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49. 神の寵児(オード視点)

「岩の鎧ごと、断ち切った……だと。まだ見習いが?」


 アダン爺が信じられないものを見たという様子で呟く。隣のレンサーなんて口を開けたままぼけっとしてやがる。笑えるくらいの間抜け面だ。


 まあ、気持ちはわかるけどな。アイツら、まだ冒険者になって一月くらいだぞ。しかも、実際に活動を始めたのは2週間くらい前からだ。それが討伐にはCランク以上が推奨されるロックスネークを倒してしまったんだからなぁ。


 正直なところ、俺でもロックスネークの相手はキツイ。パーティ全員が揃っていたらギリギリってところか。それをまさか、ロイたちだけで倒してしまうとは。


 しかも、かなり余裕そうだしな。実際に戦ったところを見たわけじゃないが、様子を見ればわかる。ロイなんて最初は“大袈裟だな”って顔をしてたからな。途中から“もしかして大事なのでは”と気づいたみたいだが。判断が遅い……といかちょっとズレてるんだよな、アイツ。


「オードは、あまり驚いていないな」


 レンサーが俺の様子に違和感を覚えたらしい。訝しげに俺を見た。


「驚いてないわけじゃないが、まぁこれくらいやってもおかしくはないと思ってるからな」

「知ってたのか?」

「ある程度はな。少しだけ探索に付き合ったこともある」


 まぁ、それでもここまでとは思ってなかったが。魔法の威力も上がってるよな、あれ。また何かやったな、アイツら。


「あれで見習いって……本人たちは納得できるのか? ロックスネークを真っ二つにできるって、Cランク以上の実力があるだろう」

「いや、しかしな……」


 レンサーの疑問に、アダン爺が苦しげな表情を見せる。まぁ、年齢制限は全ギルド共通の話だ。アダン爺の裁量でどうこうできる話ではないしな。


 それにしてもレンサーのヤツ、極端すぎるな。


 ロイたちの魔法の腕はかなりものだ。因子のおかげもあるだろうが、使いかたもかなり上手い。イリスが唸るくらいだからな。攻撃面に関して言えば、確かにCランク以上と言ってもいいかもしれない。


 ただし圧倒的に経験が足りていない。守勢に回ることもあれば、連戦を強いられることもある。それが冒険者だ。そういう経験を積むことなく、上位ランクに上がったところでろくなことにはならない。


 まぁロイたちは少しくらいもてはやされたところで自分たちのペースを崩すようなヤツらじゃなさそうだが、一応、釘を刺しておくか。


「まぁ待て、レンサー。アイツらが規格外なのは確かだが、Cランク以上ってのは言い過ぎだ。ロックスネークに関して言えば、ロイの能力が刺さった……相性が良かったってところだろ」

「しかし、岩の鎧ごと切り裂いていたぞ」

「あれだって、ロックスネークが生きてりゃまた違う結果になっただろうよ。動かない死体だからできたことだ」

「それは……まぁ、そうか」


 レンサーも納得したらしい。


「アイツらに関しては本格的に冒険者になるかどうかもわからん。そうと決めるには早いだろ、あの歳じゃ」

「たしかにな。あの才能があれば、あえて冒険者としての道を選ぶ必要もないか」


 アダン爺も頷く。まぁ、ロイは権力者を警戒しているようだったが、それを差し引いても選べる道は多いほうがいい。まぁ、冒険者になったから他の道を断念しなくちゃならないってわけじゃないがな。


「ギタラ奏者としても一線級だしなぁ……」


 レンサーが苦笑いする。ホント、それな。腕前もそうだが、いったい、どれだけの曲を知ってるんだよ。


「なぁ。ロイって神の――あ、いや、なんでもない」


 レンサーが言いかけたのは、神の寵児ではないかということだろう。


 子供の頃からどこで知ったのかもわからない様々な知識を持ち、周囲を驚かせるヤツが極稀にいる。それが神の寵児だ。良くも悪くもやることが派手で、信じられないような偉業をやってのけるヤツがいる一方、とんでもないことをやらかして討伐されるようなヤツもいる。


 だが、そんなことはどうでもいい。ロイはロイだ。レンサーが言葉を飲み込んだのも、同じ考えだからだろう。


 まぁ、たとえ神の寵児だったとしても、ロイなら人に仇なすような生き方はしないだろ。ルクスたちと仲良く笑っている姿を見るとそう思うぜ。


「まぁ、本人たちが何か言わない限り、見習い扱いのままで構わないんじゃないか。アイツらは特別扱いを望まないだろ。ただまぁ、実力はあの通りだ。今回みたいなときにはちゃんと話を聞いてやったほうが話は早いかもな」

「あ、ああ。そうだな」


 最後まで疑っていたアダン爺が気まずそうにしている。まぁ、こればっかりは仕方ないだろ。実際見なきゃ信じられないぜ、こんなの。ロイの恩寵を知らない限りはな。


「くくく」

「……なんだ?」

「いや、なんでも?」


 いつまでも呆然としているアダン爺の様子がおかしくて笑ったら、思いっきり睨まれてしまった。まぁ、それくらいのほうがアダン爺らしくていいぜ。


「ま、とんでもないヤツらだが、まだ子供だ。何かあったときに手を差し伸べられるように気をかけておいてやろうぜ」

「おう! ま、俺たちの師匠でもあるしな、ロイは」

「ギタラか。儂も習ってみるかな」


 お、アダン爺がギタラか。だが、さすがにそっちなら俺も負けないぜ。


 ま、それはともかく今後だな。ロイたちに絡んでたヤツら、まさかアイツらもスラム出身だよな。何か因縁があるんだとしたら、これで終わらない可能性がある。もしもの時には、ロイたちの力になってやらないとな。

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