50. ビネの従魔登録
ロックスネーク討伐によって、僕らに対する見る目が変わったかと言うとそうでもない。運搬作業を手伝ってもらった人たちから話は伝わったはずなんだけどなぁ。まぁ、実際に戦うところを見たわけじゃないからそんなものなのかもしれない。
僕の場合、あいかわらずギタラの子って認識されてる。まぁ、別にいいんだけどね。
ロックスネークの件はそれでいいんだけど、他にもやっておかないとならないことがある。それは、ビネの従魔登録だ。
「チュッチュ、チュウ!」
「はいはい。大人しくしててね」
「従魔ギルド、どこー?」
「見つからなーい」
「この辺りのはずだが……あ、あれじゃないか!」
僕らが歩いているのは冒険者ギルドから続く大通りだ。ルクスが指さす先には簡略化された竜が描かれた看板。聞いていた通りの従魔ギルドのマークだ。
建物は結構大きい。もしかしたら冒険者ギルドより大きいかも。ギルド員はかなり少ないって聞いていたから意外だ。
「「こんにちはー!」」
「あら、いらっしゃい」
双子が元気よく挨拶しながら中に入ると、のんびりとした口調で返事があった。
声の主は入口そばに座っていた眼鏡の女性だ。眼鏡は高級品だから一般庶民で身につけてる人は少ないけど、いないわけではないんだよね。年齢はリッドさんよりも上かな。
彼女の膝には丸くなって眠る子猫がいる。この子猫も従魔なのかな?
「初めて見る子たちねぇ。私はアクラというのよ。あなたたちは?」
「レイネだよ!」
「ライナー! この子がビネだよ!」
「チュウ!」
「あらあら、とっても賢い跳び鼠ね」
アクラさんに自己紹介をしてから、用件を伝えた。まぁビネがいるから、言わずとも察していたとは思うけどね。
「冒険者ギルドで仮登録はしてあるみたいね?」
「はい。早いうちにこちらで本登録をするようにと言われて」
「そうね。街の中で一緒に暮らすなら早く登録したほうがいいわ」
従魔ギルドで登録された従魔は、街の中でも比較的自由が許される。もちろん放し飼いにして良いってわけじゃないけど、飼い主と一緒なら入店を許可してくれるお店は結構あるんだ。もちろん、どんな従魔でもというわけじゃないけど。大きさや賢さ、安全性に応じて従魔ギルドが保証を出してくれるから、それに準じた扱いがされる。
従魔ギルドがそれだけ信頼されているってことだね。もちろん、その分、ギルドとしても責任があるから、審査は厳しいらしいけど。
「では、まず主人を見分けることができるか、試験するわよ。あ、でも、その前に、誰がギルド員として登録するのかしら?」
「あーそうですね……。どうしよっか?」
従魔はギルド員の隷下として登録される。平たく言うと、ギルド員である御主人の名前とセットで登録するってことだね。当然、僕らのうち誰かギルド員にならなきゃいけないんだけど……
「レイネがなる!」
「違うよ、ライナがなるの!」
やっぱりこうなるよねぇ。
「ギルド員となるのに資格はあるのですか?」
「従魔をきちんと従えることができれば、特に条件はないわよ」
ルクスの問いにアクラさんはそう答えた。だけど、少し困り顔だ。
「でも、二人のギルド員が同じ従魔の主人として登録することはできないのよね」
「「えー!」」
双子が不服そうな声を上げる。二人は争うようにビネを抱きかかえると睨み合った。
「ビネは、レイネの従魔になるの!」
「違うよ! ライナの従魔!」
「チュチュ……チュチュウ!」
挟まれたビネは悲壮感たっぷりに頭を振っている。「私のために争わないで」って言ってるみたいでちょっとおかしい。いや、笑ってる場合じゃないけど。
「二人とも落ち着いて。ビネは一旦こっちにおいで」
「チュウ!」
このままエキサイトすると、ビネの引っ張りあいになりかねないので、僕のほうで引き取っておく。ライナとレイネは「ずるい」って言うけど、仕方ないよね。
ビネは意外と素直に僕の言うことを聞いてくれる。変な話だけど、彼とは死闘を繰り広げたので一目置いてくれてるみたいだ。
「さて、どうしたものか……」
ルクスが弱ったという顔で呟いた。僕としても困ってしまう。
双子のどちらかにすれば喧嘩になるだろうし、代わりに僕がと言っても納得しなさそうな雰囲気だ。とはいえ、従魔登録しないってわけにはいかないし。
自然と僕らの視線がアクラさんへと向いた。
「何か、いい方法はありませんか?」
「そうねぇ」
アクラさんも困り顔で首を傾げる。
そのとき、彼女の膝で寝ていた子猫が目を覚ましたみたい。子猫はぴょんと膝から飛び降りると伸びをする。その様子に僕らはちょっと和んだ。
ただ、アクラさんだけは違った。自然な態度で子猫に話しかけたんだ。それ自体がおかしなことだとは思わないけど……
「あら、ギルド長、お目覚めですか。ちょうど良かった」
キルド長?
変わった名前だね……?
僕がそう思ったのも当然だと思う。だって、どう見ても子猫だもの。
だけど、従魔ギルドの子猫が普通の存在なわけがなかったんだ。
子猫は半眼で僕らを見回したあと、やれやれと首を振る。直後、聞き慣れない声がした。
「まったくもう、騒がしいなぁ。これじゃおちおち昼寝もできないよ……」
……え、今の誰の声?
まさか、この子猫が喋ったの!?




