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56. 3度目の黒髪おじさん

 今日は放火未遂犯を捕まえた日から数えると翌々日。衛兵を動かす伝手を紹介してくれるというので僕はオードさんと冒険者ギルドに出向いたんだけど……そこ待っていたのは、まさかの人物だった。


「やあ、少年! まあ会ったな!」


 ギルドの一室で、軽やかに手を上げて僕らを出迎えたのは黒髪のおじさんだ。その隣には渋い表情の金髪のお兄さんもいる。


「ええと……フジエダさん?」

「あれは世を忍ぶ仮の姿だ。俺のことはトールと呼んでくれ」


 フジエダさん、改めトールさんはニヤリと笑う。全然正体を隠せてなかった気がするけど、あくまでそういう(てい)でいくつもりみたい。まぁいいけど。


 それにしてもトールか。もとはトオルかな? やっぱり、僕の前世の世界と関わりがある人みたいだ。


「よろしくお願いします。僕はロイです」


 とりあえず、僕も自己紹介。それが終わったところで、僕はオードさんに目を向けた。


「それで……どうして、トールさんが僕の伝手なの?」


 僕だって会うのはこれで3度目だよ。ギタラ演奏の弟子入りがどうのって話が出たから接点があるといえばあるけど、結局はそれもうやむやになったのに。


 僕自身はトールさんとの繋がりはありそうだと思っているよ。共通の世界の知識を持っているという意味でね。僕の場合は前世で、トールさんは転移元……になるのかな?


 でも、それはオードさんに伝えていない。だから、なんでトールさんを僕の伝手だと判断したのかさっぱりわからない。


「ははは。オードは少年ことを心配していたみたいだぞ。それで、俺のことを探るために接触してきたんだ」


 事情を説明してくれたのはトールさんだ。


「そうなの?」

「まぁ、探るってほどじゃないけど、少し気になってな。下手くそだが、俺の知らないギタラ曲を知っていたことも気になったし」

「下手って言うなよ!」


 二人はワイワイ言いあってる。意外と仲が良さそうだ。僕の知らない間に、オードさんはトールさんと交流を持っていたみたい。


「話した感じ害はなさそうだし、ロイのことを気にかけているのは間違いなさそうだったので、今回、声をかけたんだ」

「トールさんが……僕を?」

「言ったろ。俺は少年の活動を応援してるんだ。どんどん娯楽を普及させて欲しい。本来なら俺がやりたいところだが、キースがうるさくてな……」


 名前を呼ばれたキースさんがむっとした表情で睨んだけど、トールさんはひらひら手を振って、気にした様子はない。そのまま話を続けた。


「ともかく、少年の生活を脅かすヤツを懲らしめるっていうなら俺も協力するさ。普通に犯罪だしな」


 あいかわらず僕を娯楽の伝道師だと思ってる節があるトールさんだけど、そのおかげで今回の件に協力してくれるみたい。何がどう幸いするかわからないものだね。


 ただ…… 


「協力してくれるのはありがたいですけど、トールさんは衛兵隊に知り合いがいるんですか?」


 今回必要なのは衛兵隊を動かすための伝手だ。言ってはなんだけど、トールさんはあまり偉そうに見えない。どちらかといえば、お供のキースさんのほうが威厳あるんだよね。もしかして、貴族とかなんじゃないかな?


 僕の視線に気づいたのか、キースさんが首を左右に振たった。


「私は関係ないぞ。貴族家の生まれではあるが、隣国の、それも三男だからな。この国では何の力も持たない。正真正銘、その男の伝手だ」


 そうなんだ、と再びトールさんに視線を向けると、何故か眉をへにょりと下げている。あまり触れられたくない話題なのかな。


「そいつ、勇者なんだとさ。この街の領主とも面識があるらしいぞ」


 事情を説明してくれたのはオードさんだ。当の本人は渋い表情をしている。


「勇者?」

「ぐ……違うぞ、少年。自称しているわけじゃない。俺は単なるおっさんだ。ただ、偶然にも予言とやらに合致してしまったんだ」


 トールさんは数年前、この世界に転移してきたみたい。気がつけば、見知らぬ森の中にいたんだって。そのとき、保護したのが隣国のとある貴族家。キースさんのバルダーズ家らしい。


 バルダーズ家は代々神官の系譜で、先代当主はとある予言を残していた。


 近く、この世界を脅かす存在が誕生する。対抗するためには、異界から訪れる勇者の力が必要だ。


 これが予言の内容。そんな折、トールさんが現れた。彼こそが勇者だということになったそうだ。


「いや、感謝はしてるんだ。右も左もわからない俺を保護してくれたのはな。だけど、勇者ってのはなぁ」


 トールさんとしては、勇者と呼ばれるのは不本意らしい。だが、数年経ってもその称号が撤回されていないのは、それ相応の理由がある。


 転移者特典とでもいえばいいのかな。トールさんはこの世界に転移したとき、大きな力を手に入れたんだって。バルダーズ家の人たちは、それこそが勇者の力だって考えているみたい。


「お前が予言の勇者かどうかは私にはわからない。だが、それに相応しい力を持っているのは間違いない」


 キースさんも断言する。


「はぁ……まぁそういうわけなのさ。助けてもらった恩もあるんで、無下にはできないから、一応、勇者ってことになってる。その関係で各地の領主とは面識があるんだよ」


 トールさん、今は世直しの旅をしているらしい。この街に来たときも、領主に挨拶をしている……というか、今も領主館でお世話になっているそうだ。


「人助けの名目で、俺がスラムの犯罪者を捕らえると言えば、領主も人を出すだろ。貴族としての面目もあるからな」


 ギャングにはギャングの面子があるように、貴族には貴族の面子がある。勇者が動くとはいえ、領内の犯罪者を人任せにはできないということらしい。


 確かに、それなら問題は解決しそうだね。



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