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51. 従魔ギルドの長

「はふぅ。それで、そこのチビちゃんたちは何を騒いでいたのさ?」


 あくび混じりののんびりした声で言うのは、やっぱり子猫だ。


 びっくりして固まっていると、アクラさんがこほんと咳払いしてから、子猫に話しかける。


「ギルド長。みなさんが困っていますよ。まずはちゃんと自己紹介からお願いします」

「仕方ないニャア」


 面倒くさそうに言うと、子猫はテトテトと僕らから少し距離をとる。何をするのかなぁと見守っていたら、天井に向けてフニャアと鳴いた。


 直後、子猫の体に変化が起きた。まるで膨れ上がるようにどんどん体が大きくなっていく。天井ギリギリ、見上げるほどに大きくなった子猫……いや、大猫は僕らを見下ろして言った。


「僕の名前はケルテム。一応、この国の従魔ギルドの長をやってるよ。普段は昼寝をしてるけど、もうおじいちゃんだから許してね」


 ええと……何から突っ込めばいいのかな。猫がギルド長で、おじいちゃん?


 アクラさんを見ると、眉を下げた困り顔で頷く。


「ギルド長は500年を生きられる魔猫なのです。私たちよりお年を召しているというのは間違いないですよ。ただ、体の衰えがあるわけではないので、昼寝はただの言い訳です。気にする必要はありません」

「ニャア! なんでバラすんだよぅ」

「もう少し真面目に働いて欲しいからですよ」

「聞いたかい、みんな。アクラはすぐに僕を働かせようとするんだ。酷いヤツなんだよ!」


 いやいやと首を振る大猫ギルド長。偉い人……いや猫のはずなんだけど、威厳とかはまったくないね。アクラさんとも仲は良さそうだ。


 何だか和むやりとりに、ポカンとしていた双子がソワソワしだした。少しずつギルド長ににじり寄っていく。


「あっ、おい!」


 気づいたルクスが制止するけど一足遅い。双子はガバっとギルド長に抱きついた。


「すごーい!」

「もふもふ!」

「おい、失礼だろ!」

「だ、駄目だって!」

「あーいいよいいよ。チビちゃんたちはみんなこんなものだから」


 僕とルクスで双子を引き剥がそうとするけど、ギルド長は気にしなくていいとそのままにさせた。おおらかな猫みたいだ。


 ライナとレイネが落ち着いたところで、ギルド長が話を戻す。


「で、結局、用件はなんだったの? そっちの子の登録かな?」

「チュ、チュウ……」


 大猫のギルド長から視線を向けられ、ビネが身を竦ませる。そういえば、さっきから静かだね。まるで蛇に睨まれた蛙みたい。


 猫とネズミだものね。やっぱり、種族的な相性とかあるのかな?


「あー……このままじゃ話しづらいかな。チビちゃんたち、ごめんねー」


 ひと声かけると、ギルド長の体が縮みはじめた。最初の子猫サイズに戻って、レイネとライネの腕の中に収まる。


「チュウ……!」


 助かったぜ、みたいな仕草でビネが額の汗を拭うような仕草を見せた。僕にはわからないけど、やっぱり威圧感みたいなのがあったのかな。


「それで、キミ。この子たちの従魔になる気があるの?」

「チュ! チュチュウ!」

「へぇ。悪くない関係を築いているみたいだね」


 ギルド長は、ビネの言葉がわかるみたいで、直接従属の意志を確かめているみたい。ビネが何といっているのかわからないけど、ギルド長の様子からして感触は悪くなさそうだ。


「ふんふん。従魔登録しても問題なさそうだね……でも、それなら何を騒いでいたのさ」


 ギルド長がこくんと首を傾げる。ライナとレイネ、どちらがビネの主人になるか言い争っていると伝えると、ギルド長はくすくすと笑った。


「なるほどね。ビネはずいぶん人気があるみたいじゃない。良いことだね」

「チュウ、チュチュウ!」

「うんうん。中には従魔を奴隷みたいに考えてるヤツもいるからね。良い出会いだったと思うよ」


 ギルド長がしみじみ語る。


 なんでも従魔を使い捨ての労働力のように扱う者もいるらしい。そういう人たちは、ギルドに加入させない決まりらしいけどね。あとから発覚した場合には、罰を与えて除名処分になるみたい。


 もちろん、僕らもビネのことを奴隷だなんて思っていないよ。新しい家族みたいなものだ。


「ええと……ちびちゃんたちが納得する方法を考えるんだったっけ。どっちかが主人になってもこじれるよね……そうだ!」


 ギルド長が体の前でポンと前脚を叩いた。ねこだましみたいな感じだ。


 それはともかく――


「商会を作ればいいよ!」

「ああ、なるほど。それは良いかもしれませんね」


 ギルド長の提案は予想外な内容だった。アクラさんは理解できたようだけど、僕にはピンとこない。


「どういうことですか?」

「どうもこうもそのままの意味だけど。あのね――」


 ギルド長の説明によれば、従魔はギルド員の隷下として登録する以外にも、商会に所属するという形でも登録できるんだって。もちろん、商会に従魔ギルドのギルド員が数名所属していることが条件だけど。


 この場合、従魔は商会所属。つまり、商会員と対等な関係と見ることができる。まぁ、あくまで書類上のことで、実態に大きな違いはないんだけど。


 ただ、ビネを家族と見るなら、こちらのほうが自然な関係性に思える。双子が喧嘩せずにすむし、悪くない提案だね。


「でも、それなら商会を立ち上げないと駄目ですよね?」

「それはそうだね」


 尋ねると、ギルド長はあっさり頷く。けど、商会の立ち上げってそんな簡単なものなのかな? まぁ、そのあたりはエッダさんに相談すればどうにかなるかも。


「前向きに考えてみます」

「うんうん。それがいいニャア」


 ギルド長がニッコリと笑う。


「でも、そうなると、今日は従魔登録できませんね」

「正式な登録は商会立ち上げ後になるけど、仮登録証は出せるよ」


 冒険者ギルドでも仮登録はしてあるけど、従魔ギルドで審査を受けるとほぼ正規登録と変わりない扱いになるみたい。商会立ち上げ後には、そのまま正規登録に移行できるので、是非受けるように勧められた。


「それじゃあ、お願いします」

「うんうん。せっかくだし、僕が見てあげるよ。その子、なかなかおもしろそうだからね。特に戦闘試験とかね」

「チュウ!?」


 楽しげに笑うギルド長の視線に、ビネがビクッと体を震わせる。


 おもしそうって……もしかして、因子のこと、見抜かれてる?


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