46. 思ったよりも大騒ぎ
「ビネ、おいで〜」
「チュウ!」
「ビネ、こっち〜」
「チュチュウ!」
ライナとレイネの間をネズミがちょこちょこ移動する。すっかり馴染んでるね。いつの間にか名前までついてるし。
家族会議の結果、ビネは街に連れて帰ることになった。ライナとレイネがどうしてもって言うからしょうがないね。
跳び鼠は一応魔物だけど、危険性はほとんどない。街に連れ帰って問題にはならないはずだ。数は多くないけど、人に従う魔物もいるからね。
そういう魔物は従魔と呼ばれて、街への立ち入りも許可される。もちろん、小型でおとなしい魔物に限られるけど。ビネは僕らの言葉がわかるみたいだし、従魔登録さえすれば、問題なく街への滞在を許されるはずだ。
問題は僕らが宿暮らしってことなんだよね。衛生問題とかあるし、リッドさんが嫌がるかもしれない。まぁ、それについては実際に話を聞いてみないとね。
まぁビネのことはそれでいいとして。
「ロックスネーク、どうやって運ぼうか。ルクス、運べる?」
「水球でか? さすがに厳しいな……」
跳び鼠5匹を運んだルクスでも、ロックスネークを水球で運ぶのは難しいみたい。あれから“魔法の才能”も“魔法適性:水”もレベルが上がったんだけど、それでも厳しいのか。
まあ、思った以上に大きいからね。ロックスネークの全長は、僕ら全員の背丈を合わせても足りないほど長い。たぶん10m以上ある。当然、重さも相当なものだ。
「応援を呼んでくるしかないかな」
「そうだな。俺たちはここで待ってるから、行ってくれるか? ロイが頼めばみんな手伝ってくれるだろ」
あ、うん、そうかも。演奏会のおかげで妙に知名度が上がっちゃったからなぁ。冒険者と交流するという狙いは達成できたけど、なんか思ってたのと違った。僕のこと、冒険者じゃなくてギタラ奏者だと思ってる人もいるし。
今回のことは、僕がちゃんと冒険者だってことを認識してもらう良い機会かも。
「じゃあ、急いで行ってくるね!」
「ああ、頼む」
ルクスに見送られて、街に戻る。こういうときは因子の“ちょこまか動く”が便利だね。走るのがちょっぴり早くなるから。
「アダンさん!」
「ロイか。どうした」
ギルドに着いた僕は、まっすぐにアダンさんのところへ向かった。だって、誰に相談すれば良いかわからなかったから。あと、ついでにハグレ魔物についても報告しておかないと。
「実は跳び鼠狩り中に、ハグレ魔物に遭遇したんです」
「……どんな魔物だ?」
「ロックスネークです」
「レイデン周辺で目撃されたヤツか!?」
レイデンというのはお隣の街だ。隣と言っても、駅馬車で2日かかるらしいけど。ちなみに、僕らの住んでいるこの街はブルスデンっていう名前なんだって。
「ルクスたちはどうした! まさか……!」
アダンさんは立ち上がると、表情を険しくする。悪い想像をしたみたい。僕は慌てて否定した。
「いや、みんな無事ですよ! 今は、ロックスネークを見張っていて……」
「見張りだって!? 馬鹿なことを! アイツは見習いが手に負えるようなヤツじゃない! 何故、すぐに逃げない!」
アダンさんが大声で僕を叱る。そのせいで、ギルドにいる人たちの視線を集めることになっちゃった。
しまったな。ちょっと説明を間違ったかもしれない。
どうしよう。この雰囲気の中、言い出しにくいんだけど……。でも言わないわけにもいかないしな。
「あの……大丈夫ですから。ちょっと落ち着いてください」
「落ち着いている場合か! すぐに討伐隊を組織しなければならん!」
「え、いや、その必要はなくて……」
「ないわけないだろ! ロックスネークだぞ!」
え、ええ?
なんか思ったよりも大騒ぎになったぞ。ロックスネークってそんなに危険な魔物なの?
「まぁ落ち着けよ、アダン爺。まずはロイの話を聞こうぜ」
「オード! お前まで何を悠長な!」
「いいから、ロイを見ろよ。危険があるならもっと慌ててるはずだ」
「む……?」
何処にいたのか――たぶん酒場だと思うけど――いつの間にかオードさんが横にいて、アダンさんを宥めてくれた。これでようやく話ができそうだ。
「それで、ロックスネークがどうしたって」
「えっと……偶然遭遇したので、逃げるのも危険かと思って……倒しました」
オードさんが続きを促してくれたので、その流れに乗って話す。
二人の反応は対象的だった。
「まぁ……そうじゃないかと思った」
結果を予想していたのか、オードに驚きはない。ただ苦笑いを浮かべている。
一方、アダンさんは呆然の表情だ。
「……倒した? 誰が?」
「ええと……僕たちが」
「……は?」
アダンさんは力が抜けたみたいで、ストンと椅子に腰掛けた。でも、すぐに首を振って疑問を口にした。
「いやいや、馬鹿な。ロックスネークだぞ。別の魔物と勘違いしてるんじゃないか?」
「どうでしょう。僕の何倍も長い大蛇で、体にゴツゴツした岩を纏ってましたけど」
特徴を告げると、アダンさんは何とも言えない表情でしばらく固まった。ようやく動き出したかと思うと、どうにか絞り出したって感じの掠れ声で同意する。
「それは……ロックスネークだな」
「ですよね」
良かった。これで勘違いだったら、恥ずかしい思いをするところだったよ。
「しかし、ロックスネークだぞ……?」
ただ、アダンさんは納得できたわけじゃないみたい。まだ、何かブツブツ言っている。
この状況を収めたのは、オードさんの一言だった。
「とりあえず実物を見に行こうぜ。ここで話してても仕方がないだろ」
そうだね。それが早そうだ。




