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58. スラム大捕物2

 トンガが駆け出す直前、近くの建物から矢が放たれた。頭上からの奇襲に、そちらに向いている。トンガはその隙を突いて拘束から抜け出したみたいだ。つまり、ヤツには協力者がいる。計画的な犯行だ。


「お前さえいなければぁ……死ねぇぇ!」


 叫びながら向かってくるトンガの手には、いつの間にかナイフが握られている。


「ロイ!」


 僕の名前を呼ぶ声が聞こえる。それに答える余裕もなく、眼前にはトンガ。突き出されたナイフが僕に突き刺さろうとして――――岩の鎧で弾かれた。


「ふぐぅぬわっ!?」


 ついでに、勢いで体当たりしてきたトンガが岩の鎧に激突し、よくわからないことを叫びながら倒れた。岩の鎧はゴツゴツしている。何の備えもなくぶつかったら、それはそれは痛いだろう。


 一方、僕も吹き飛ばされたけど、頑丈な岩の鎧はダメージを通さなかった。持ってて良かったロックスキン! 取り込んでおいて良かったよ。


「なっ……?」

「え?」


 衛兵たちが状況についていけず、ポカンとしている。


「ぐぉぉ……何が?」


 トンガが痛みに顔を顰めなからも僕を見てニタリと笑った。


「ははは! 邪神だ! 邪神がついに本性を現したぞ!」


 邪教徒から邪神にグレードアップしてる!?


「コイツ!」

「衛兵ども、ぼんやりするな!」


 僕がショックを受けている間にルクスとオードさんが動いた。ルクスの水弾がトンガの意識を奪うと、オードさんが拘束する。


 それにしてもロックスキンは思ったよりも便利じゃないね。防御は鉄壁だけど、鎧が重すぎて身動きできない。ビネはよくこの状態で動き回れたなぁ。一旦、解除しておこう。


「少年、無事か!」


 トールさんが駆け寄ってきた。傷一つないとアピールすると、ホッとした様子を見せるけど、すぐに眉が下がる。


「すまんな。見通しが甘かった」


 トールさんが申し訳なさそうに頭を下げる。僕を危険に晒したことに責任を感じているみたい。そんなこと気にすることないのにね。この件に関して言えば、当事者は僕でトールさんは巻き込まれた形なのに。


 それに途中まではうまくいってたんだ。想定外を引き起こしたのは、トンガの強い憎しみ。それは、僕の過去の行動に起因するものだから、トールさんを責める気にはなれない。


「仕方ないですよ。それよりも……どうしましょう、この状況」


 僕への襲撃はトンガの個人的な計画だったのだと思うけど、すでにそれじゃすまなくなっている。触発された下っ端が攻撃を仕掛けてきたんだ。そうなると、衛兵も反撃せざるを得ない。このままスラム全体を巻き込んだ大紛争になりそうな感じだ。


「こうなったら、徹底的にやるしかないだろうな。どこかで和解するにも、まずは領軍の形勢を良くしておかないと話にならない」

「何とかなりそうですか?」

「最悪、俺一人でも何とかできると思うけど、領軍にはそれなりに被害が出るだろうな」


 トールさんが憂鬱そうに答える。一人で何とかできるっていう言葉には驚いたけど、楽観はしてないみたい。実際、衛兵隊にはすでに怪我人が出ている。まだスラム全体に波及していない現段階でこれなのだから、最終的な被害は甚大になるだろう。


 それが衛兵の役割といえばその通りなのだけど……僕が発端となった事件で犠牲者が出るのは凄く申し訳ないよね。


「とにかく、少年たちは後方に――」

「待ってください! 僕も役に立てます」

「いや、それは……そうなのかもしれないけど、しかしな……」


 僕らを退避させようとするトールさんの言葉を遮り、参戦の意思を表明する。予想外の展開になったけど、この件は僕らこそがケリをつけるべき問題だ。


「ロイ、やる気なのか? 前にも言ったが、その力はバレるといろいろ面倒だぞ?」


 何をするのか察したオードさんが忠告してくれる。それは僕も理解してるけど……


「これは僕らの戦いだから。ね、ルクス」

「そうだな」


 ルクスも頷いてくれる。


「そうか。そう決めたんならまぁいい」


 僕らの決意を汲み取ってくれたのか、オードさんは真剣な表情で頷き……表情をニヤリと一変させた。


「ま、勇者を巻き込めばどうとでもなるだろ。いざとなれば、トールに牽制してもらおうぜ!」

「は? 何を言って――」

「いいから頷いとけよ」


 オードさんが無茶振りしているけど……確かに、権力者とも付き合いのあるトールさんなら何とかしてくれるかもしれない。いざとなれば、頼らせてもらおう。


「じゃあ、いきますね! 付与魔法!」


 宣言とともになんちゃって付与魔法で目に付く衛兵を強化していく。もちろん、本物の付与魔法ではなくて因子付与なんだけど。


 因子加工をGPで強化して、“時限付与”ができるようになった。これは一定時間が経過すると、付与した因子が勝手に削除される機能だ。これを利用すれば、普通の付与魔法に見える……かもしれない。僕が付与魔術師を装うには都合が良いってわけ。


 ついでにGPでセット付与もできるようになった。これは登録しておいた因子セットを一括で付与できるという便利機能だ。


 今は付与してるのはこんな感じ。


■セット名:便利付与詰め合わせ

・溢れる生命力〈時限〉

・みなぎる活力〈時限〉

・頑丈(Lv10)〈時限〉

・打撃耐性(Lv10)〈時限〉

・ちょこまか動く〈時限〉

・力自慢〈時限〉


 一気に強化できるからとても便利だ。ついでに、因子操作できる距離も強化で少しのばしてある。このくらいの範囲なら動き回ることなく強化可能だ。


「体から力が湧き上がる!」

「これならやれるぞ!」

「なんて凄まじい付与だ!」

「あの子、“付与魔法”って言いながら魔法使ってなかったか? 普通、呪文を唱えるもんじゃ……」

「細かいことを気にしてる場合か! 戦え!」


 よしよし、衛兵たちが盛り返してきたぞ。そもそも、戦闘能力という点ではギャングの下っ端なんかより衛兵隊の方が上だ。因子付与の上乗せさえあれば少々の人数差くらいはひっくり返せる。ギャングたちが一致団結すれば結果はわからないけど、今は複数のギャング団が寄り集まっている状態だ。連携も拙いし、何とかなりそう。


「凄まじいな……これは少年が?」

「はい。僕の恩寵で」

「俺の力よりもよほど便利じゃないか。なぁ……勇者、代わってくれない?」

「いやです」

「だよなぁ……」


 きっぱり拒否すると、トールさんはしょんぼり肩を落とした。

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