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55. 力を借りる

 お説教が決まってテンションが下がった僕とルクスだけど、落ち込んでばかりのもいられない。オードさんと一緒に、ビネが捕らえたという不審者たちから情報を引き出すことにした。


「えっと……何処にいるの?」


 おかしいな。現場に着いたというのに、それらしき人影が見当たらない。


「チュウ!」

「ほら、あそこにいるだろ」

「うん?」


 ビネとルクスが示す先には、膝下程度の低木が3本生えているだけで何も……


 って、あれ……?

 もしかして、これ木じゃない!?


 よくよく見てみると、僕が低木だと思っていたものは胸元辺りまで埋まった人だった! 気絶しているのか、ぐったりしたまま動かない。


「これ、ビネがやったの?」

「チュチュウ!」

「マジかよ。とんでもないな……」


 オードさんが呆れている。不審者を捕まえたとは伝えたけど、ビネがやったとは思ってなかったみたい。


「チュ……? チュ、チュウ……」


 オードさんの反応で、ビネは少し反省したみたい。従魔ギルドのケルテムギルド長から、不必要に力を見せつけないようにと言われていたものね。


 だけど、今回に関しては仕方がないと思う。ビネがやらなきゃ、宿屋に火をつけられていたかもしれないんだしね。


「今回は非常事態だから仕方がないって。それにオードさんなら大丈夫だよ。ね?」

「まぁな。宿を守ったんならお手柄だ。誰にも文句は言わせねえよ」

「チュウ!」


 オードさんのフォローもあって、ビネも元気を取り戻した。まぁ、真夜中で他に目撃者もいないから、そもそも問題にはならなかったはずだ。


「で、コイツらに心当たりは?」

「たぶん、灼熱の怪鳥の一味だ。見た顔がある」


 オードさんの問いにルクスが答えた。灼熱の怪鳥は僕らに縁のあるギャング団だ。トンガもその一員だね。


「ギャング団全体で動いてるのかな?」

「さすがにそれはないと思うけどな。トンガが何かしら理由をつけて、下っ端を動かしたんじゃないか?」


 トンガの独断というのが、ルクスの推測だ。それだったら何とかなるかな。


「じゃあ、トンガをどうにかできれば、問題は解決するね」

「そうだな。夜の間に忍び込んで脅すか?」


 以前ならともかく、今の僕らならスラムに忍び込んでこっそり脅しをかけるくらい難しくない。因子のおかげでね。


 だけど、本気で検討する前にオードさんから止められてしまった。


「待て待て! だから、何でも自分たちだけで解決しようとするな!」

「は、はい」

「わか、わかったから!」

「まったく、何だってそんな思い切りがいいんだ。もう少し慎重になれ」


 オードさんは僕とルクスの頭に手を置いてぐりぐり押してくる。素直に返事をしたら止まったけど、オードさんは呆れ返っている。これはお説教追加かも。


「あのな。お前らのやり方だと、スラム全体を巻き込んだ大騒ぎになりかねないぞ」

「えぇ?」


 そんな大袈裟なと思うけど、オードさんはいたって真面目な顔だ。


「そもそも、だ。そのトンガってやつはギャングの一味なんだろ。脅したくらいで素直に従うのか?」 

 

 そう言われると、自信がない。以前の怒りっぷりからすると、僕らが接触した時点で大騒ぎしそうな気がする。そう告げるとオードさんは頷いた。


「だろうな。ギャングってのは血の気が多いし、考えなしのヤツらばかりだ。ちょっと脅したぐらいじゃ意味がない。引き下がりはしないだろう」


 僕とルクスが頷くと、オードさんは続ける。


「子供に襲われて大騒ぎする。そのトンガってやつの評価は下がるだろう。だけどな、それをヤツらの縄張りでやると、ギャング団全体の面子が潰れるんだ。少なくとも、ヤツらはそう考える」


 ああ……それはなんとなく想像がつくかも。


 スラムには灼熱の怪鳥以外にも幾つか大きなギャング団がある。勢力は拮抗していて、お互いに牽制しあっているんだ。


 そんな状況で面子を潰されるとどうなるか。下っ端構成員は風見鶏みたいに、ふらふらと所属を変えるから、他のギャング団に寝返ってしまう可能性が高い。そうなると、拮抗状態が崩れて、ますます離反者が増える。負のスパイラルだ。


 だから、縄張りに敵の潜入を許し、団員が脅されたとなると黙ってはいられない。少なくとも、報復のポーズは見せないと、弱腰と見られて離反者がでかねないんだ。


「たしかに厄介なことになりそうですね」

「そうだろ。ギャング団ごと潰すつもりじゃないならやめておけ」


 うーん、たしかに。


 正直に言えば、ギャング団なんてなくなってしまえばいいのにと思うけど、それは僕らがやるべきことじゃないよね。領主の仕事だ。


「でも、このまま放っておくわけにもいかないよ。一度や二度で嫌がらせが終わるとは限らない。今回は阻止できたけど、次もうまくいくとは限らないんだから」

「チュウチュウ!」


 僕が言うと、ビネがポンと自分の胸を叩いた。任せろって言ってるみたい。


「そうか! ビネなら、僕らとの関係性を伏せたままトンガを脅すことができる!」

「チュウ!」

「いや、なんでそうなるんだよ。脅すって発想は捨てろ!」

「チュウ?」

「なんて言ってるかわからねえよ。それでどうやって、脅すんだよ……」

「チュウ……」


 名案だと思ったのにな。


「じゃあ、どうするつもりなの?」

「いや、普通に衛兵を頼りにすればいいだろ。間違いなく犯罪者なんだから」

「ああ、そうか」


 オードさんの言う通りだ。放火犯なんだから、衛兵に突き出せばそれでいいのか。自分たちで何とかしようとって考えすぎていたのかも。


「だけど、衛兵はスラムに関わりたがらないぞ」


 一方で、ルクスは懐疑的だ。実行犯はともかく、黒幕にまで捜査の手が及ばないと思っているみたい。


 その反応は予想していたのか、オードさんも冷静に頷く。


「そうだな。だから、今回は伝手を使って衛兵を動かす」

「へぇ。オードさんにそんな伝手があるんだ」

「ははは、あるわけないだろ」


 じゃあ、駄目じゃん……と思っていると、オードさんは僕を指さした。


「でも、お前にはあるだろ」


 ……え?

 僕にもそんな伝手はないと思うけど。


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