倒な……」


 よくわからないけど、キースさんも苦労してそうだ。みんな、ぞれぞれ大変なんだねぇ。

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